第5話 彼らの女神は誰に微笑むのか
「馬鹿だね。男って。じゃあ、今度は『マキ』さんから聞こうかな。私の想像では、『マキ』さんにとって『お菓子屋』さんは初めてベッドを共にした男性だと思うけど間違ってない?」
「そこまで分かるのね。そうよ。この私を『可愛い』なんて言ってくれる男の人は初めてだったわ。」
『お菓子屋』さんにとって初めて聞くことだったらしく目を見開いている。だから、『馬鹿だ』っていうのよ。
「それで『お菓子屋』さんと別れたあと変な噂が流れてきて、周囲から男性はおろか女性も居なくなってしまったのね。」
「そうよ。初め女性は付き合っている男性ができると離れていくことを知っていたから、その所為だと思っていたの。でも誰も近寄ってこなくなったのよ。こんなことって今まで無かったから、調べてもらったの。そうしたら、噂の発生源はこの男らしいと分かった。」
「私に近付いてきたのはもしかして・・・。」
「そうね。この男が夢中になっている女性はどんな女性なんだろうって。でも危害を加えようとか、奪ってやろうとかは思っていなかったわ。私のほうが夢中になってしまうなんて思ってもみなかったけどね。」
これはやっぱり、酷くキズ付いているわね。本当は男女でできたキズは男女で修復したほうがいいんだけど・・・私が身体を重ねるだけでどこまで修復できるかなぁ。
「だからね和重。」
「分かったよ。一晩貸し出せばいいんだろ。だが言っておくが嫉妬はしているんだからな。」
全く和重には私の考えていることなんてお見通しなんだ。そこが安心できるんだけどね。
「ダメよ。そんなことさせられないわ。私なら大丈夫よ。だけどずっと友達で居てほしいの。それだけよ。お願いしたいことは。そうすればいずれ噂は消えていくわ。」
まあ確かに『恋多き女優』で通っている私と友達ならば長期的にはノーマルに見られるでしょうね。噂の発生源にも近い位置だから、噂は噂として消えやすいかもしれないわね。
「僕には贖罪の機会も与えられないのかい?」
『お菓子屋』さんが痺れを切らした様子で会話に割り込んでくる。
「そうね。無いことは無いかもね。でも貴方には、あきえちゃんがいるじゃない。あきえちゃんが存分に叱ってくれるわよ。」
「どんなことなんだ。僕にできることなら何でもする。お願いだ。教えてくれ。」
余程、あきえちゃんに叱られるのが嫌なんだ。凄い必死だ。解決策を教えても、あきえちゃんに叱られることは決定済みなんだけどなぁ。分かっていないらしい。
「貴方と『マキ』さんが結婚したら、噂なんて全て吹き飛ぶわよ。」
「それは僕たちにやり直せと。」
「違うわよ。いきなり結婚よ。でも短期間はダメよ。どんなに短くても5年は持たないと。」
「ははは。やっぱり凄い。『西九条れいな』さんは凄いな。」
そうかな。ふたりともそれぞれ思いを残しているから、こじれているだけなんだと思うんだけどなぁ。
「『マキ』! 僕にとって『西九条れいな』さんは女神なんだ。彼女が導いてくれるなら、どんなところでも行きたいと思う。だから結婚してくれ!」
「それは、私にとってもそうよ。初めは暗い道に灯ったひとつの明かりだったわ。でもこんなに目の前が一気に開けてしまうなんて! わかったわ。結婚しましょう!」
あれっ。物凄くトンデモ回答だったつもりだったのに成立してしまった。嘘でしょ。
「おいおい。そんな理由で結婚していいんかい。お前ら一生別れられないぞ。離婚はお前らの女神に対する裏切り行為であり、自分たちの信念に対する裏切り行為になってしまうぞ。考え直すなら今のうちだぞ。」
和重が私の思いを代弁してくれる。そうよね。大丈夫かしら。
「いいんだよ。それとも、我が女神にプロポーズしたほうが良かったか和重。お前さえ居なければ、とっくの昔にプロポーズしていたぞ。」
「そうよ。私も欲しいわ。この愛の女神。できるならしているわよプロポーズ。」
お菓子屋さんとマキさんが息の合ったところを見せる。これなら大丈夫かも。
「ダメだ。ダメだ。ダメだ! お前らなあ。『俺は彼女の婚約者だ。』って言っただろうが。」
和重が唖然とした表情で怒っている。
「おめでとう! お父さん、今度こそ幸せになってね。2番目に尊敬する女優さんが私の新しいお母さんだなんて、こんな嬉しいことは無いよ。」
結局、あきえちゃんの鶴の一声が決定打になった。どうやら、あきえちゃんに叱られるシーンを見逃したようだ。惜しいことをした。
「2番目ってお前なあ。まあ仕方が無いか。常々言っているもんな。1番尊敬する女優は『西九条れいな』さんだって、それは同意するよ。」
「えっ。私?」




