第5話 何故彼女は番組に出るのか
「すまん。この通りだ。」
「ねえ和重。一星テレビって、そんなに視聴率が悪化しているの?」
実は、単発の月9ドラマ「無表情な女医」を「無表情な女」としてシリーズ化しようという話が持ち上がってきたのだ。あのドラマは単発のドラマとしては驚異的な視聴率を叩き出したらしい。
あのドラマの監督兼プロデューサーが相手役が赤面しない微笑を探すために演じた私の6種類の微笑の撮影テープを上層部に持ち込んだところ、シリーズ化されることが決定したという話だった。
主演映画第1作目が今年最高の興行収入を叩き出したこともあり、新人女優の単発ドラマとしては破格な出演料を提示されていた。映画第2作目に力を集中させるという名目で私もプロデューサー『一条ゆり』もその話を保留という名前の断りを入れていたのである。
しかし、何処で聞きつけたのか和重との関係を通じて一星テレビの社長直々に出演依頼を持ち込んできたのである。
「ああ、酷いものだよ。スポンサー離れも深刻らしい。」
『観奇谷鬼好』が引き起こした誘拐劇は一般女優のアダルトビデオ出演という芸能界を震撼させる大スキャンダルへの発展していった。各テレビ局が一押しの女優の多くがこれに引っ掛かり人気を低迷させたことから、テレビドラマ自体の視聴率が低迷する事態に陥っているらしい。
その中でも和重の父親が経営するスターグループの一員である一星テレビの状況は深刻らしい。疑惑レベルで名前の挙がっていた女優のドラマ起用をそのまま続けていたため、実際に警察発表でそれが真実と露呈すると放送予定だったドラマを過去のドラマの再放送に差し替えてしまったのである。
各テレビ局が明日はわが身と報道を手控える中、ネットニュースで話題が飛び交い、一星テレビは今バッシングに喘いでいる。
「だけど、あの態度は無いんじゃない?」
一星テレビの社長は、和重との関係を黙っていてやるから出演しろと脅迫してきたのである。
なるほど、和重との関係がバレればスターグループ特有の論理から、和重との交際を続けたければ芸能界を引退せざるを得ないだろうし、和重と別れて芸能界に居座れば芸能界に居づらくなるように圧力を掛けてくるだろうことは『一条ゆり』が一時期女優を辞め芸能界を引退したことからもわかる。
「まさか、あそこで直ぐに反逆されるとは、あの社長も思って無かったんだろうな。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたな。」
私はその場でスマートフォンを取り出して社長の顔写真を撮影して、SNSへ投稿しようとしたのだ。もちろん、和重との関係も社長から脅迫されていることも全て書き込んだところを、和重に止められたのである。
あのまま、投稿していれば常に私の投稿をフォローしていてくれる『お菓子屋』さんが拡散してくれて、一星テレビは『破滅』の道を邁進しただろうに惜しいことをした。
「和重もバカにされたんだよ。分かってるの? 一瞬そのまま流そうとしたでしょ。」
「い、いや。一瞬、何を言われたか。わ、わからなかったんだよ。」
あやしい。
「本当に? ダメだよ。嘘をついたら、私は何時でもSNSに投稿できるんだからね。」
結局、その場で和重が土下座で謝り、それを見た一星テレビの社長が同じく土下座したので遠藤先生を真似て謝罪文ならぬ謝罪動画をスマートフォンで撮影したことで矛を収めているのだけど、和重の態度如何によってはいつでも攻勢に回ろうとも考えている。
「すまん。本当にゴメン。一瞬『上手いこと考えたな。』とか思った。」
やっぱりね。
「和重。本当に分かってるの? スターグループなんてどうでもいいわ。私は喫茶店店長の只のダメ男の和重が好きなの。芸能界どころか女優業さえ、どうでもいい。逆に引退させられる分には医大生の勉強に集中できて大歓迎だわ。医者になれさえすれば何もいらないのよ。」
何で人のことを金目当てのあばずれ女扱いするのかしら。医者になるためには今持っているお金で十分よ。
「すまん。初めから俺がお願いするべきだった。」
そうしてくれれば素直に頷いたのに。何故わからないのかな。
「和重が好きだから、今回は受けたけど・・・この『春のスター感謝大会』って本当に出演しなきゃいけないの? 春休み中だからいいけど。これってレギュラー番組が番組の看板を背負って宣伝活動をする番組でしょ。ドラマがシリーズ化されると言ってもシーズンに1作か2作しか出番が無い私が出るものじゃないでしょう?」
私が苦渋の選択をした途端、こちらの番組にも出演してほしいと言われた。あと2人の共演者と共に出ることになってしまった。
「ああ。連続ドラマの大半がポシャっただろ。ドラマ班から出場できる番組が少ないらしいんだ。だから、出てほしいそうだぞ。」
なんかあの番組嫌いなのよね。出演者のマヌケっぷりを見せることに終始しているんだもの。
「社長さんに言っておいて、なんか変な企画を立てて恥ずかしい思いをしたら、今度こそSNSに投稿するからねって。」




