第二項 会談兼お茶会
コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
「フォルスの投降者、ユルナス・リー殿をお連れしました」
「入ってくれ」
「失礼します」
入ってきたのはとても綺麗な少女だった。
長く銀色の髪を緩く結んでおり
表情も穏やかな印象を受けた。
「何鼻の下伸ばしてるんですか!」
パンッと今度は素手で叩かれた。
「痛て、嫉妬してくれるのは嬉しいが後に
してくr―――。グボッ!」
今度は右ストレートが飛んできた。
しかも赤面のオプション付だ。これは嬉しい。
だが痛い。
そのままリンチが始まった。助けろ誰か!
「えっと、そのどうしましょう?」
「その二人なら放っておいていいよ。何時ものことだから」
ユルナスがオロオロしているとアンセルがお茶を
持ってきた。慣れているのか彼は落ち着いて
いる。いや、助けてくれよ。
「冷めないうちにどうぞ」
「ありがとう、えっとこれは何」
「これかい?これはシーナっていうお菓子でね、今鍛冶屋の娘さんが持ってきてくれたんだ。お茶請けに丁度良いから持ってきた」
「へぇー食べても良いの?」
「どうぞ、ほらそこの馬鹿夫婦、お客さんが食事するんだから埃たてないで」
「分かりました。あと夫婦じゃないです」
「負けた、疲れた、腹減った」
「報告は要らないよ。ほら早く座って」
ユルナスは初めて見るお菓子を暫く眺めていた
が、やがて意を決して口にした。
そして数秒で
目を見開いて言った。
「凄く美味しい!」
「それは良かった、娘さんも喜ぶよ」
「これってどうやって作ってるの?」
「あぁこれはね、ラクロの実をくり貫いた後に好きな果実のジャムを入れるんだ。今回はヘノモの実のジャムだね。
で、その後溶けた砂糖で表面をコーティングしてるんだ。だから最初パリッとしたでしょ?」
「うん、した!」
「外はパリッ中はトローリってな。レティアはこれ好きだよな?」
「ええ大好きです、なので貴方のを一つ頂きますね?」
言い終わるよりも早くレティアは俺の皿から
シーナを一つ口に入れた。
「あ、やりやがったな!」
「会議中に寝ていた罰です」
「正論過ぎて反論できない・・・」
一連のやり取りを見てユルナスはクスクスと
笑った。笑い事じゃない、死活問題だ。
「フフ、二人とも面白いね?」
「見てるだけならね、時々仲裁しなきゃいけないから面倒なんだよね」
雰囲気が和やかになった所でアンセルが話を切り出した。
「そういえば、ユルナスは何で投降したんだい?」
一瞬体を強ばらせたが、俺が自分の皿からシーナ
を彼女の皿に移すとゆっくり話しはじめた。
「えっと、始祖様が居なくなってエッカがリーダーになったの。それから皆おかしくなって、だから逃げてきたの」
「始祖様って?」
「始祖様は始祖様だよ。皆そう呼んでる」
「それじゃあエッカっていうのは?」
「エッカ・ボッカ。フォルスの中では二番目に偉かった」
「そいつが黒幕か」
黒幕が分かったところで本拠地に乗り込む
作戦もない、ましてや兵力もない。
根性とヤル気はあるんだがなぁ。
「勝率も無さそうだしな」
「何がですか?」
「フォルスの本拠地に殴り込み大作戦☆」
「アホですか?」
剣もほろろとはこの事だ。
もう少しいい言い方は無いのか?
まぁ本気で言ってないしな
気にしないことにする。
「流石にそこまでアホじゃない。今俺らが居なくなると中央まで取られることになる」
「え?中央までってどういうこと?」
ユルナスはキョトンとした表情で聞き返した。
その反応に流石の俺も眉間に皺を寄せた。
「知らないのか?北はフォルスによって壊滅的な被害を被ったんだ」
「おかしいよ、フォルスはここ最近一部を除いて国外に出ちゃいけないんだよ?国はおろか町一つ落とせるわけない」
ユルナスが身を乗り出しながら更に言い返す。
「そんな筈はない。現に焚き火の跡とか煙が上が
っているのが確認されてる」
「それこそおかしいよ!フォルスは森を大切にする民だよ?木を燃やすなんてする筈がない」
ユルナスが机をバンッと叩くとメキッという
嫌な音がした。
耐えきれませんぞー、と机が悲鳴をあげている
らしい。耐えろ!
双方の間に嫌な沈黙が流れた。
そこに助け船を出すように伝令兵が駆け込んできた。
「何事だ!」
「敵襲です!ご準備ください」
「クソ、話は後だ奴らあんたを追って
来やがった」
「そんな・・・」
「大人しくしてろよ?まだ聞きたいことが山程ある。レティア、アンセル、行くぞ」
「了解です」
「はーい」
各々愛用の武器を手に部屋を後にした。