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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第4章
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第1話 何故彼女は無視をしたのか

「なによ。『西園寺(さいおんじ)れいあ』には挨拶もできないっていうの?」


 目の前でひとりの女の子が憤っている。


「・・・・・・・。」


 めんどくさいな。こういうときは無視するしかないね。


 この映画での私の役は、『西園寺れいあ』演じる準主役をイジメる役柄だ。台本を貰ってからというもの、できるだけ彼女を無視したり、挨拶を返さなかったりして気持ちを作っていっているのだが、それが気に入らないらしい。


「日本ブリリアントリリー賞の最優秀新人賞の方は、お高くとまっているのね。」


 『西園寺れいあ』はそういい捨てると何人かの女の子やスタッフを従えて楽屋から出て行ってしまった。


     *


「和重。ブリとアリって、なんだっけ?」


 なんだか変な捨てセリフだったなあ。


「もう忘れたのか? 日本ブリリアントリリー賞は、日本俳優協議会が選ぶその年に日本映画界で活躍した映画監督や脚本家、俳優などに送られる賞のことだよ。去年も帝都劇場で開催されて、お前が最優秀新人賞を獲得したじゃないか。」


「ああ、物凄く大そうな式典だったわりに、貰えたのが変な形のトロフィーとスズメの涙ほどの賞金だったやつね。」


 テレビで放映されたのはごく一部だったけど、大きな会場に真っ赤な絨毯が敷き詰められ、ノミネートされた映画関係者がテーブルに座り、舞台の上の映像装置でノミネート作品の紹介映像を見せさせられたんだよね。物凄く退屈だったわ。


 5時間以上も拘束されたのに七星映画で表彰されたときに貰った賞金の1%くらいなんだもの。知ってたら辞退してたわ。でもプロデューサーに無理矢理連れて行かれたんだっけ。


「お前なぁ。日本で一番権威のある賞なんだぞ。」


 そうね。テレビ放映が始まった途端に長々と司会者が説明してくれたよね。もうちょっとで欠伸が出そうだったけどね。


「だってどう考えても、司会者のギャラのほうが多いじゃない。司会者のギャラは放映権を持つテレビ局が払うんだよね。何人かタレントも呼ばれていたみたいだけど、あの人たちもノーギャラというわけでも無いんでしょ。しかも審査員席に座っていた方々は大物俳優ばかりだよね。皆、本当に手弁当なの?」


 男性の方々はタキシードばかりだったけど、女性の方々は下ろしたてのドレスだったわ。アレを買えるだけの収入はあると思うのよね。


「それは言っちゃダメなんだ。」


 それって、ギャラが払われているってことじゃない。そりゃあ、そうだよね。貧乏くじは出場した俳優たちだけか。


「しかも、大手スーパーがスポンサーなんでしょ。テレビには殆ど映っていなかったけど、ノミネートされた人たちのテーブルの遥か後方にテーブルが置かれてそこにスポンサーが招待した一般客が入っていたじゃない。授賞式という見世物の席でジロジロ見られて、貰えるのがスズメの涙じゃ割りに合わないじゃない。」


 大手スーパーじゃなく、大手スーパーが経営する映画館チェーンか。まあ同じよね。


「だから、それを言うなって! それでも日本で唯一審査員の投票で決まる公平な賞なんだよ。」


 うんうん。それも司会者が声高に言っていた。


「ノミネートは紐つきだけど?」


「ああもう。そうだよ。映画配給会社毎に割り当てられた枠に好きなように入れられるんだ。七星映画でも、よっぽど話題を集めた作品以外は社内の力関係で決められるみたいだ。」


「まあいいんだけどね。賞金が無い優秀監督賞を取った『一条ゆり』さんは嬉しそうだったし、話題賞を貰った七星映画の製作本部長さんも嬉しそうだったよね。」


「そうだな。お前のお陰で花道も飾れたから、嬉しそうに退職していったよ。あの会社は監督出身者の定年は無いんだが、彼は経理畑なんだ。七星映画の経営立て直しには凄く貢献してくれたんだがなぁ。」


 あのオジさん定年だったんだ。凄い映画好きでノミネート作品は全て見たって言っていた。


「優秀なのに会社に残れないの。何とかならないの?」


「無理だ。彼を残すには取締役に抜擢するしか無いんだが、非常時以外は監督出身者しか取締役になれないのが通例になっているんだ。」


 へえ。可哀想ね。そういえば、山田社長が業界に明るい人材を欲しがっていたよね。紹介してあげようっと。確かメールを交換したよね。


 製作本部長さんの顔を思い出す。確か・・・大杉さんだっけ。


「それで『西園寺れいあ』さんもあの場に居たの?」


「それも忘れているんかい。そうだよ。彼女は優秀新人賞だったな。」


 なんか引っかかる言い方だねぇ。受賞者の中に居たんだ・・・。


「ああ思い出した。最優秀新人賞が発表されたときに間違えて喜んでいた子だ。」


 これでやっと終わりだ。思ったのに、あのあと報道陣に囲まれて大変だったのよね。あんなことがあったせいで他の受賞者のことは聞かれなかったから、忘れていたよ。


「そんなところだけ、覚えているなよ。前の大画面に『西九条れいな』と出たのを読み間違えた彼女の周囲の人間が祝福したので間違えたんだろう。」


 『西園寺れいあ』と『西九条れいな』か。確かに字ズラは良く似ているよね。でも司会者が読み間違えたんでも無ければ、併記された映画のタイトルも全く違ったのよね。


「それで恨んでいるのかな。どう考えても逆恨みだけど・・・。」


「恥を掻いたと思っているんだろう。」


「そっか。悪いことをしたなぁ。来年は絶対辞退しよう。そう言えば仲良くしてくれるかな。」


「そんなことをしたら、余計恨まれるわよ。絶対止めておいたほうがいいと思うよ。」


 私と和重の会話に突然、割り込んでくる人が居た。この映画の主演女優の『台地(だいち)マキ』さんだ。


「すみません。煩かったですかマキさん。」


 私はすかさず謝る。彼女と直接絡むシーンは無い。役どころも敵の敵で味方みたいな立ち位置である。まだ30代前半の彼女だが映画俳優としては、ベテランの域に到達している女優さんだ。


「私には普通に喋ってくれるのね。」


 立っていた彼女がソファの私の隣に滑り込んでくる。


 うわっ。やっぱり大きい。モデル出身の彼女は公称身長168センチになっているが175センチ近くあるんじゃないのかな。出演している映画でも、下手な男優よりも凛々しく見えるからなぁ。


「ええまあ。直接絡まないし、役どころは味方ですよね私たち。」


「やっぱり彼女と距離を置いて役作りをしているのね。」


 気持ちを作っていることがバレているらしい。流石はベテラン女優さんだ。


「不器用なんですよ。普段仲良くしていて、撮影が始まった途端に気持ちを入れ替えるなんて器用な真似はできなくて。」


「普通はそうよ。それが簡単に出来るなら、気持ちが入っていない証拠よ。」

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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