エピローグ
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この章のエピローグとなります。
「裕也の奴。なんだったんだ?」
今日は裕也のお店に行ってきた。ショーパブでの裕也の人気は凄いらしい。私が見た1回目のショータイムでも沢山の人からチップを貰っていた。
最近はショーの中でダンスだけでなく、簡単な芝居もするみたいである。
「うん。いつもの愚痴。」
その芝居が問題なのよね。そのダンスや芝居が受けることで、裕也の中に不満が蓄積しているらしい。もっと、多くの人に自分の芝居を見てもらいたいという欲がでてきたようなのよね。
「ねえ。和重。」
「無理だ。」
私が和重に尋ねようとしたことを先回りして答えてくる。
「俺の力を持ってしてでも、奴に活躍の場は作ってやれない。」
「なんで? 裕也は変わったよ。」
ありとあらゆる手段を使った結果、裕也を蝕んでいた強い欲望を完全に押さえ込めている。今後は絶対に女性スキャンダルなど起こりえないようになった。
「奴を使う演出家は居ない。少なくとも俺が手配できる範囲では無理なんだ。」
スターグループのオーナーの和重が無理じゃあ、当然日本中どのメディアを探しても無理ということだよね。
「じゃあ、舞台のオーディションを受けさせてみるとかは?」
芸能界は芸能界でもテレビなどのメディアに直接繋がっていないのなら、無理じゃないかもしれない。
「お前がこの業界にいるかぎりは無理だな。あれだけ似ているんだ。後発は紛い物扱いを受けるぞ。」
「えっ。私が居るから、ダメなの? それじゃあ、私がさっさと引退してしまえば・・・。」
さっさと引退すれば、次第に忘れ去られていくに違いない。
「ダメだ。そんなことで引退なんかさせられるか! もし、そんなことがバレてみろ。『一条ゆり』ごと業界から抹殺されてしまうぞ。」
そっか。私が画策しても、親バカで強制的に引退させられたことになってしまうのか。それは拙いな。引退理由が要るのか。
「じゃあ、和重と結婚すればいいんじゃないかな。女優『一条ゆり』もそうやって引退したんだし。私の顔なんか1年もすれば、忘れてくれるよ。きっと。」
名案だ。引退するには十分な理由だよね。
「お前なぁ。俺が何故籍を入れようとしていないのか、分かってないのか? 俺の正式な配偶者になれば、あらゆる夫婦同伴の席に強制的に出席させられることになるんだぞ。そうなれば当然、医学生として在学できなくなるぞ。それでもいいのか?」
「ちぇっ。ダメかぁ。」
「お前、本当に酷い女だな。こっちは、お前が医者になるまで我慢しようとしてるのに・・・。全く酷いぞ。」
「ごめん。そうだったよね。忘れてた。」
*
「というわけで伸吾さん、この『ユウ』っていう子をアメリカでデビューさせて成功したら、渡米するという条件でどうかな。」
私に会いにきた伸吾さんに裕也の写真を見せる。随分、様変わりしているから気付かれないと思うけど、流石に裕也を知っている人間に見せるのは、ビクビクものよね。
私は私にできる範囲で裕也に芝居をやらせてあげれる手段がひとつあることを思い出したのである。あの男に借りを作るは嫌だが、裕也にずっと愚痴を聞かされるのも嫌なのよね。
裕也はショーパブでは『ユウ』という名前で出ている。アメリカならば、過去に裕也が犯した罪を知っている人間もいないだろうし、『西九条れいな』という女優を知っている人間も少ないはずよね。
万が一、裕也が『ユウ』としてアメリカで成功したとしても、あの男の言うことなんか聞かなければいいだけなのである。しかも、渡米するとしか言ってないのである。アメリカに渡ってあの男に会えば約束を果たしたことになるはずである。
このところ何度も、伸吾さんを通してあの男はアメリカで芝居をしろと言ってきて煩いのである。これで当分は煩く無くなるに違いない。
最悪、医師免許を取得後ならあの男の言葉に乗ってみてもよいのかもしれない。それでモノにならなければ諦めるだろう。とにかく、あの男の要求の時間稼ぎをしつつ、裕也の愚痴も聞かなくて済む案なのよね。多少のことなら目を瞑るしかないわ。
「お嬢さん。わかりました。なんとか、その『ユウ』さんを向こうで活躍できるように交渉してみたい。と思っています。」
伸吾さんは、『ユウ』が裕也だとは気付いていないみたい。
だけど相変わらず、断言しない人ね。それでも、私が直接あの男と交渉するよりは上手く事が運ぶに違いない。任せるしかないのよね。
次はいよいよ最終章に突入します。
大風呂敷を広げすぎじゃないか。と思っていませんか?
大丈夫です。ラストスパート。引き続きご愛読のほど、よろしくお願い致します。




