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ユーレンス大陸史  作者: 新参猫
第一章 種間戦争
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第八項 対話とは力なり

次の日、アンセル、レティア、ユルナスと四人で朝食をとっていた。ふと顔を上げるとユルナスが此方に向かって手招きをした。何かあるのかと思って近くに行く。が、申し訳なさそうにお水を下さい、と言われた。アンセル、隣に座ってるんだから気付いてやれよ。


「そういえばテヨンはどこで食べてるの?」


「あいつなら第一部隊の兵舎で食ってると思うぞ」


「へぇ~。そんなにザックさんの事が気に入ったんだね」


「単純なもの同士気が合うんじゃないかな?」


「違いない」


楽しく談笑していると唐突にレティアが立ち上がった。心なしか僅かに震えている。


「どうしたの?レティアさん」


「す、少し外の空気を吸ってきます」


そのまま慌てて外に行ってしまった。もっとましな言い訳は無いのか。沐浴に行くとか、空にドラゴンが飛んでるから見てくるとか。やっぱり何でもない。自重します。


「どうしたんだろう?」


「やっぱりジャルジュの話題は避けるべきだった?」


「いや、あいつは緊張しているだけだ」


意外な意見にユルナスとアンセルは顔を見合わせた。髪色が似ているのでこうしてみると兄妹みたいだ。


「緊張?一体何に対してするのさ」


「決まってるだろ、テヨンだ」


ユルナスは首を傾げ、アンセルは呆れてものも言えないようだ。アンセルに同意だよ。まったく。


「何でテヨンに?」


まだ分からないようでユルナスは手を挙げて質問した。うわ懐かしいな。よく近所のボトカル爺さんのところで勉強してたときも手を挙げさせられたな。壷割って出禁になったけど。


「昨日、散々ストレス発散に付き合った後に一回話してみろって言ったからな。あいつは真面目だから何を話すかとか、どういうふうに話を切り出すかとか悩んでるんだろ」


脱力するようにユルナスがテーブルに突っ伏した。まだ編んでいない髪がスープに入りかける。アンセルが何とかガードしてユルナスに返却すると、ユルナスは髪を編み始めた。


「気軽にお話しすれば良いのに~」


「僕もそう思うよ。彼女は真面目すぎる」


「ま、遠くから笑って見てようぜ」


「シュドムさん趣味悪いです・・・」


ユルナスの視線が痛い。が、気にすることはないレティアの睨みに比べれば可愛いもんだ。レティアが敵を睨むと敵が動けなくなるからな、あれは魔法の一種だと思うんだが。


結局その後レティアは戻ってこなかった。

どこに行ったんだ?まさかとは思うがあそこじゃないよな?


朝食を食べ終える頃、唐突に部屋のドアが開けられた。見ればアジャスがゼーゼー言いながら立っている。


「ノックしろ!馬鹿」


「済まない大将。でもそれどころじゃねぇんだ!」


ひどく嫌な予感がする。さてはレティアのやつ一足先に第一部隊の兵舎に行ったな。


「何があった?どうせレティアが乗り込んで来たんだろ?」


「さすが大将、察しがいいな」


それ見たことか。仕方ない上手く話せないだろうし仲介してやるか。


「それで?今どういう状況だ?」


「最初は普通に飲み食いしてたんだけどよ。何を思ったのかレティア隊長がいきなりテヨンに表に出ろって言われたんだよ!」


一瞬頭が真っ白になった。話してみろとは言ったが、そっちかよ!頼むから抜き身を振り回さないでくれよ。あと物は壊すなよ。

色々願いながら俺は町の広場に走った。


ЖЖЖ


「待ってくれ。話をするんじゃなかった?」


「今してるじゃないですか!」


「いや。これを会話って言うなら。戦場は討論会だぞ!?」


事態は予想の斜め上をいっていた。何故か笑顔で抜き身の大剣を振り回すレティアと死に物狂いで逃げ回るテヨン、そして何故か倒れているザック。何でお前が倒れてんだ!

側に寄って抱き起こすと。ザックは呻きながら近くにあった段差を指差した。


「お前、あれで転んで危篤だとしたら物凄く馬鹿だぞ?」


「済まねえ大将。俺は馬鹿だ・・・」


ふざけてる場合じゃねえんだよ!心の中で叫ぶとザックを放り出してレティアの背後に回った。そしてレティアが剣を降り下ろした瞬間。


「だーれだ?」


手でレティアの両目を隠した。ふざけてないからな?いたって真面目な作戦だ。とてもそうは見えないだろうけどな。視界を遮られたレティアはキャッと可愛らしい声をあげて大剣を取り落とした。辺りにガシャンという重々しい金属音が鳴り響く。


「シュドム!離してください!私はまだテヨンと話し合えていないのです!」


「この馬鹿!俺との話し合い方を他の奴に当てはめるな!」


「だって私、これ以外に話し合いなんて知りませんよ!?」


「錯乱し過ぎだ!深呼吸三回しろ。話はそれからだ」


「スーッスーッ。大変です!息が吐けません!」


「勘弁してくれ・・・。おいテヨン!」


「何だ?青いの」


「レティアに酒呑ませたか?」


「あぁ。兵士達が寄ってたかって呑ませてた」


だからか。こんなに泥酔してるところ見たことねえよ。一体どれだけ呑ましたらこんな事になるんだ?以前呑み比べした時ですら、こんな酔い方しなかったぞ。


そうこうしている内にレティアが大人しくなったので目から手を離してやると今度は猫のように擦り付いてきた。


「ふえ~。暖かいです~、私ここに住みますね~」

「おいこら引っ付くな!」


「本当は嬉しいんだろ、大将?」


「段差で転んだ馬鹿は黙ってろ!」


何とかして離れさせないとあいつが来る!

こういうときだけタイミングがピッタリのあいつが。


「ほら馬鹿夫婦。朝からイチャイチャするのは構わないけどお客さんが来たよ」


ほら来たぁぁぁぁあ!!何て奴だ!狙ってるだろ絶対。しかもレティアが離れない。勘弁してくれよ。


「ほらレティア離れろ!客人が来た」


「嫌です。離しませんよ~」


「後で好きなだけくっついて良いから今だけ離れてくれ」


レティアは上目遣いで此方を見上げると約束ですよ、と呟いて名残惜しそうに離れた。が、ご褒美を下さいと言いたげに頭を此方に向けた。しょうがないので撫でてやると嬉しそうに目を細めて撫でられている。むう、可愛い。絵画にして部屋に飾りたいぐらい可愛い。口が裂けても言えないが。


そのまま一分程撫で続けてやると満足して自分の部屋にパタパタと駆けていった。

「さてと、おいアンセル!客人は何処にいる?」


「会議室で待ってもらってるよ」


「そうか、テヨンお前は俺と一緒に会議室に来い。アンセルは落ちてる大剣とザックの処理を頼む」


「分かった。付いてく」


「待って!後処理僕がやるの!?」


納得がいかないと声をあげるアンセル。

だが今回ばかりは俺には正当な理由がある。

「文句言うな!タイミングが悪い罰だ」


「理不尽だなあ」


アンセルが何か言っているようだが聞かなかったことにする。それよりも客人が来たということはいよいよ頭領とやらに会えるわけだ。一体どんな奴が来てるんだ?

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