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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第4章
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第3話 彼は何処へ逃げるつもりなのか

「お父さん。何処行くの!」


 一瞬の硬直から解けた『お菓子屋』さんが回れ右をする。何か後ろ暗いことがあるらしい。だけど、あきえちゃんの叫びに足が止まり、振り返った『お菓子屋』さんは凄く情けない顔をしていた。


「大丈夫よ。責めないわ。」


 私は『お菓子屋』さんに歩み寄り抱き締める。


「『れいな』・・・お姉さま。どうして?」


「あきえちゃん。私がいいって言うまで『お菓子屋』さんに何も言わないでね。男の人はナイーブなの。自分の大切な人の言葉は必要以上にキズついてしまうのよ。」


「・・・うん。分かった。」


「ほら『マキ』さんもおいで。」


 私が手をさしのばすと、彼女はおずおずと手を繋いできた。そのまま、居間兼食卓に向かう。最近、大人数で食べることが多いから居間の机を捨てて、食卓とイスを買い足したのよね。


「今日のメインディッシュは昨日煮込んで1日置いたビーフシチューとフランスパンよ。今日は和重も居たから列に並んでジャンボフランスパンを買ってきちゃったのよね。」


「おおう。2人で4個も買ったから、白い目で見られたんだぞ。良く味わって食べろよな。」


 車から和重と『中田』さんに持ってきて貰ったパン屋さんの袋から取り出した直径30センチで20センチくらいで輪切りになったジャンボフランスパンを4個食卓に並べると凄い迫力だ。


「わぁー凄いね。『雅美』さん。」


「うん。僕、1度でいいから食べてみたかったんだ。」


 食べたいものも食べられないなんて。有名芸能人は不便だ。『中田』さんがパン屋さんで列に並んでいたら、パニックになるだろうし、コネを使って手に入れたら何を言われるか分からない。私なんてすっぴんだったからか、誰にも気付かれず平気だった。


 ビーフシチューは残ったら冷凍するつもりで多めに作ったけど、フランスパンは足りるかしら。男性はひとり1個、女性はふたりで1個の計算だったのよね。まあ足らなかったら、邪道だけど冷凍してある食パンを焼けばいいよね。


 食卓に座った各人の前にシチュー皿を並べる。1枚皿が足らなくなったから、自分の分は丼で間に合わせた。丼ならご飯でもいいかもしれない。


 そして自分も食卓につくと食卓で下を向いていた隣の席の『マキ』さんが顔をあげる。不安なんだろう私のエプロンの端っこを捕まえている。


「『マキ』さんもよかったら、おかわりもしてね。では、いただきます!」


「「「「「いただきます!」」」」」


 皆が声を揃えてくれる。気持ちがいい。


「おいしい! 『れいな』お姉さま。美味しいです。」


 あきえちゃんはジャンボフランスパンの真ん中の柔らかい部分を大胆にちぎって、シチューにつけて食べている。隣の『中田』さんは周囲の固い部分をちぎってそのまま口に運ぶ。口の中を切らなきゃいいけど。かなり固いのよね。あの部分。


「『れいな』さん。ソフトバターあったよね。貰ってもいい?」


 『中田』さんたちがここに来るようになって1年以上になるから、冷蔵庫に何があるかは全てバレている。


「『雅美』さん! せっかくお姉さまが作ってくださったシチューも食べましょうよ。」


 私はどちらでも構わなかったのだけど、少しマナーにうるさい、あきえちゃんが指摘している。マナー違反といえばマナー違反か。


「あっ、そっか。そうだよね。」


 最近ますます、あきえちゃんに弱くなっている『中田』さんが頭をかきかき立ち上がりかけた身体を元に戻す。


「いいのよ別に。ソフトバターでもジャムでも蜂蜜でもエクストラバージンオイルでもケチャップでもマヨネーズでも明太子でも好きに乗せてたべて。」


 これらは勝手知ったる人の家とばかりに『中田』さんが探し出して勝手にパンにつけて食べた品だ。まあこれくらいなら構わない。5000円以上した秘蔵のバルサミコ酢を使われたときにはキレそうになったけどね。


「は・は・は、幾らなんでも明太子は乗せないって。『れいな』さん。」


「『マキ』さん。どうかな。なかなかの出来だと思うのだけど。」


 隣の席の『マキ』さんに聞いてみる。食事を作った人間が聞くなんて一番のマナー違反だがそこは許してもらおう。


「うん。美味しいわ。」


 食事が進むに連れ、緊張が解れてきたのか。普通に喋れている。『お菓子屋』さんが極力視界に入らないようにしているが、拒絶しているわけでも無いらしい。


「『お菓子屋』さんったら、ぜんぜん食べていないじゃない。じゃあ、このフランスパンは私がいただくわね。」


 これからのことを考えると食べ物が喉に通らない様子がアリアリだった。これだから、男の人はナイーブだというのだ。こういうときは第3者が下らない罰を与えたほうが影響が少ない。


 『お菓子屋』さんの視線はしっかりと私の前に行ったパンを追っていたがそのまま諦めた様子だ。そして、自然を装った状態でスプーンを使ってシチューを口に運ぶ。


「美味しいよ。」


「じゃあ、これをつけて食べてみて。」


 私はフランスパンの柔らかい部分を大きくちぎって、『お菓子屋』さんの近くに置く。外側は固いので消化が悪そうだが内側の柔らかい部分ならお悩みモードの『お菓子屋』さんでも大丈夫だろう。


 まあ、私は外側の固い部分が大好きなんだけどね。


「コーヒーは・・・入れておいてくれたのね。ありがとう。あきえちゃん。」


 食後の飲み物はコーヒーが定番だ。ふたりだけなら、和重にお願いするんだけど、この人数のネルドリップで淹れていたら直ぐに飲めないから、普通のコーヒーメーカーも置いてあるのだ。


「ううん。それよりもビーフシチューのレシピを教えてください。凄く美味しかったです。」

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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