表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーレンス大陸史  作者: 新参猫
第一章 種間戦争
9/52

第七項 猫の伝令

川に着くとさっさと鎧と服を脱いで水に飛び込んだ。

まだ春先なので水が冷たく感じるが運動後なのでかえって心地よく感じる。


五分程水を浴びて満足したので岸に上がると、

一匹の猫がこちらを向いてニャアと鳴いた。


「何だ?猫殿も沐浴か?」


ふざけて猫に話し掛ける。

すると予想外なことに俺の頭の中に直接声が

響いた。


『そんなわけないでしょう?私は温めのお湯に入ってのんびりする方が好きなのよ』


「今俺に話し掛けているのは目の前の猫殿か?」


『ええ、そうよ?それと私はルナ・ハルムローグ。ルナと呼んで下さいな』


ルナは尾を揺らして答えた。

中々愛嬌のある猫だな。


「そうか、色々話したいがまず服を着てからでいいか?」


『ええそうして頂戴。もし私が発情期だったら既に襲っていたでしょうけど』


さっさと服と鎧を着て腰に剣を挿す。

いつ襲われるか分かったもんじゃない。

首を掻かれて死ぬのは御免だ。


「猫に襲われるほど落ちぶれてはいないけどな」


大剣を背負いながら答えるとルナは残念そうに目を閉じて俯いた。


『あら、失礼な人ね。ならこの姿でどう?』


「は?」


ルナがサッとジャンプをすると、猫がいた位置に猫の耳と尻尾が生えた少女がクスクスと笑いながら立っている。

俺は開いた口が塞がらなかった。

猫が人間に変身するなんてルルノーン童話でしか聞いたことがない。


「魔術か・・・。あんたフォルスだったのか」


「残念ながらハズレよ。ジャルジュでも魔術を使えるものはいるわ。まぁ殆んど居ないけれど」


コロコロと笑って指を口元に当てた。

そんな日常的な仕草でさえも妖艶に見える。

まるで女王陛下のようだ。

どこの国のとは言わないが。


「これでも襲われない自信はあるのかしら?」


「無い。こんな可愛いい娘に襲われるなら

大歓迎だ」


そう答えるとルナは目を丸くしていたが

やがて嬉しそうに目を細めた。


「フフッ、サピエにしては随分欲望の忠実な方ね」


「直ぐに襲わなかっただけましだと思ってくれ。で、あんたはメルフィの手先か?」


「もしそうなら貴方、今頃首が無くなっているわよ?」


物騒だな。

沐浴の時にも警戒しなきゃならないのか。

内地に戻りたい。


「なら、テヨンの保護者か?もしそうならあいつは暫く借りるぞ」


「保護者ではないけれど、まぁいいわ。

あの子を貸すのは別にいいけど、テヨンに明日

頭領が来るとだけ伝えておいて頂戴。それでは

ごきげんよう」


ルナは手をヒラヒラと振り森の暗闇に溶けるように姿を消した。

こうも、変な来客が続くと安心して眠れやしない。

それに明日頭領とやらがくるらしい。

急いでテヨンに伝えてやらないと。


ЖЖЖ


「青いの、今なんて言った?」


「青いのじゃないシュドムだ。ルナって奴に明日頭領が来る事をお前に伝えろって言われたんだよ」


テヨンの持ったコップが震えて、中に入った酒が溢れそうになっている。

歯をガチガチならしながらテヨンは青い顔を上げた。


「なあ青いの。俺達仲間だよな」


「いきなりどうした?」


テヨンは必死に額を地面に擦り付けている。

いわゆる土下座だ。

出会ってその日で土下座されるのは流石に初めてだな。俺は悪くないぞ!


「頼む!助けてくれ!俺頭領にシバかれる!」


「いいじゃねぇか、少しは反省しとけクソガキ」


ザックがゲラゲラ笑いながら言っている。

昼間の事があるのでテヨンはギクッとしたようだが直ぐに立ち上がって机をバンッと叩いて抗議した。


「うるさいのは分かってない!頭領は本当に怖いんだ!」


「そうかよ。まぁいざとなったら俺も一緒に頭下げてやるよ、同じ肉食った仲だしな」


「本当か!?うるさいの。お前優しいな!」


「そう思うんだったらいい加減ザックと呼べ!」


「ハイハイ、喧嘩は後にしてね。ほら余ってたお肉持ってきたよ」


ニコニコしながらユルナスが肉を持ってきた。が、何故か一枚しかない。


「ユルナス。何で一枚だけ?」


「そうだそうだ。俺達は一枚づつ頼んだはすだぞ?」


二人の苦情を聞くとユルナスはニコーッと笑って言った。


「友好の印に分けあって食べてね。仲良くね?」


あんぐりと口を開けている二人を放置してユルナスは別のテーブルへと駆けていった。

テヨンとザックは顔を見合わせると溜め息をついた。


「なあテヨン。どうするよ?」


「ザックが肉を二つに切ってくれ。そのあと俺が好きな方を選ぶ」


「名案だな!それじゃ見てろよ?

秘技【等分切り】!」


何だそれ、とテヨンは笑ってみていた。

だが二つに切り分けられた肉は確かに平等になっている。

テヨンが目をパチパチさせるのを見てザックは

自慢気に笑った。


「これぞ裏通りの秘技。部下が肉の大きさで喧嘩しないよう、とあるゴロツキが編み出した技だ」


「スゲー!今度教えてくれ。これならジャルジュの喧嘩が殆んどなくなる!」


「そんな事で喧嘩してんのかよ!」


二人は仲良く肉を頬張るとカラカラと笑った。

もう喧嘩の心配は無いだろうし、俺は先に寝るか。


見付かると面倒なのでゆっくりと出口に向かうと後ろから肩を叩かれた。

驚いて後ろを見ると逃がさないと言いたげに

アジャスがニヤニヤして立っている。


「大将。どこ行こうってんだ?まだ話したいことがあるんだがな?」


「俺は眠いんだ。だから寝る、じゃあな」


振り切って逃げようとすると真面目な声で

アジャスが囁いた。


「なあ大将。今日の敵、何か変じゃなかったか?」


真面目な話ならそう言え。

うちの部隊の連中は、どうして最初から

真面目に出来ないんだ。


「・・・詳しく話せ」


「俺が敵を切り殺したあと首を落としてるってのは知ってるよな?今日も同じことをしようとしたんだが、奴ら死んでから時間がたつと消えちまったんだ」


相変わらず首をコレクションしているのか。悪趣味なのは牢獄を出ても変わらないな。止めないけど。


「何だと、鎧はどうなった?」


「鎧は残ってんだよ。どうも変じゃないか?」


「確かにな。一応覚えておこう」


「あぁそうしてくれ。それじゃ引き留めて悪かったな」


「いや、むしろありがたい。いい情報だった」


それだけ伝えて寝室に向かった。明日は忙しそうだしな。早く寝よう。

このあと直ぐに寝室に戻ってベッドに寝転んだが、妙に胸騒ぎがして中々寝付けなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ