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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第4章
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エピローグ

お読み頂きましてありがとうございます。


「本人の許可は取ったぞ。」


 帝都劇場で映画の試写会があり、壇上での挨拶が終わり、スクリーンに映し出された映像も今は最後のスタッフロールが流れている。


 だがラスト寸前の虫垂炎の執刀シーンがイケなかった。なんと部分的に殿下を相手に執刀した際に撮影したらしい映像が使われていたのである。幾らなんでも本物志向にも程があるだろう。


 道理であの後、行なわれた執刀シーンの撮影が1回で終了したわけである。


 殿下の許可を得ているらしい。つまり勝手に殿下に借りを作った状態にされたというわけだ。これは知らなかったことにするしかないわね。


 映画の興行収入は上映前から日本映画興行収入の最高記録を塗り替えると言われている。前売券が凄い勢いで売り切れており第10版を刷ったらしい、それによりロングラン上映が確定している。


 この映画は七星映画とは別の配給会社だったが上映と同時期に発売予定で七星映画からは私の主演3作品のメディア化が発表されている。これも事前予約分が凄い勢いで無くなっているらしい。




     *



 ここは、アメリカのロスアンゼルスにある映画館で行なわれているブリリアントリリー賞の授賞式の会場だ。そうは言っても私がノミネートされたわけじゃない『ユウ』が参加した映画がノミネートされたのだ。


「『ユウ』残念でしたね。」


 前評判では有力候補の一角だったので和重に関係者席を融通して貰い、『一条ゆり』と共に応援に駆けつけたのだが、惜しくも受賞を逃してしまったのだ。


「あの子の実力だもの。ブリリアントリリー助演賞の受賞なんてまだまだ先の話よ。ノミネートされたのも作品賞を受賞した素晴らしい映画に参加できて偶然ライバルが少なかっただけ。」


 親子だからなのか点数は辛い。今年のブリリアントリリーの作品賞はライバルが居なかったと言われており、前評判通り『ユウ』が参加した映画が受賞している。


「でもノミネートされただけでも随分とオファーを貰ったようですし、日本でも一躍有名人の仲間入りですね。」


 イロイロ書き立てられるだろうが、それ以上の勲章を授与されたも同然らしい。当分の活躍場所はハリウッドのつもりらしいが日本での仕事のオファーも来るに違いない。


「うーん。また天狗になって何かやらかしそうで恐いわね。こっちで買ったゴシップ誌に複数の俳優との関係を書かれていて、見たとき顔から火が出るかと思ったわ。」


 私もそのゴシップ誌を見たが詳細な情報で本人から事前に聞いていなければ本当のことだと思ってしまっただろう。まあ、それでもその中の幾人とは付き合いがあるみたいなのよね。相変わらずと言っていいのかもしれない。


「そんなに言ってやるなって。」


「監督。お疲れ様。例の件、どうでした?」


 日本で公開され始め、前評判通り興行収入の記録を更新中のスギヤマ監督作品だが、英語に吹き替えられて全米で公開されることになったらしい。


 そうなると次回のブリリアントリリー賞の対象となってしまう。まあ有り得ないだろうけど、万が一助演賞にノミネートされた際に辞退する以外に授賞式に参加しなくてもいい方法が無いか調べてもらったのだ。


「無いみたいだ。」


 以前は代理人でも良かったみたいなのだが、嘘の代理人に受賞トロフィーを渡してしまい大問題になったため、近親者以外の代理人は受け付けて貰えなくなっている。私には、あの男以外に身寄りは居ない。和重と藉をいれるのも授賞式の後の国家試験の結果が出てからだ。


「やっぱり、そうですか。辞退するのは拙いですよね。」


 実は、授賞式の時期と認天堂医大の卒業式がピッタリ重なるのだ。もちろん卒業式の出席もしたいが、それ以上に卒業証明書を厚生労働省の支局に提出しないと医師国家試験の受験が無効になってしまう。


「そんなことは無いぞ。過去に何度も辞退をしている俳優は居るからな。でもノミネートされない方法はある。このロスアンゼルス郡だけ劇場公開をしなければいいだけなんだ。」


「そんなことができるんですか?」


「契約上できないことは無いんだが、ロスアンゼルスの映画館の全てがお行儀良く、その映画をかけないとは限らないからな。余所のところからフィルムを借りてこられてしまったら終わりだ。」


「そうですか。」


 なんだそれ。アメリカは契約社会だと思ったけど、結構いいかげんなのね。


「まだ、あるぞ。こっちが本命だ。StationGamerのバーチャルリアリティ装置で全米公開直前に1日だけ配信してもらうんだ。本当は全米公開と同時にだったんだがね。1日くらいズラしてもかまわないさ。」


 有名なゲーム機であるStationGamerに接続できるヴァーチャルリアリティ装置とは山田社長の会社が製造販売している商品で寝ている間に夢の中で映像を見られるというものだ。


 ブリリアントリリー賞の規約で全米の映画館で流される前にネット配信やテレビで放映されたものは審査対象から除外されるらしい。過去にアメリカで劇場公開される前に日本のテレビ局で放映された映画が審査の対象から外れることがあったのだという。


「その場合、作品自体がノミネートされなくなってしまうんですよね。それで監督は構わないんですか?」


「もちろんだよ。そもそもあの映画は日本人固有の感情表現に特化しているからな。アメリカ人にはウケるはずが無いんだ。問題はバーチャルリアリティ装置への配信が有料だから、劇場公開と同等と見なされたときだな。」


「そんなことがあるんですか?」


「ブリリアントリリー賞側が規約を変更してでもノミネートしようとした場合はお手上げだよ。」


「そうですよね。まあ穫らぬ狸の皮算用ですから、気にしても仕方がないですよね。」


「まあスポンサーが同意するなら作品自体の辞退も辞さないさ。」


「それは無いですよね。ブリリアントリリー賞を受賞すれば興行収入が跳ね上がりますもの。」


 スポンサーに入る収入も格段に違うはずだ。


「それがあり得るのだよ。なんと言ってもスポンサーは山田取無氏だからね。」


「えっ・・・もしかして、撮影を私のスケジュールにあわせて頂いたのは。」


「そうだよスポンサーの意向だ。愛されているね。」


「違うんです。社長はそういう人なんです。いつも全力で私たち従業員のことを考えてくれて。」


 封印しておいた恥ずかしい思い出が蘇る。医者になりたいと打ち明けたときに余りにも一生懸命に考えて精一杯応援してくれるから、勘違いして告白したことがあるのだ。告白した途端に社長がアタフタしだしてそういう意味じゃ無かったと悟り冗談にしてしまった苦い思い出だ。


「わかっているよ。でも私が女だったら絶対惚れているね。」


 監督のその言葉に思わず顔が火照る。きっと真っ赤になっているに違いない。


「はっははは。君もそんな顔が出来るんだね。初めて見たよ。」


「そうね。私も初めてだわ。」


 それまで黙っていた『一条ゆり』が満面の笑顔を監督に向ける。


「『ゆり』もそう思うかね。じゃあ、相当珍しいんだな。『台地マキ』に自慢してやろうっと。」


 監督も呼び捨てだ。相当親しいのかな。


「監督とプロデューサーって親しいんですね。」


「何を言っているのよ。私の主演第5作目の監督さんよ。本当にこの業界のこと知らないのね。貴女って。」


「仕方が無いじゃないか。あのときは本名で七星映画の社員として映画を撮っていたから、気付くわけがないだろう。」


「そうなんですか。どうして辞められたんですか?」


 『一条ゆり』主演第5作目からスギヤマ監督のデビュー作には随分と間が空いている。相当な苦労があっただろう。七星映画に居ればそこまで苦労しなくても良かっただろうに。


「井筒オーナーの指示で『ゆり』の最後の映画を勝手に再編集掛けられてしまったんだ。」


「プロデューサー本当なんですか? あの和重のお父様がそんなことをするなんて。」


「本当よ。・・・でも、もう言ってもいいわよね。あのとき何があったか。何故、井筒オーナーが一族のポリシーを破ってまで、あんなことをしたのか。」


「『ゆり』。いったい何があったんだ。私も井筒オーナーがあんなことをしたこと自体、初めは信じられなかったんだ。」


「実は・・・裕也はあの映画の中で授かったの。」


 授かった・・・って。


 確か『一条ゆり』第5作目の最後には濡れ場があって、裸で体当たりの演技をしたって聞いたわ。でも、男女のそんなシーンは無かった。それどころか男の顔さえ出てこなかった。いつも出てくるのは男の背中ばかり。


 問題の濡れ場も『一条ゆり』の上半身ばかりで周囲はボカされた映像だった。


「何! あの迫真の演技はまさか・・・そんな・・・。」


「そう。あの男、我慢できなかったんでしょうね。本当にソックリだわ裕也と。」


「あの下半身男め! ・・・だったら、志保さんと裕也くんは兄妹なのか?」


 えっ・・・。


「なんですって! えっ、どういうこと。志保さんの父上って『和田部(わたべ)タケシ』なの?」


 確かにあの男の芸名は『和田部タケシ』だ。


「『一条』さん。あれほど口を酸っぱくして明かしてはいけないと言ったのに。」


 後ろから、和重がやってくる。


「和重! 何がどうなってるの?」


「志保。お前、大丈夫か?」


 大丈夫じゃない。大丈夫じゃないけど。そういえば、あの2人性格が似ている気がするのよね。


「ショックよ。それよりも全部知っているんでしょ話して。」


「そうだ。志保と裕也は兄妹だ。俺も遠藤先生から聞いたときは腰を抜かしそうになった。志保にとってはショックかもしれないが『和田部タケシ』も『一条ゆり』に惚れていたんだろうな。」


 そんなのはショックでも何でもない。あの男なら母に惚れていなくてもおかしくはない。


「周囲の人間の話では『一条ゆり』に似ていた志保の母親に子供が出来たと言われたとき、イチもニもなく結婚に承諾したらしい。しかも志保の母親は実家から多額のお金を持ち出してきたらしく、それも目当てだったみたいだな。」


 そうなんだ。それでも足らずに母は働いて家計を捻出したのね。実家から持ち出してきたお金は私が伯父様に返済しておかなきゃね。あの男から貰いたくはない。


「どうしても婚約者に本当のことを話せなかった『一条』さんは俺に相談したんだ。そして俺は親父と相談してあの男を日本の芸能界から抹殺することにしたんだ。すまない志保。妻子が居たことは知っていたんだが、あの男をどうしても許せなかったんだ。」


「でも、父はアメリカで成功してしまったのね。」


「そうだ。」

 

 そうか東都ホテルの53階のレストルームで何処かで聞いた声だと思ったのはあの男の声だったからなんだわ。


 ということは・・・。


「でもどうしてプロデューサーは父と和解したの?」


「あのときは『和田部タケシ』の名声を利用して、私のハリウッドデビューを目論んでいたの。浅ましいでしょ。だからバチが当たったんだわ。」


 だから、親子3人での競演なのね。


「じゃあ、あの男は期せずして自分の子供である『ユウ』のプロデュースをしたわけだ。」


「そうね。でもそれくらいのことをして当然な行いをしてきたんだわ。」


「何? どういうこと、何故『和田部タケシ』が『ユウ』のプロデュースをしているわけ?」


 今度は『一条ゆり』が悲鳴を上げる。そういえば、『ユウ』は自力でアメリカに渡ってデビューしたことになっていたんだっけ。


「ごめんなさい。勝手なことをして。私、どうしても裕也に立ち直って欲しくて、アメリカで女優デビューできるように父にお願いしたの。」


 裕也は性同一障害と診断され、病院から退院後ニューハーフのショーパブに出演するようになった。そしてお金を貯めて手術を受けて女性として生まれ変わったのだ。でも俳優は諦めきれなかった。


 そして、裕也は戸籍も女性になり名前も『ユウ』に変えて、女優になるためアメリカへ飛んだのだ。


「そんな・・・そんなことって。

 じゃあ、今。あの子は『和田部タケシ』・・・実の父親の傍に居るのね。」


 そこで、ピロリロリン・・・ピロリロリン・・・と間の抜けた音がした。私のスマートフォンのメールの着信音だ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 本当に傍に居るみたいです。父が凄く優しいそうです。

 やっぱり、受賞できなくてショックだったみたいですね。」


「志保さん。今、裕也は何処にいるの?

 『ユウ』は完全に女性になっているし、貴女たちはソックリなのよ。

 あの下半身男が・・・ごめんなさい。『和田部タケシ』が手を出さないなんて到底思えないわ。」


 えっ。あっそうか。


「そうですね。裕也も関係を迫られて断るとも思えません。大変。大変だわ。

 私たちは不可抗力だったけど、これは絶対に止めなくてはいけない。

 でも何処にいるのよ。和重、裕也の泊まっているホテル知ってる?」


「俺が知っているわけが無いだろ。」


「じゃあ、監督。父の泊まっているホテルって知ってらっしゃいます?」


「いや。あの男とは最近いつも弁護士を通して話しているから、わからないな。」


「そっか。伸吾さんね。待って。伸吾さんなら、スマートフォンに番号が入っているわ。」


 私は慌ててスマートフォンで電話を掛ける。と直ぐに出てくれた。それによると、父は裕也と同じホテルのスイートルームに宿泊しているらしい。まさか、裕也が泊まっているシングルルームでことにおよぶとは思えないから、こちらで決まりね。


 私は部屋の前で伸吾さんと待ち合わせの約束をして電話を切った。伸吾さんにも事情を話しておいたほうがいいよね。


     *


 私たちは、未だレッドカーペットの引かれた道沿いを通り抜け、200メートルほど先のホテルに徒歩で向かう。ここは未だ車両は通行止めになっているのだ。


「皆さんも御揃いで。」


 伸吾さんとは丁度、ホテルのロビーで出会った。このメンバーを見て落ち着いているのは弁護士だからか。


「お嬢さん。こちらのエレベーターにお乗りください。」


 最上階直通エレベータのようで1階の次は20階だ。私たちが乗り込むと伸吾さんが何かを操作している。このエレベーターを使うには鍵が必要なようで、それを持って待っていてくれたようだ。


 ほんの十数秒で最上階に到着する。


 それは屋上の外にあった。ペントハウスみたいだ。


「お嬢さんは、こちらでお待ち頂けませんか? 呼んでまいりますので。」


 ペントハウスに入り、接客用と思われる沢山のソファが置かれた場所に案内された。


 そのときだった。裸の男が奥の部屋から飛び出してきた。


「うわぁーーーーー・・・・・

 男・・・男・・・・おとこ・・・。」


 ふう良かった。裕也は元男だということを告白したようだ。


「ははは。なんて格好なのよ。お父さん!」


「・・・お、お前・・・アレが男だって知っていたのか?」


「もちろんよ。裕也だもの。『一条裕也』知ってるでしょ。貴方の息子よ。」


「む・・・む、すこ・・・だと。・・伸吾・・・いったいどうなっているんだ! お前には志保と裕也のことを逐一報告しろと言ってあっただろうが!」


 そうかなるほど伸吾さんはとっくの昔に知っていたんだね。


「どう報告しろと言うんですか。」


 でも報告するわけにはいかないよね。貴方の娘は息子と恋人同士になってましたなんて。でも、それならば裕也が手術をしたことも知っているはずだ。『ユウ』も日本で伸吾さんに引き渡したのにどうして。


「じゃあ『ユウ』が裕也だってことも知っていたのね。何故、協力してくれたの?」


「お嬢さんのためですよ。なんとかして引き離そうと画策しても上手くいかなくって・・・でも、お嬢さんのほうから提案して頂いたのでこれ幸いと乗ることにしたんですよ。」


「ゴメンね。伸吾さんだけにツライ思いをさせていたのね。本当にごめんなさい。」


 私は伸吾さんに頭を下げる。裕也と私が兄妹だと知って誰にも告げられず、必死に引き離そうとしても私は全く言うことを聞かないんじゃあ。凄い心労だったろう。


「それじゃあ、私に手切れ金はこれくらいだと提案したのは、裕也と志保さんを引き離すのに都合が良かったからなのね。」


 なるほど、私の行動を把握していれば大体の貯金額も把握していたのだろう。 


「そうです。あれだけあれば、お嬢さんの医者になる夢も適えられます。もう身体を壊しそうなくらい働かなくてもいいと思ったんですが、まさかそれ以上に女優として働かなくてはいけなくなるなんて・・・。」


「では、『ユウ』が裕也だと『和田部タケシ』に告げなかったのは何故なんだ?」


 そうそう。和重・・・そこも良く分からない点だ。アメリカに来れば引き離しは成功したんだから、依頼主に本当のことを言ってもいいよね。


「『和田部タケシ』も『一条裕也』も『一条ゆり』も罰を受けるべきなんです。そういう関係になってからバラした後でどんな顔をするか楽しみだったんです。まさかこんなにも早くお嬢さんが知ってしまうとは思わなかった。それに『ユウ』が本当のことを言うとは思わなかったですね。」


「私もなのね。」


 そこに『一条ゆり』の名前が出てくるとは思わなかったのだろう。


「そうです。お嬢さんを不幸にするものは全て許せなかった。」


「伸吾さんは何故、そこまで私のことを・・・。」


「何故でしょう。初めは美しく成長するお嬢さんを見守るのが好きだった・・・いや、自分のモノにしたかったのかもしれません。最低ですよね。」


「そんなことはないわ。大切に思っていてくれたのは伝わっていたわよ。ずっと見守っていてくれてありがとう、伸吾さん。」


 私は伸吾さんに近寄り抱き締めた。


「それにしても監督。この男って本当に名優なんですか? 母には妊娠したという嘘の演技に騙されるし、『ユウ』は告白されるまで元男とわからなかった。」


 『和田部タケシ』は『ユウ』と同じようにブリリアントリリー賞にノミネートされてからは、あれほど日本で仕事が無かったのに突然名優扱いされている。


「お前、思い出したのか?」「貴女、思い出してしまったの?」


 和重と『一条ゆり』は物凄く心配そうな顔で覗き込んでくる。なんだろう。この表情・・・どこかで見たことがある。


「さあな。だが、ブリリアントリリー賞にノミネートされた映画の役はハマり役だったな。この男は演技に関しては大根なんだが、イケメンの詐欺師役・・・今はダンディーな詐欺師かな。だけは上手いんだ。きっと、本人に一番近いんじゃないかな。」


 なんだそれ!


 日本の芸能界はブリリアントリリー賞にノミネートされたことで踊らされているだけってこと?


 確かにこの男が日本でした仕事はCMくらいで寡黙な役柄が多かった。


 それじゃあ、裕也よりも演技が下手なんだ。私は何だってこんな男のことを怖がっていたんだろう。


「私は是非とも君の母親に会ってみたいな。君の女優としての天才的な才能を受け継いだとしたら母親からだ。」


「「監督!」」


「なんだ。どうしたんだ。和重くんも『ゆり』も血相を変えて。」


「・・・母は亡くなったんです。」


 記憶は全て蘇った。


 母は詰られながらも笑顔だった。憎まれることでも繋がっていれば良かったのだろう。だから、より怒らせるように振る舞った。演技をしたのだ。


 だが生涯会わない。これからは弁護士を通してくれと告げられて表情が消えた。


 道理で私が話しかけても反応しなかった。私の存在自体無かったことにされたのだ。


 そして私は壊れた。


 ははは。私が精神科の遠藤先生の患者だった。初めから私には医者になる資格なんか無かったのね。


 でも克服できたんだから、なってもいいよね。それに記者会見で大々的に発表した厚生労働省が間違いを認めて受験資格を剥奪したら、バッシングの嵐になるのは目に見えている。


「そうか。それは残念だ。」


「和重。全部、思い出しちゃった。今まで支えてくれてありがとう。これからも、よろしくね旦那さま。」


 恥ずかしいけどちゃんと伝えなきゃね。


「おうよ。」


 和重は私の気持ちを読んだかのように軽く返してくる。そして・・・。


「『一条ゆり』さん。お願いがあるの。」


「な、なに?」


「私を養女に。『一条ゆり』さんの子供にしてください。この男から完全に決別して、お母さんの所から和重に嫁ぎたいの。いいかな?」


 図々しいお願いだが、もう絶対にこの男と係わり合いになりたくない。


「もちろん、いいわよ。それに私はもう自分の子供だと思っていたわよ。裕也と貴女と私の3人家族ね。」

 

 裕也と兄妹か。なんか大変そうね。でも楽しそう。


「じゃあ、私から提案だ。その3人家族で映画を撮らないか。『一条ゆり』プロデューサー。第5作目の撮影は始まって無いんだろう。私の七星映画への復帰作としてコンビをお願いできないかな。和重くん、例の件受けさせては貰うよ。」


「和重。例の件って何?」


「うん。俺がオーナーになってから、スギヤマ監督にずっと取締役として会社に復帰して頂くよう打診していたんだ。」


「そうしないと和重くんが、君を主役とした映画なんか撮らせてくれそうにないからな。」


「そんなこと無いです。私、女優ですから。どんな作品でも精一杯、演らさせて頂きます。よろしくお願いします。」

これで完結です。

最後までお読み頂きまして本当にありがとうございました。


できましたら感想を頂けると、とても嬉しいです。

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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