第17話 誰が彼らのリーダーなのか
しばらく待つと北側の扉が開き、親族席が埋まりだした。式が終わったらしい。
そして新郎新婦の入場だ。随分、新郎が小さく見えるのは、新婦の身長が高いらしい。手元に置いてある新郎新婦の紹介文にそう書いてあった。
更に待つと次第に暗くなり、司会席にスポットライトが当たる。そこには、前の結婚式でも司会をした幸子さんとMotyのメンバーと初老の男の人が立っていた。ゴンCEOらしい。お互いに司会役を紹介しあう。
「あの幸子ってひと一般人だろ。なんかスゲー。」
司会席では丁度、ゴンCEOと幸子さんのドツキ漫才が展開されていた。確かに凄い。世界のゴンCEOを平気で怒突けるとは。
「社内では密かに女帝と呼ばれているらしいよ。」
社長からしか聞いたことないけど。他の従業員は思ってても言えないだろうね。
*
『それでは、ご来賓の方を代表しまして。英国王室王子。ケント・オブ・ウェールズ様よりご祝辞を頂きたいと存じます。』
ちょっと緊張した様子で『中田』さんが主賓の紹介をする。隣に幸子さんが居るからだろうか。
「おい。イギリスの王子さまが新郎の友人だってよ。」
和重が隣でうるさい。でも本当に凄い。Ziphoneでも副社長だという話だし、会社も随分おおきくなったし、なんか雲の上のひとになっちゃったよね。
その王子様が一生懸命に日本語で祝辞を述べている。時々、忌み言葉が入るのはご愛嬌。あれを意図してやっているんだとしたら、そうとうな曲者よね。
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『続きまして、余興のトップバッターとしまして、僭越ながら僕たち『佐藤ひかる』with Motyで皆様に歌のプレゼントを致します。』
会場のそこかしこで悲鳴が挙がる。『北村多久実』さんが抜けているが、解散後彼らがグループとして歌うのは初めてなのよね。芸能人にも多くのファンを持つ彼らだからこその歓声なのかもしれない。
『なるほど。だから、このメンバーにお嬢さんが含まれておったのじゃな。豪華な組み合わせじゃ。』
さっそく、ゴンCEOのツッコミが入る。皆、不思議に思っていただろう。しかも、Moty解散時には『北村多久実』の奥さんである彼女と他のメンバーの不仲説まで飛び出していたのだから当然である。
まあ雑誌の記事なんて嘘だらけなんだから誰も信じていなかっただろうけど『佐藤ひかる』さんか。一度話してみたいな。『中田』さんに頼めば紹介してもらえるだろうか。
『それで何の曲を歌ってくれるの?』
幸子さんが粛々と進行していく。彼女が居なければ進まない場面よね。
『『境の渡った先』と言う曲です。この曲は解散後も半年以上ランキングに入り続けた思い出深い曲なんです。』
この曲は彼らのラストシングルで歌詞をメンバー皆で担当したという。最後の思い出作りのためだったと解散発表時に噂され始め、この曲を発表した頃から既に解散を考えていたのではと言われている、いわく付きの曲である。
『キタ・シャニーズ事務所に多くの楽曲を提供頂いていた『オーケー』という有名な作曲家さんが引退する直前に作ってくれた曲に、Motyのメンバーが合同で作詞したことになっているのですが、実は本当のリーダーに作詞をお願いした曲なんですよ。』
本当のリーダーね。これは知っている。新郎側の招待客は殆ど知っているんじゃないかな。デビュー当時、『中田』さんは良く話していたからコアなファンも知っているかもしれない。
「えっ。ねえ、お姉さま。『中田』さんがリーダーじゃないの?」
これは、あきえちゃんにも言ってなかったらしい。幾ら、あきえちゃんが熱狂的なファンと言ってもデビュー当時の売れていない頃じゃ、彼女も知らないだろうね。
「そうよ。デビュー当時はよく言っていたわよ。」
『本当のリーダーって。中田くんがMotyのリーダーじゃないの?』
今度は幸子さんがボケ担当なのだろうか。
『違いますよ。お姉さまも知っている人物です。では、お呼びしましょう。せーの『『『『リーダー!』』』』』
スポットライトが新郎新婦のふたりに当たる。
『うーん。わしの娘がMotyのリーダーだったとは。』
やっぱり、ゴンCEOのボケのほうが安心する。それは、会場も同じだったらしく。笑い声が挙がる。
『そんな訳ないでしょ。ということは、うちの社長がリーダーなの?』
あまりの意外な展開に会場が静まり返っている。新婦側は殆ど知らなかったらしい。
『そうなんですよ。Motyを逆からならべると?』
『Y・T・O・M。山田トムの略なのね。単純ね。・・・何してるのよ。社長! ご指名よ!!』
『えー』という声が招待客から発せられている。あきえちゃんもあんぐりと口を開けたまま。私の顔と舞台の上を見比べている。
「そうなのよ。Motyのメンバーの4人は高校の後輩に当たるらしいわよ。」
これは前回の結婚式で発表された情報である。コアなファンでもそこまでは知らないはず。
た、高い。
新郎の社長が雛段の上から体操選手顔負けの前転で飛び出してくる。あんなワザも持っているんだ。
事前に打ち合わせしてあったのか新郎側の招待客だろう女性たちが舞台下に駆け寄っていく姿が見える。
「あきえちゃん。一緒に行こ。」
私は、あきえちゃんの傍に駆け寄ると無理矢理立たせて舞台下に行く。もう既に舞台下には人が一杯。しかもいつの間に走ってきたのか、新婦が舞台下中央に陣取っていた。
後ろに居た私たちを、同じ時期にアルバイトだった顔見知りの女性が新婦のすぐ隣まで連れて行ってくれる。本当にこの会社の人たちは優しい。こういったことが自然にできるひとたちなのよね。
そして、曲が始まると社長と『中田』さんが綺麗なハーモニーを奏でだす。『中田』さんは、あきえちゃんに気付いたのだろう。彼女に向かって歌っているし、新郎の社長は社長で新婦に向かって歌っている。間に挟まれた私は居た堪れない気分と幸せな気分とで雰囲気に酔ってしまった。
特に『これから俺を好きになってくれるの?』という歌詞のサビがあって凄く意味深なのよね。
歌詞は1曲分頑張って作りました。
一条ゆり名義「ネトラレ男のすべらない商売」の芸能界編でお聴きください。
http://ncode.syosetu.com/n4920cb/
結婚式エピソードの裏話としてもお楽しみ頂けます。
共通のレギュラー登場人物は中田雅美くんです。増えるかもしれませんが・・・。




