第6話 誰かの頭にボタモチが降った
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「ゴメンね。『中田』さん。」
全て終わってしまってから、気付いてしまった。
「えっ。何を謝っているのか、分からないんだけど。」
「『中田』さんの障害を1枚増やしちゃった。」
法律上は『お菓子屋』さんの同意さえあれば、あきえちゃんと結婚はできる。だけど、『マキ』さんが反対すれば、あきえちゃんは結婚しないだろう。
「えっ。あっ。そうだよ。僕が、あきえちゃんと結婚するには彼女の祝福も必要になったのか。」
「えーっ。『中田』さんとあきえちゃんが結婚?」
私は今までの経緯を『マキ』さんに全て離す。
「それって、我慢できないものなの?」
思った通りの返事がくる。どうしても女性はそう思ってしまうらしい。
「『マキ』さん。貴女も実体験したでしょ。欲望を我慢しすぎると無意識に欲望を満たそうとしてしまうのよ。特にモテる男性ほどその傾向は強いみたいね。モテる女性にもそういう面があるとは思わなかったけど。」
マキさんは、私の胸を触ったときのことを思い出したのか真っ赤になる。
「そうか。彼はアイドルだから、あんなことをしたことが発覚した時点で芸能界を追放されてしまうかもしれないわね。」
「私が『中田』さんを我慢させているの?」
しまった。あきえちゃんも居るんだった。
「じゃあさ。私を含めて4人で合同結婚式をしましょう。それでいい貴方。」
「マキお前。反対じゃないのか? 16歳と39歳だぞ。」
「そう言う貴方は幾つなのよ。」
「俺は56歳だけど。」
「私は33歳よ。同じ23歳差で新婦はふたりとも処女で貴方は知らないけど新郎は信頼できる男なんでしょ。どこに問題があるのよ。」
「無いな。あるのは俺の『寂しい』という感情だけだ。」
「それは私も一緒よ。せっかく娘ができたのに直ぐに別れなくちゃいけないなんて寂しいわ。でも貴方には私が居るでしょ。それに近くに住んで貰えばいいじゃない。二世帯住宅でもいいかもしれないわ。」
「おいおい。どんどん話を進めないでくれ。ずっと、ずうっと考えてきたんだ。」
『お菓子屋』さんが頭を掻き毟る。そういえば『僕が決断すればいい』なんて言ってから、随分経ったわね。
「考えても結論は出ないわ。でもいつかは手放さなきゃならないんでしょ。ならば今しか無いじゃない。そのときに傍に私が居るとは限らないのよ。子供が出来て掛かりっきりになるかもしれないじゃない。そんなとき、どうするの。『西九条れいな』さんに泣きつきに行く気? それこそ絶対に許さないわよ。」
「しかし、お前『西九条』さんに手を出したのか?」
『お菓子屋』さんが苦し紛れに話を戻す。大丈夫なのだろうか。自分の首を絞めることにならなきゃいいけど。
「そうよ。あまりにも無防備に近付いてくるもんだから、抱きついちゃった。胸を触ったのは不可抗力よ。まさか、その後で優しいキスを返してくれるとは思わなかったけどね。」
「胸って・・・本当に『女好き』だったのか?」
また、言ってはいけない言葉を口にする。もう・・・折角、円満に解決したと思ったのに振り出しに戻ってしまうじゃない。
「そうね。中学・高校・・・いや、貴方に逢うまで『代用品』にされてきたわ。そのときの経験が咄嗟に出てしまったのか欲望を満たす行動だったのか私には分からないわ。でも、貴方に逢ったとき違うと思ったの。それだけは信じて。」
しかも、私が1番彼女に言わせたくないセリフまで言わせているし・・・もう。
「いや信じるよ。スマン。俺の下らないプライドの犠牲にして本当にすまない。このとおりだ。」
「ほら、貴方の女神がハラハラしながら見守ってくれているわよ。どうするの。これ以上彼女に世話をかける気。そこまで卑怯な男なの?」
「・・・・・・・・ああそうだな。というわけだ。『中田』・・・お前さえよければ、合同結婚式をしよう。都心で二世帯住宅は難しいかもしれないが、同じマンションを2戸買ってもいいじゃないか。皆で一緒に住もうぜ。」
ようやく決断したらしい。
『中田』さんが、あきえちゃんの耳元で何かを囁いている。プロポーズならもっとロマンチックなところですればいいのに。
「『れいな』お姉さま。仲人をお願いできませんか。」
「そうよ。私たち2組の結婚の仲人は貴女しかいないわ。ねえ貴方。」
あきえちゃんの言葉が上手く理解できないうちに、『マキ』さんが畳み掛けるように言葉を重ねてくる。あきえちゃんと『中田』さんはともかく、『お菓子屋』さんと『マキ』さんの結婚を言い出したのは私・・・どう考えても拒否できない。できないけど。
「それって、独身の私がしていいもの。普通は年配のご夫婦にお願いするものじゃないの?」
「私も『雅美』さんも貴女がいいんです。お父さんもそう思うでしょ。」
くそっ。あきえちゃんに言われたら断れないじゃないの。変なところで入れ知恵が働くんだから。後で覚えていなさいよ!
「ああ、ご夫婦にお願いするのは新郎、新婦それぞれにフォローできるからだ。既に4人共それぞれ貴女にこれ以上無いフォローをして貰った。だから結婚式を挙げるところまでは見守ってほしい。いや、僕たち2組の夫婦を見守り続けてほしいんだ。」




