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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第3章
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第9話 生放送は簡単に止まらない

「それに一星テレビの社長の愛人という噂もあるよ。」


 なるほど、扇動役というわけか。道理で『中田』さんに嫌われる役もこなしているわけだ。それに最後の15分は何処かに居なくなってしまった。


「他にも仕込みがありそうね。」


「あれくらいのタレントなら僕と『お菓子屋』さんが組めば徹底的に潰すこともできるよ。滅多にやらないけどね。」


 何、それ、恐い。敵に回さなくてよかった。


「やめてあげようよ。私のことはどうでもいいし、そんな表情を、あきえちゃんが見たら泣くよ。」


 和重のお願いで出演しているんだし、あまり酷いことをするのは気が進まないのよね。


「わかったよ。でも、今後何も無かったらね。『お菓子屋』さんを説得するのは任せるよ。多分、番組を見て怒っていると思うし。」


 あちゃー。


 そうだよね。あきえちゃんも怒っているだろうな。何気に彼女が最強なのよね。


『休憩時間の途中ですが、スター感謝大会恒例の出演者お宅訪問! 今回の犠牲者はこの方たちだ。』


 突然、場内にアナウンスが入る。


 犠牲者に指名されたのは、女性タレントの2人。私は入っていないらしい。彼女たちはアナウンスと共に悲鳴をあげる。


「これって、恒例じゃなくて初めての企画よね。」


「うん。僕も毎回出ているけど初めてだな。他の特番での録画企画なら珍しくないけど、これ生中継だよね。」


 一人目のタレントの部屋に潜入中。もちろん、『都内某所』とテロップが入っている。


「イヤよ! やめて! この部屋はダメなの! ダメなのよ!」


 部屋の扉や冷蔵庫の扉が開けられたり、押し入れをのぞき込まれたりされるたび、悲鳴をあげてリアクションが凄い。そのほとんどが汚部屋というほどのことでもない。普段から片付けているのだろう。


「ほら、ああやって、弱いところをさらけ出すと好感度が上がるんだ。君も機会があったら、やったほうがいいよ。」


「無理。私には無理。」


「君のことだから、無表情になりそうだ。でも最低限、泣き真似くらいはできるよね。」


「はあ。」


 一人あたり5分ほどの時間、声が枯れるまでリアクションし続けている。尊敬するわ。


『こちらB班。ついに発見しました。『西九条れいな』さんのマンションです。』


 ふたりのリアクションが終わり、クイズに戻るかと思われたそのとき、またしても場内にアナウンスが響き渡る。


 モニター画面には、社長の愛人という噂のタレントが嬉々とした表情で映っていた。気の毒にこれで彼女のタレント人生は終わりだ。


「ほら君の番だよ『西九条』くん。」


 いつの間に近づいてきたのか、一星テレビの社長が傍で言った。


 でも大丈夫だ。マンションの入口のドアはオートロックになっており、住人のキーでしか開かないのだ。


 だが女は易々と入口を通っていく。何故だ。


 ヤバイ。中まで入られると管理人が居るのだ。地方だとそんなことはないのだが、都内のマンションだと原則として管理人は合い鍵を持っている。


 規約上はダメなはずだが、カメラを持ったスタッフがテレビ局と言えば易々と通してしまう。生中継だから、ワンセグの画面にも映っているから証明も簡単だ。


「『中田』さん。出番みたいです。」


「なんで僕?」


「ほら、彼らは例の部屋に向かっているようですよ。」


『意外や意外。なんて可愛い部屋。』


 そこには、大写しにされた非常に可愛い小物などが置いてあり、腹を抱えて笑っているリポーターの姿があった。


 あの部屋は主に『中田』さんと、あきえちゃんが逢い引きするところとして使われている。あきえちゃんがいろいろと私物を持ち込んでいるため、殺風景だった部屋は女の子っぽい部屋に変貌を遂げている。どうせ似合わないわよ。


 もちろんこの部屋は『お菓子屋』さんの意見を尊重して鍵をかけられないようにしてあるから真っ先に入られてしまったようである。逆に私と和重が使うベッドルームは頑丈な鍵を掛けられているから大丈夫と思いたい。


「ほら、あきえちゃんからSNSのメッセージが飛んでこないうちにフォローしないと。」


 何も悪くないのに、あきえちゃんが謝り、もう来なくなる未来が容易に想像できる。『中田』さんが真っ赤になって駆けだしていく。そしてテレビカメラの前で『あれは僕の趣味なんだ。』と言って周囲を笑わしていた。流石は、『中田』さん。


『この部屋は鍵がかかっているようですね。そんなこともあろうかと用意してまいりました! ジャジャーン!!』


 レポーターが取り出したものは、電動ドリルだった。テレビ局の大道具さんから借りてきたらしく凄くゴツい。しかしそこまでスルんだ。


 まさか、和重の言ったことが本当になるとはね。仕方が無い。面倒だが攻守交替させてもらおうか。


「イヤよ! やめて! この部屋はダメなの! ダメなのよ! 貴方なら止められるでしょ社長さん。」


 私は一星テレビの社長に取り縋って泣いてみせる。このリアクションは一人目のタレントの劣化コピー。どうにもこうにもコピーしたセリフの声に感情が上手く載らない。まあ白けているのだから仕方が無いよね。


 画面モニターで確認すると場内のカメラはリアクションをし出した私と社長のペアで写しており、生放送なのに中継先と交互で上手く撮っている。流石はプロ。頑張ってね。


「『西九条』くん、いくら私でもテレビカメラを止めることなどできんのだよ。」


 上手く私に付けられたピンマイクが社長の言葉を捉える。社長も元テレビマンらしいから、マイクが声を拾うように喋っているのかもしれない。


『社長、お言葉ありがとうございます。中継先のカメラさん。』


 よし、これで私の隣に居る男が一星テレビの社長と視聴者に認識されたされたはず。


 画面モニターには、電動ドリルを使って扉の鍵を破壊して、扉が開いたところが写っていた。


「イヤよ! やめて! ベッドの写真立てはダメなの! ダメなのよ!」


 私の言葉に釣られて、レポーターとカメラがベッドの写真立ての方向へ移動していく。


『さて、『西九条れいな』の本命の彼は、いったい誰?』


 カメラがぐぐっと写真立てに近寄り、その写真が画面目一杯に大写しされた。


『なんで! 社長の写真がここに?』


 そう。和重から社長がテレビマンだったころ、得意としていた企画がこのお宅訪問と聞いた私は、スマートフォンで撮った社長を印刷して写真立てに入れて飾っておいたのである。


 元々はSNSに投稿しようと撮った写真だ。背景は私のマンションの居間であることもわかるように撮影してある。別のところで撮ったと言い逃れはできない。


「社長。だ・か・ら、言ったのに。バレちゃった。奥様への言い訳を頑張ってね。」


 社長の家庭は恐妻家だという。社長は会長の娘婿らしく、視聴率が激減しているにも関わらず、社長に責任を取らせられないと和重が嘆いていた。既に全国の視聴者に私の本命として一星テレビの社長が認知されてしまった。さて、どうやって挽回するのかしら。


『この人、知ってます!!』


 突然、画面にマンションの管理人さんが映りこむ。


『3月下旬からつい最近まで平日の午後3時前後にこのマンションに良く来てますよ。』


 なるほど。そういうことか。


 社長の愛人というタレントを何処かで見たと思ったら、同じマンションの住人だ。


 だから、週刊誌に載った私の写真から、私の家を割り出せたのね。それに住人なら、マンションの入口も開けるからマンションにも当然入れる。本来、この時間帯に居ないはずの管理人を買収して足止めするくらいのことは簡単にできるはずよね。


 おそらく、社長は私の部屋にドラマを依頼しに来たあと、平日の昼間に愛人宅に足繁く通ったのだろう。私に土下座させたことを根に持って仕返しをする作戦を練るために。


 社長は中継を止めさせようと司会者やディレクターのところに向かい、なにやら叫んでいる。


 私は1カメ、2カメに近寄る。


「今、会社が大変な時でしょう? 社長が視聴率取りのために身体を張ってるの。音と映像を追ってあげてほしいの。」


 そう囁くとコントロールルームにも繋いでくれたようで社長の上空にマイクが移動し、司会者やディレクターとの醜いやりとりをカメラに収めるのだった。

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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