表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユーレンス大陸史  作者: 新参猫
第一章 種間戦争
5/52

第三項 角笛と約束

物見櫓ものみやぐらから辺りを見渡すと

確かに西から兵士たちが歩いているのが見える


「よし、林道で迎え撃つ。俺の第一部隊とレティアの第二部隊は正面で食い止め役、アンセルの第三部隊は木上を移動して背後から強襲な?」


「了解です」


「分かった」


「よし各自部隊をまとめて待機させろ」


そう言って俺は地下の兵舎に向かった。


ЖЖЖ


兵舎に入ると、鼻につくアルコール臭がした。

馬鹿共め夜通し呑んだな。

部屋の中は形容しがたい惨状だった。

いたるところに酒樽が転がり、

地べたで寝転んでいる兵士がおよそ30人。

何故か割れている皿が5枚。

一体どれだけ呑み食いしたんだ?

久々の出撃だってのに何やってんだ。


「野郎共!準備を済ませて表出ろ!」


腹の底から声を出して叫んでやると

寝転んでいた奴だけでなく部屋に戻って

休んでいたのまで飛び起きた。

そしてなにも言わず青い顔をして階段を

かけ上がって外に向かった。


列の最後の一人が階段を上るのを確認してから

部屋の中を探索すると案の定

のうのうと寝ている男を見つけた。


「起きろ!アジャス!」


「ん、大将?呑み直しに来たのか?」


「マヌケ!敵襲だ、さっさと起きろ。さもないとお前だけ出撃禁止にするぞ」


「あ?、敵かよ。何でもっと早く言わねえんだよ!」


自分勝手もいいとこだ。これでも第一部隊の

中じゃ一番殺害数が多いんだがなぁ。


「分かったならさっさと表出ろ!」


「おう!」


まるで幼子がピクニックの準備をするように

防具や武器の準備をすると軽やかな足取りで

地上に向かった。

後を追うように俺も階段をかけ上がった。


ЖЖЖ


地上に出ると、酒臭い第一部隊に対して

顔をしかめる第二部隊の兵士と

それを見てゲラゲラ笑っている第一部隊の

兵士がいた。

馬鹿か?お前ら。


先に来ていたレティアがこちらに

詰め寄って来た。


「どうしたら兵士がこんな事になるんですか!?」


「元々牢獄から引っ張り出してきた連中だからな。まぁ予測はしてたさ。それより第二部隊が何で出撃しようとしてるんだ?」


「敵襲があったからですよ」


さも当たり前であるかのように話すレティア。

兵士の疲労状況を考えろ。


「言ってなかったが、先鋒せんぽうは第一部隊に任せて貰うぞ?」


「な!?」


納得がいかないのかさらに詰め寄ろうとする。

が、目眩めまいがしたのか倒れそうに

なった。

レティアを支えてやると消え入りそうな声で

感謝します、と言われた。

こうなったら勝ちだ。俺はニヤリと笑った。


「それじゃ、合図の角笛まで第二部隊はここで待機な」


「本当に大丈夫ですか?実戦経験は此方の部隊の方が多いですよ」


「逆だ、実戦経験が少ないからこそ、うちの部隊は怖いもの知らずなんだよ。なあお前ら!」


「「うぉぉぉぉぉお!!」」


辺りに大地を揺るがすような雄叫びが響いた。

百戦錬磨ひゃくせんれんまの第二部隊ですら

おののく程の気迫に俺は満足気に笑った。


「な?言ったろ」


「はぁ、分かりましたよ。ただし危なくなったら角笛ならして引いてくださいね」


「そうするさ」


そう言って笑うと俺は後ろに振り向いて

自分の隊と向き合った。


「お前らよく聞け!この中にまともな経歴を持ってるやつはいないな?」


「「そうさ!大将!俺達は人間の屑さ」」


言っていることは自虐的だが兵士は皆

晴れ晴れとした表情で叫んでいる。


「そうだその通りだ!だが屑にしか出来ないことがあるよな!」


「「もちろんだ大将!」」


「普通の奴には出来ない、お前らが出来ること。それはなんだ!」


一瞬沈黙が辺りを包んだ。が、その直後兵士達は

各々が右手に持った武器を空に掲げて叫んだ。


「「人殺しだぁぁぁあ!!」」


「よーし、よく言った!第一部隊出撃!一人でも多く殺してやれ!」


「「うぉぉぉぉお!!」」


シュドムを先頭に威勢よく土埃をたてて走り去る

部隊を見送るとレティアは溜め息をついた。


「中央の精鋭と聞いていましたが、まさか怖いもの知らずの殺人鬼集団とは思いませんでしたよ」


第一部隊と入れ替わるようにして今度は

アンセル率いる第三部隊がやって来た。


「何か雄叫びが聞こえたんだけど?」


「第一部隊の叫び声ですよ」


「あぁ、成る程ね。さて第三部隊出るよ!」


第一部隊と違い、第三部隊の兵士はなにも言わず

ただ武器を掲げた。そのまま音もなく

走り去った。


「第二部隊はしばらく待機です。角笛が鳴り次第出ますよ!」


―――およそ30分後。


角笛が辺りに音を響かせた。

その直後、第一部隊が続々と帰還してくる。


レティアはそのうちの一人を捕まえて聞いた。


「何があったのですか?」


「化物が出たんです!見た目はガキだが、頭に狼の耳がついてる奴です!野郎バカみたいに強くて」


「シュドムは何処です?」

「大将は一人で殿しんがりを・・・」


この時レティアは酷く後悔した。

こうなることは正直予測できていた。

前回戦ったときも彼は一人で殿を

引き受けていた。


「第二部隊!出撃しますよ!」


もはや一刻の猶予も無い、彼が死ねばこの町は

守りきれない。

この町が落ちれば中央は落ちたも同然だ。


そんな緊迫している時だというのに町の門に

差し掛かったところでユルナスが飛び出してきた。


「何をしているのです!ここは危険です、戻ってください」


「私もついていく!今来ている化物に心当たりがあるの!もし私の知ってるものなら私が止められる」


「ダメです。と言いたいですが、貴女あなたを一人で戻すわけにはいきません。私から離れないようについて来てください」


「うん!ありがとう」


どうか間に合ってくれ

レティアはそう願わずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ