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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第3章
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第12話 最後に笑ったのは誰なのか

「わかりました。では、会長の持ち分から2パーセントを彼女に今回の慰謝料として渡していただけませんか。そうすれば、一族の持つ49パーセントと彼女の2パーセントの反対で返り咲きを防げますし、一族からの独立性も保てます。」


「おおっ。それはいい案だな。それならば金輪際コイツが『西九条』さんに不法な行為もできない。」


「それに彼女が女優を続けていくのに問題となる一族からの圧力が掛けられなくなるわけです。」


「ちょっと待って! それって一星テレビの経営にタッチしなければいけないってこと?」


 副業女優もキツイのにそんなことにまで時間を割いていられない。


「違う。年1・2回ある株主総会で投票するだけだ。いくら時間が無いお前でもそれくらいできるだろう。それとも何か他にいい案があるか?」


 和重と別れても一生縁が切れないってことじゃない。誰かのモノになった和重を見続けなければいけないなんて、私に耐えられるのかな。


「間に合った? どういうことなのお父さん。こんな大事なことを決めるのに私抜きで行なうなんて。」


 ひとりの女性が会議室に飛び込んできた。噂の娘さんらしい。あれっあの女性は・・・。


「・・・東山さんが会長の娘さんなんですか?」


 東山さんは『お菓子屋芸能ステーション』に出演していた専門家のひとりで、ご多分に漏れずイチユリストだ。確か専門は芸能史。芸能史と言っても今の芸能界とは違う能や歌舞伎の歴史の専門家だったはずだ。


「『西九条れいな』さん・・・この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。」


 謝ってくれるということは全面的に旦那さんの味方というわけでもないのか。今までの西海会長の言動からすると旦那さんにベタ惚れって感じだったのに。


「アナタ! 今度という今度は愛想が尽きました。お守りにしていた離婚届だけど。既に私の分は記述してあります。判を押してください。」


「おおやっと、その男と手を切る気になったんだね。」


 西海会長が嬉しそうだった。


「嘘だろ。君が僕と別れるなんて。・・・僕は騙されたんだ。その女に!」


 元社長が私を指差す。


「私の『れいな』さんがアナタを騙す。はっ。天がひっくり返っても、有り得ないわ。笑わせないで。この娘はお医者さまになるために一生懸命なのよ。いくら素晴らしい女優だと言っても、私たち凡人には手が届かない存在なの。年1本の映画で拝見できるだけで満足すべきなの。わかった!」


 そういえば初めて会ったときから、こういうノリの人だった。あー寒イボがたった。即、ストーカー予備軍に入りそうだったので名刺交換もしなかったのよね。


「僕は・・・「別に慰謝料を貰おうなんて思ってないの。前回の浮気は女優さんが騙されてアダルトビデオに出演させられたという理由だったから、黙っていたけど。今度のは何よ。つまみ食いだなんて相手にも失礼だけど私にも失礼だわ。」」


 一星テレビの視聴率低迷の原因だった女優はこの男の愛人だったのね。だから、噂程度ではやめさせられなかったのか。


 そういえば、ロケ先とスタジオでのやりとりの中であのレポーターに対して『お前はつまみ食いだ。』なんて言っていたのよね。途端に相手が泣き出して一気に視聴率が上がったみたいだったけど。


「もう顔も見たくないの。家計の貯金や私の貯金を食いつぶしたのも見逃してあげるから、さっさと出て行って頂戴。」


 それは甘過ぎます。私だったら、全額返還させた上で慰謝料をがっぽり戴くのに。


「わかった。お前がそう言うのであれば別れよう。」


 男は意外にもあっさりと別れることを了承し、離婚届に署名と判を押す。何か今、机の下で手を握りしめなかったか?


「ほらよ。これでいいか。」


「待って!」


「何だよ。まだあるのか。」


 何故か。男の顔が引きつって見える。


「『西九条れいな』さんに謝っていって。」


「ああ。そうだな。『西九条』さん、随分と酷いことをしてしまった。この通りだ。」


 男は、意外とあっさり謝る。それも丁寧に90度折り曲げた最敬礼である。なんだろう、この違和感。


「はい。」


 私は謝罪を受け取ったことを表すしかできない。


「ありがとう。本当にありがとう。あいつああ見えて泣き虫だから、慰めてやってくれ。彼女のことよろしく頼むな。」


 男は笑顔で、まるで次の男に引き渡すかのようにそう言い添えると、そそくさと扉から出て行った。


『ヒャッホー! 僕は自由だ!! 自由になったんだ!!!』


 廊下から、飛んでもない叫びが聞こえてきた。


 どういうこと?


 社長も解任され、ほとんど無一文で追い出されたわけじゃないの?


 私が振り返ると東山さんが抱きついてくる。


「ごめんなさい。しばらくでいいの。一緒に居て。」


 拒絶できるはずも無い。彼女は私のためにイヤイヤ別れてくれたのだから。


 声を殺して泣く彼女を抱きしめながら、あの男の捨てゼリフが頭の中でリフレインしている。ふと視線を感じてそちらに視線を向けると一瞬の憐れみの表情の後、視線を外されてしまった。


 私の頭の中は、クエスチョンマークだらけ。なにがどうなってんのよ。誰か教えて。

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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