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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第1章 
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第7話 気付いてはいけない私の感情

 その場所から進んできた道を戻り、脇にあった階段を下ると自動ドアが開く。高級なブランドが並ぶブティックの前を堂々として通りすぎる。


 こういうときは、キョロキョロせず、それこそ女優になったつもりで堂々と歩くと不審に思われないものである。彼の母親が連絡を入れるそうなので、10分くらい後で部屋に入るように指示されている。


 エレベーターホールの前にレストルームがあったので、そこに入ることにした。


 鏡の前に立つと鏡には淀んだ瞳をした女が映っていた。完璧な化粧をしていた彼の母親とは対照的である。


 あの男の代理人とはいえ、伸吾さんとの会談の場所が帝都ホテルの喫茶ルームだったので、しっかりと化粧をしてきたはずなのだが、それが崩れている。


 しっかりしろ! 私。


 医者がこんな程度のことで動揺してどうするんだ!


 だが、彼の母親のように完璧な化粧をする気がおきないので軽く化粧直しだけを行った。このほうが彼も安心するだろう。化粧とは女にとって身を守るための装備だから、完璧に化粧をしてしまえば、盾を持って彼の前に出ているのと同じになってしまう。


 それでは、彼も気を許してくれないだろう。このときほど、もっと自然な笑顔が作れればと思ったが鏡に映っているのは、愛想笑いをしている女だ。これならば無表情のほうが良い。


 無表情のまま彼の前に出て、無表情のまま彼に抱かれればいい。何を恐がることがある。1年も同棲していたのだ。私がどんな女なのかは、彼も分かっているはずである。






 いやちょっと待て!


 今、私は何を思った?



 思わず、鼻で笑ってしまう。この私があんな最低な男に嫌われたく無いなんて思っている。


 まさか・・・。思わず動揺してしまう。




 なんで、いまさら。


 なんで、このタイミングなの。


 いやそんなことは無いはずだ。無いはずなんだ。


 冷静になれ! 私。




 今はそんなことはどうでもいいはずだ。


 今は、相手に見えないように心に鎧を被せることが大事だ。


 理解しろ! 私。決して情に流されてはいけないんだ。


 私は鏡の目の前で、何度も深呼吸を繰り返すとレストルームを出て行き、エレベーターのボタンを押した。


     *


 目的の階に到着しても誰も居なかった。週刊誌の記者どころか、ホテルマンも居ない。彼の母親が気を利かせてくれたのかもしれない。


 私は部屋番号が書かれた大きな両開きの扉の前でカードキーを差し込むと、扉の取っ手を回し開いた。


 部屋の奥のイスに腰掛けていた彼が立ち上がり呆然としている。


「入るわよ。」


 私はカードキーを抜いて、部屋の中に入った。


「久しぶりね。」


「僕を・・・僕を・・・笑いにきたのか!」


 ズキッ


 彼の言葉が私の心を抉る。


「そうね。そう思って貰っても構わないわ。」


 心の思いとは逆方向に口は滑りだす。我ながら天邪鬼である。


「貴方の母親が慰めてほしいって言っていたけど・・・。」


「志保。お前、それがどういうことか分かっているのか?」


「分かっているつもりよ。ほら、私を抱き締めたいんでしょ。無理しなくてもいいわよ。貴方の欲望なんてお見通しよ。」


 思いのほか動揺したのか、『抱きたい』と言うつもりのところを『抱き締めたい』と言ってしまった。既に心が動き出しているみたい。ヤバイ兆候である。


 しかし、彼は何も気付かずにそのまま私とベッドに縺れこんだ。


     *


「バカなの? そこは素直にお金を渡せば済む話じゃないの。」


「いや・・・そうなのか?」


 あの事件・・・と思われた顛末はこうだった。


 彼が口説いたベティーという名前の女優は落せなかったと思ったのだが、その帰り道に彼に抱きついてきた女性が居た。彼女はその女優ソックリの顔で『マッサージをして上げる』と言ったそうである。


 しこたま呑んでいた彼は、その場では誘いに乗れなかった女優が後悔して戻ってきたのだと思ったそうだ。実際にこれまで口説いた女性の中にも、表面上は素知らぬフリをしながらも、周囲から友人たちが居なくなると急に積極的になる女性が居たそうである。


 彼はそのままホテルに彼女を連れ込み、関係を持ったあと部屋の扉のところでお金を要求されて、頭がパニックになったそうである。そこで押し問答をしているうちに、やってきた週刊誌の記者に彼女は話を聞かれて、関係を強要されたと告白してしまったそうである。


「えっ。だって、彼女も女優だぜ。お金を貰ったことが分かったら拙くないか?」


 彼は今も関係を持ったのは、ベティーという女優だと認識しているらしい。


 私はスマートフォンでその女優の名前を検索すると所属事務所の名前と写真が出てきた。


「この人なのね。なるほど、この顔立ちだとハーフよね。フィリピンかしら?」


「違う。タイランドだ。」


 あまり変わりは無い。ほんの少し彫りが深いだけで、この程度なら日本人でも通用する。


 タイに行く日本人男性は多いのだ。そしてタイの女性は日本人の子供を身籠る。そうやって産まれてくる子供は物凄く多いと言う話を聞いたことがある。


 そういう子供のうち、女性は日本人の父親を持つことで日本への憧れを強めて日本に留学してくるのである。きっと日本国政府も明らかに日本人の特徴を持つ女性たちのビザの申請を無碍にできないのであろう。


 結構な数の女性たちが留学してきて、繁華街でマッサージをして生活の糧にしている人間も多いようである。


「ねえ。打ち上げの席で口説いたときにその女優さんは、どんな服装をしていたの?」


「どんなって・・・そうだな。ビシっとしたスーツ姿だけどそれが逆に胸元を強調していてセクシーだった・・・あっ。違う・・・なんで?」


 服装の話をしているのに、自分のエロ視線を暴露している。それでもようやく間違いに気付いたのだが、なぜ間違っているのか分かっていないようである。


 全部説明しなきゃいけないのか?

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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