第6話 彼女たちは何故イジメたのか
「貴女、生意気なのよ。」
ここは『春のスター感謝大会』の収録メインスタジオの裏である。周囲には何かのセットなのだろう大道具が所狭しと並べられている。
リハーサルが終わり、休憩時間になった途端、数人のタレントにここへ連れ込まれた。キレイに茶髪に染められ、ハデハデな化粧をしているがヤンキーってわけでも無いらしい。
原因はわかっている。私がリハーサルの場に社長同伴で現れたからだろう。出るのを渋っていた私をマンションまで迎えにきたのだ。幼稚園児じゃないって。
私は周囲を見回すと、『中田』さんや『お菓子屋』さんが司会を努めるバラエティー番組のレギュラーや準レギュラーのタレントも居る。どうやら、彼らとの噂も妬みの対象となってしまったようである。
1対1の喧嘩なら負けないがこれだけの人数相手は歩が悪い。仕方が無い。味方を増やすか。
「貴女たち盾ね。知ってる? もうすぐ『中田』さんが顔を出すの。貴女たちがこんなことに加担したと知ったら、どうなると思う?」
私は右奥に居た『中田』さんがバラエティー番組に出演していたタレントふたりを引っ張り込む。3時間の生番組のうち、開始1時間後から1時間ほどが彼の出番らしいことは聞いているのだが入り時刻までは知らない。
「なっ。なんで私が貴女の味方をしなきゃならないのよ。」
片方の女は良く理解できなかったようで反論してくる。もうひとりは固まったところをみると番組を降ろされる可能性があることを理解できたようである。初めから気付けよ。
「いいのかな。『中田」さんと私の仲は知ってるでしょ。今2つほど好きな番組を選べって言われているの。貴女のレギュラーを奪ってもいいのよ。」
私がそう言って笑いかけると彼女たちの顔が真っ青になっていく。『中田』さんは、あきえちゃんとの逢瀬のお礼にレギュラーの座を約束してくれているのは本当である。本当は受ける気は無いのだが、芸能事務所の社長の手前、医大生の勉強の状況を見てと保留にしてもらっている。
実際に彼女たちのレギュラーを奪えるかどうかまでは分からない。
「貴女と貴女は『お菓子屋』さんの番組の準レギュラーよね。レギュラーの座が欲しいでしょ。私の一言は欲しくない?」
更に畳み掛けるように左奥に居た女性ふたりを引っ張り込む。私の一言でレギュラーの座が取れると言ってないのがミソであるが、目を輝かしているところを見ると信じたみたい。まあ、この場さえ乗り切ればいいのである。
「これで5対5ね。どうする? このまま続ける?」
「この卑怯者!」
ひとりの女を9人で囲いこんでイジメるのは卑怯じゃないつもりなのだろうか。
「社長! ここにいらっしゃいました!! 『西九条』さん、あと10分で本番が始まりますのでご用意願います。」
そこにディレクターと社長が現われると目の前に居た5人のタレントが逃げ出した。もう少し早くきてくれたら、この場に居た女性たちを全て悪役に仕立てられたのに。遅いんだよ。
「何をしていたんだね。君たちは!」
それでも4人のタレントと私ひとりの構図に見えたらしく詰め寄ってくる。彼女たちは真っ青だ。こんなことで一星テレビの仕事を無くしたくないのだろう。ならやらなきゃいいのに。
「彼女たちにはイジメられていたところを助けて頂いたんです。」
一応、盾になって貰ったのでフォローをしておく。私がそう言うとホッとしたのか。彼女たちに笑顔が戻り、皆頷いている。
「誰だね。我が社の救世主をイジメようとした人間は!」
「私は良く知らないのですが、彼女たちが知ってます。ね。」
本当は9人で囲んでいたのだ。決して知らない人間じゃないはずだ。
「本当か。ディレクター。『西九条』くんをイジメた奴らを聞き出して厳重注意をしておいてくれ。『西九条』くんはこちらへ。」
良かったね。お嬢さんがた。仲間を5人売れば、一星テレビでレギュラーが転がりこんでくるかもね。
社長はスタジオの袖まで私を送り届けるとそのまま、何処かに行ってしまった。何をしにきたのだろう。逃げ出さないように監視をしてるつもりなのか?
「やあ今晩は。」
噂をすれば影。『中田』さんが現われた。
「遅かったですね。」
彼の権力を利用してタレントたちを撃退したくせに。もっと早くきてくれたらとつい嫌味を言ってしまう。
彼の出番が終わり、番組終了後に彼がアッシーをしてくれる予定なのだ。もちろん、アッシーはついでで、その時間の数分前にはお菓子屋さんが私の家に、あきえちゃんを連れて到着している予定である。
「僕の出番なんて無かったじゃないか。」
どうやら、一部始終を見ていたらしい。
「すみません。ついお名前を使ってしまいました。」
見ていたのなら助けろよ。と思ったがそんなことは言えないので謝っておく。仕方が無かったとはいえ、了承を得ずに勝手に名前を出したのは確かなのだ。
「君がそう望めば、あの娘をレギュラーから降ろすこともできるよ。そんなことで君の盾になれるのなら、幾らでも使ってもらっても構わない。もちろん、『お菓子屋』さんもそう言うと思うよ。」




