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ユーレンス大陸史  作者: 新参猫
第一章 種間戦争
6/52

第四項 獣の如く

―――30分前


第一部隊を引き連れて林道を歩いていると

前方に味方ではない兵士が見えた。重装備に

身を包んでゆっくりと歩いている。


「総員構え!」


手を挙げて合図の準備をする。

背後からの殺気が最高潮に高まった瞬間。


「殺れ!」


手をバッと降り下ろし、合図をした。


「「うぉぉぉぉお!!」」


雄叫びと共に兵士達が突撃した。

完全に不意打ちだったようで相手は武器を

構えてすらいない。

無抵抗の敵を兵士達は次々と葬っていく。

聞こえるのは叫び声と倒れた兵士の鎧が立てる

ガチャガチャという金属音だけだった。


「さて、これなら勝てるか」


少し戦場から離れて見ている限りとても優勢だ。

北を滅ぼした連中にしては弱い。

と言うことはフォルスの雑兵か。

何だ、あてが外れた。


そんなことを考えている折に突如背後から

剣が振るわれた。


「おっと」


間一髪大剣で受け止めると空いた左手で

腰に差した剣を引き抜き相手に突き刺した。

実に癖になる感覚だ。


「チッ、背後に既に敵がいるのかよ」


剣を引き抜いて止めを刺すと、辺りを見回した。

分かりづらいがほぼ全方向に気配を感じる。

どうやらいつの間にか囲まれていたらしい。


ヤバいこれは本当にヤバい。

しょうがない殺人モード解禁するか。


「血に酔った殺人鬼共!至るところに獲物がいるぞ早い者勝ちだ!喰らい尽くしてやれ。」


「「うぉぉぉぉお!!」」


再び雄叫びが上がり、敵の悲鳴が先程よりも

増えた。


ある者は鈍器で頭を打ち砕き

ある者は剣で鎧を切り裂き

またある者は素手で兜を叩き潰している。


最早理性の欠片もなく己の望むままに殺戮する

様は魔物と何も変わりはしない。

まさに地獄のような光景だった。

人間離れした兵士に敵も恐れをなしたのか

徐々に後退していった。


このまま攻めれば勝てる

そう思った矢先だった。


「シュドム!角笛を鳴らせ!」


強襲に向かったはずのアンセルが木から

飛び降り、息を切らしながら叫んだ。


「どういうことだ!今攻めれば勝てるぞ」


「罠だ!強襲しに向かったけど、あいつら化物を連れてきてる!」


「化物だと?」


「見た目は僕らと同じだよ、頭に狼の耳がついてる事を除けばね。そいつら素手で大木をへし折ってた!北はフォルスに滅ぼされたんじゃない!奴らに滅ぼされたんだ!」


「角笛を鳴らしてどうする?第二部隊を犠牲にするのか!?」


「違う、彼等なら戦いなれている分無駄に攻めない。守り慣れてるんだ、だから彼等が時間を稼いでいる間に町の人を逃がそう!」


「ちょっと待て。そもそもそんな化物本当にいるのk―――。」


ドンッと近くの木に何かがぶつかった。

見ればそれは第一部隊屈指の殺人鬼だ。


「おい!どうした」


「た、大将助けてくれ・・・。」


そう言って彼は動かなくなった。

いても立ってもいられず、角笛をアンセルに

放った。


そしてそのまま戦場に飛び込んだ。


「俺が殿をやる!第一部隊撤退しろ!」


「大将!俺もやる」


「お前がいると大剣が思うように振れない!先に行け」


一瞬たじろいだが、すぐに敬礼しその兵士は

走り去った。

後に続くようにして他の兵士も逃げていく。


「さて怪物殿とご対面だ」


目の前にはアンセルに聞いた通りの者がいた。

一見普通の少年だが頭には狼の耳がついてる。

しかし理性が無いようには見えない。


「戦う前に質問だ、お前らは一体なんだ?」


半分賭けで質問をすると、驚いたような顔をして

化物はこちらに向き合った。


「質問するなんて変な奴。俺等は道具でしかない。創造主様は俺等のことをジャルジュと呼ぶ。これで答えになったか?」


「ジャルジュか・・・」


後方から角笛が鳴り響いた。どうやらアンセルが

鳴らしたらしい。

後数分でレティア達が来る。


それまで何とか時間を稼がねば。


「何故この町を攻めたんだ?」


「女神様が逃げてきた。だから助けたくて来た。皆心配してる」


「女神ってユルナスのことか?」


「そうだ。何処に居る?教えろ教えろ教えろ

教えろぉぉぉぉお!!」


叫び声と共に飛び掛かってきた。

咄嗟に大剣の腹で弾き飛ばそうとしたが、大剣を

弾き返され逆に此方が吹っ飛ばされた。

何とか受け身をとり、態勢を建て直すが、

今度は追撃として身の丈を越える岩が飛んできた。

地面に大剣を突き刺し、それを盾にして何とか

岩をやり過ごすと森のなかに逃げこんだ。


「逃がさない!」


対する化物は地面に刺さっていた大剣を引き抜き

投げつけた。

投げられた大剣は木を何本も斬り倒しながら

シュドムの目前に突き刺さった。


「出鱈目過ぎるだろ!どうなってる」


大剣を引き抜き再び走り出すと待っていたかの

ように足元に大木が飛んできた。

直撃は免れたものの盛大に転ぶはめになる。


「痛てて」


起き上がろうとすると目の前に敵の足が見えた。


「もう一度聞く。女神様は何処に居る。教えろ」


「知ってどうする?」


「連れて帰る。いないと寂しい」


「あいつがそれを望んでなくてもか?」


「望んでるから。連れて帰る」


「望んでるって誰に聞いた?」


「創造主様。あの方が言ってた。」


何となく話は読めた、要するに創造主がユルナス

が逃げたのを捕まえるために適当な理由をつけて

ジャルジュ?を使ったわけか。

だが、先に戦った兵士は一体なんだ?


「何か言え。もうそろそろ我慢の限界。教えて死ぬか。教えないで死ぬか。決めろ」


死ぬしかないか無いじゃないか!

死を覚悟して目を閉じた時、凛とした声が森に

響いた。


「やめなさい!テヨン!」


目を開けるとレティアに守られた

ユルナスが立っていた。


「女神様!見付けた。一緒に帰ろう。皆待ってる」


先程とはうって変わって年相応の無邪気な表情を

見せた。


「テヨン、少し話そう?」


「話すのは好き。何を話す?」


「色んな事よ」


「分かった。青いの命拾いをしたな」


「青いのじゃないシュドムだ」


そんな事はどこ吹く風というようにテヨンは

ユルナスの足元に座った。


シュドムは起き上がると鎧に付いた土を払った。


「死ぬかと思った・・・」


「生きてて良かったですね」


布でシュドムの顔を拭きながらレティアが

言った。

傷口も容赦なく拭いてくる。

ありがたいがとても痛い。


「痛ててて」


「勝手に死に損なった罰です。ほらキレイになりましたよ」


「悪いな、そうだあいつを運んでやらないと」


「誰か怪我でもしたんですか!?」


「もっと悪い。・・・一人死んだ」


「そんな・・・」


二人の間に思い空気が流れた。


「誰が亡くなりましたか」


「ザックだ。ザック・ザンドラ、宴会で音頭をとってたのはいつもあいつだった」


レティアの目から涙が零れる。それを拭って

やるとシュドムは俯いた。


「彼の豪快さは第二部隊の兵士にも定評がありました。中には親方と言って慕っている兵士もいました」


「思えば最初に俺の事を大将って呼んだのもあいつだったな」


思い出話は尽きそうもない。俺の頬にも熱い雫が

流れた。


「仲間の死は何回経験しても慣れないな」


と、その時林道の方から叫び声が聞こえてきた。


「大将!痛えよ!助けてくれ!これじゃ酒も飲めやしねえ!」


思わずレティアと顔を見合わせると

盛大に笑った。


「あの野郎生きてるぞ!」


「流石、第一部隊。殺しても・・・死にませんね!」


「笑ってる場合かよ!頼むよ大将!」


「分かった、今行く」


二人で笑いながら林道に向かうと、

話終わったのかテヨンとユルナスが

こちらに歩いてきた。


「シュドムさん、お願いがあるんだけど」


「何だユルナス?言ってみろ」


「テヨンを町に連れていきたくて」


「恐らく無理だ。だが理由が聞きたい」


「今女神さm――。じゃなくてユルナスから色々聞いた。お前らは、なにも悪くない。悪いのはフォルスだ。だから頭領を一緒に戦うよう説得してくる。その為にサピエの理解が欲しい。俺達は悪い奴じゃないってな」


必死に訴えるテヨンだが、レティアは怒りに

身を震わせていた。

祖国を滅ぼされた恨みがあるのは解るが、

怖いからやめて欲しい。


「一応聞いておくが北の国を滅ぼしたのはお前らか?」


「違う。頭領はあの戦いに反対だった。だから俺達は参加してない。参加したのは魔女の一派だ」


「その魔女の一派とは一体誰の事です?」


そう聞くレティアは怒りのあまり目が見開かれ

強く握られ過ぎた掌から血が滴り落ちている。

さながら獣の如くだ。


「メルフィ達だ。創造主様に従順で仲間殺しも平気でするような連中だ。」


「そいつらは今何処にいるのですか?」


「恐らく―――。」


「大将頼むよ運んでくれ!」


もう限界だと言うようにザックが声をあげた。タイミングの悪い奴め。


「・・・仕方ない一緒に来い」


「冗談でしょう!?何故ですか!」


レティアが信じられないというように声を

あげた。

だがいつものように考え無しという

わけではない。

色々考えた上での判断だ。


「戦ってみて思ったがテヨンは相当な戦力になる。それに俺達の知らないことも色々知ってるしな。気持ちは解るが我慢してくれ」


頭では納得したのだろうが、気持ちの整理が

つかないようでレティアは第二部隊を引き連れて

先にツカツカと歩いていってしまった。


テヨンは寂しそうに俯いた。


「根は悪いやつじゃない。慣れるまで気長に待ってくれ」


「分かった。あいつ運ばなくていいのか?」


「あぁ、忘れてた」


「泣くぞ!?大将!」


「嘘だよ嘘。友好の印としては何だが、テヨンが運んでくれ」


「分かった。おいうるさいの、担いでやるからじっとしてろ」


「おお済まねえな。ってお前はさっきのクソガキじゃねえか!」


仇敵に対して一矢報いるつもりのようだが

残念ながら手足をバタつかせるにすぎない。

我が儘な駄々っ子みたいだ。


「さっきは怪我させて悪かった。お詫びに運ぶから許してくれ」


「ふざけんな!次はぜってえ負けねえからな!

覚悟しとけ」


少年に担がれながら叫び散らす47歳の図。

なんとも言えない面白さがある。

酒の肴にはもってこいのネタだ。


「よし、帰ったら宴会だな!」


「宴会か。旨いもの食えるな」


「いいですね!お肉を一杯食べましょう」


「タダ酒か!さすが大将太っ腹!」


四人は何を食べるか議論しながら町までの

道のりを歩いた。

その後ユルナスの肉の意見が大多数の賛成を

得たのは言うまでもない。

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