第4話 彼女はお金をボッタクられる
「あのショーパブって美形ばかりね。」
プロデューサー『一条ゆり』がウットリして言う。本当に裕也の勤めているショーパブに行ってきたらしい。あんなものを母親が見て楽しいのだろうか。裕也は嬉々として見せそうだけど。
私もお願いされて1度だけ行ったことがあるのだが、90分1セットでショーを見てお酒を飲んで9000円もするのだという。しかもシャンパンを入れさせられ相手が飲む酒代も含めると50000円近く飛んでいってしまった。ぼったくりと思ったが、あの界隈では良心的な値段なのだそうである。
「そうですね。」
それは自分の息子も含めているのかと聞いてみたかったが止めておく。
「それにダンスが本格的だったわ。あれなら、劇場舞台でも使えるわよ。」
「世界で活躍されている振り付け師が演出を担当されていて、その弟子たちが週に1回指導してくれているそうです。しかも、お店のマネージャーが厳しい人でどんなにお酒が入っていても毎日閉店後に朝まで練習させられているそうですよ。」
寝る時間はほとんど無いと言っていたが、裕也の生き生きとした表情をみれば充実しているのがわかる。俳優業とは違う新天地だったからこそなのだろう。これが母親が関われる業界だったら甘えてしまったに違いない。
「応援してあげるのはいいですが程々にしてくださいね。せっかく彼が独り立ち出来ているのですから。それに週刊誌にすっぱ抜かれても今度はフォローしませんからね。」
週刊誌は厄介だ。あんなところで働いているのが見つかったら、例の件が再燃しかねない。今度こそ面白可笑しく書き立てるだろう。本当にゴシップネタにしかならないが。
「そんなに行ってないわよ。どちらかというとハマりそうなのは芸能事務所の社長のほうね。」
あの人がねえ。まあ、私以上にお金にガメツそうだから、放っておいても大丈夫だろうけど。
「それで貴女の方は大丈夫?」
プロデューサーが目を細めている。老眼だっだら大変だ。似合わ・・なくもないか。
「何とか単位のほうは確保しましたので、来年の映画は何とかなりそうです。」
「違うわよ。体調の方は大丈夫って聞いているのよ。あれから調子悪くなってない?」
「なんかプロデューサーったら、私のお母さんみたいですね。」
「そうね。貴女が娘だったら、どんなにか・・・あれっ・・・前にもこんな事を言った気がするわ。」
「ええありましたね。」
あの時は嘘臭いと思ったが今はそうでもない。いつでも傍にいてくれて凄く優しくしてくれる。あの男よりも余程肉親に近い。
そういえば、伸吾さんが話をしたいと言っていたが何のことだろう。こちらも成人しているんだからもういい加減に会わなくてもいいと思っているが、法律上の権利うんぬんは向こうの方がプロで何も言い返せない。いい加減、こちらも弁護士を雇うなどしたほうがいいのかもしれない。
*
結局、伸吾さんと会うことにする。弁護士相談料1時間5000円は高すぎるのである。プロデューサーに相談も出来ない。伸吾さん対策に伸吾さんを雇ったらどうなるのだろうか。
「お久しぶりです。お嬢さん。」
伸吾さんは相変わらずスマートなビジネスマン姿だ。
「用件は何。知ってるだろうけど。こう見えても忙しいのよ。」
「お父さまがアメリカに来ないか? と仰ってます。」
「それは何度も断っているでしょう。もういい加減にしてよ。」
「いいえ。そうではなくて、アメリカのハリウッドでデビューしないか。だそうです。」
あれだけ売れてしまえば、あの男の目にも入るか。
「同じことでしょう。あの男は私を近くに置いておきたいのかもしれないけれど、私には私の生活があるのよ。」
「お嬢さんは才能があるから、大きな舞台を沢山経験したほうがいい。と仰ってます。」
相変わらず、伸吾さんは伝書鳩みたいだ。才能なんて無いのに、あれは只のコピー。そんな人間がアメリカに行っても通用するはずがない。
「言っておきますけど、勝手に所属事務所にオファーを寄越したら、記者会見を開いて引退宣言をしますからね。そもそも医大はどうするのよ。中退なんて嫌よ。」
芸能事務所の社長には誰がオファーしようが、『絶対に受けない。』と言ってあるが、ハリウッドとか聞いたらコロッとOKを出しそうで少し不安だ。
「医者の勉強ならアメリカでもできる。そうです。」
医者はもっと大変だ。そもそも言葉が違う。そこから勉強し直さなくてはならない。
「ちょっと、無理があるでしょう。伸吾さんはそう思わない?」
「そうですね。少し調べてみましたが、向こうの大学に編入するのは難しくないのですが、卒業するには日本の大学の何倍も大変そうです。」
意外にも肯定的な返事が返ってきた。
「おそらく、俳優業を主体的に考えてらっしゃるのでしょう。」
くそっ。何を勝手なことを言っているんだ。医者になると何度も言って医大に進学しているのに何故、わからないんだ。人の進路を勝手に決めるなよ。全く。
「出演した映画が偶々当たっただけじゃない。何度もいうようだけど私は医者になりたいの。女優なんて小遣い稼ぎに過ぎないわ。1年生で取得した単位も50単位を越えているのよ。このまま順調にいけば、5年で卒業単位に到達できるわよ。」
「えっ。本当に? タレントに女優にあれだけ活躍されてて50単位ですか?」
伸吾さんが目を見開く。ちょっとキモイ。
「何、成績証明書でも欲しいの?」
「出来ましたら。」
「まあいいわ。それで説得できるのならお安いご用よ。」




