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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第2章
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第7話 彼女は何をお願いされたのか

「私に任せてくれる。と、思っていいですか?」


 ただの医学生には荷が重い任務だ。最悪、警備員に命令してでも騒ぎを収めなければいけないだろう。そうなれば、責任者の指導の元というお膳立てが必要だ。


「ああ、責任はこっちで取ってやる好きにやりな!」


 処置室の扉から外を覗いてみると、いるわいるわ。うじゃうじゃと厳つい顔をしたヤクザが一杯だ。


 更に周囲を見回してみると・・・居た。水商売風の女性だ、私と同じように胸元の開いた服を着ている。目があったので手招きをすると、扉の中に入りこんできた。


「ひぃぃ。お化け!」


 失礼な。私の全身を見た途端、腰を抜かしやがった。


「アネさん。化けてでこないで!」


「違う違う。良く見なよ。白衣を着ているだろうが・・・。」


「本当だ。お医者さまなんですね。その血は?」


「お前さんところのヤクザの血だ。なんとかなった。安心しなさい。そんなにその亡くなった人に似ている?」


 ヤクザの情婦に似ているなんて、幾ら厚化粧だからといって女優『一条ゆり』が聞いたら卒倒しそうだな。


「うーん。貴女のほうが大分若いですが良く似てます。でもアネさんはなんとかという女優に似せて整形していたはずだから、その女優に似ているのかもしれません。」


 そういうことか。まあいい。今は関係の無い話だ。


「お姉さんなら病院の警備員さんから聞いているよね。騒いだら追い出すって。このまま警備員を呼んでもいいのですが、なんとかして欲しいの。もう少しすれば病室に連れて行くから、一緒に行きたいよね。」


「でも、無理です。私の言葉なんて聞いてくれません。アネさんが亡くなってあの人の近くに居られるようになったけど組の中では全然発言力が無いんです。アネさんが生きていたら、ビシっと纏められるんだけどな。このままだと良くって空中分解かな。」


 この女にはヤクザ映画の情婦のようなセリフを言えないらしい。


「そうだ! 貴女が言ってください。組長も士気が下がるからってアネさんが亡くなったことは伝えて無いんです。貴女がアネさんの代わりに言ってくだされば、後はなんとかします。」


「マジ?」


「マジです。そうだ。ここにアネさんがヤクザ映画の決めセリフを言った動画があります。この通り言ってください。お願いします。」


 そう言って無理矢理、動画を見せられる。確かに『一条ゆり』似だ。この程度のメイクならば、手持ちの化粧道具でなんとかなりそうね。


「本当にやるのですか?」


 それまで黙っていた。医学生が口を挟む。


「仕方が無いでしょ。それとも担当医に謝りに行く? 私は大丈夫だけど、貴方は確実に単位を落すでしょうね。」


「そ、それは・・・。でも、ヤクザの前に出るなんて・・・。」


「いいわ。貴方は私を後ろで支えている役ね。病人が無理して起き上がってきた設定だから、支えている人間が白衣を着ていてもおかしくはないはずよ。」


 まあ、そこまであのヤクザたちが細かく見ているとは思えないけど・・・。


「やって頂けるんですね。ありがとうございます。」


     *


 最悪の場合を考えて、控え室から出口までの間に通路を塞ぐように警備員を配置するように内線電話で伝える。メイクは動画の中の女性に真似て少し濃い目にする。髪はワザと振り乱して黒いゴムで後ろでひとつで纏める。


 鏡の中の自分を観察する。こんなものかな。


 あとは白衣の下は・・・まあ、これならヤクザの情婦に化けられなくもないわよね。


 ここからが、本番だ。


「やかましい!! おめえたち! 堅気さんの前で騒ぐんじゃないよ!」


 ボイストレーニングを積んでいてよかった。控え室に声が響き渡る。


「ア、アネさん! ご無事で! 良かった!!」


 ひとりのチンピラが涙を流して近寄ってくる。


「うっとうしいな。近寄んじゃねえよ! お前たち、ちったー静かにしてやんな!」


 よかった。あんまり近寄られたら、違う人間だとバレてしまう。


「そんな!! 組長がヤられたんでっせ! これが静かにしてられますか。」


「じゃあ、好きにやんな。分かっているだろうが、堅気の皆さんに傷をつけたら、いかんぜよ!」


「わかってまっさ。それは耳にタコが出来るほどオヤジから聞かせられてきたことや。」


「わかっとったらええんや。組に戻りな! 好きなだけ弔い合戦でもしたらええが。わしはこの通りの身体やから、一緒に行けんけど サチエが仕切ってくれるで。ええな禍根を残すんじゃねえぞ!!」


「「「「おー!」」」」


 ヤクザたちが一斉に出口に向かって走りだした。若干アレンジもしたが、動画のセリフがそのまま使えた。


「じゃあ、サチエさん、後はよろしくお願いしますね。」


「えっ。なんで! 弔い合戦なんて!! 相手は親の組なのに、うちの規模じゃ徹底的に潰されるじゃないの。」


「何を言っているの? 貴女がこの動画の通りのセリフを言ってほしいってお願いするからその通りにしただけよ。他意はないわ。」


 元々コピーしかできないのだ。多少のアレンジなら可能だが、動画を見てその人の喋り方で、即席で全く違うセリフを喋るなんて、どんな有名女優でも不可能だろう。何を考えているんだか。


「だって普通騒ぎを収めようとか・・・犠牲を出さないようにするとか・・・きゃっ。」


 突然、後ろから彼女が羽交い絞めにされる。ヤクザのひとりが戻ってきたようだ。


「何やってんだサチエ、病み上がりのアネさんに絡んでないで。さっさと行くぞ!! それではアネさん失礼しやす。」


 そのまま、サチエという女性は男に担ぎ上げられて、あっという間に消えていった。

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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