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私の彼氏は超肉食系  作者: 蜘條ユリイ
第2章
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第6話 何が彼女をゾンビにしたのか

「そこの貴女、なんですか! その格好は。」


 あちゃー。そういえば、この講義の先生って初老の女性だった。こういう人って礼儀を重んじたりするんだよね。これは単位落したかなぁ。


「申し訳ありません。僕の趣味で選んでしまいました。先生のようなシックな服のほうが素敵ですね。今度はそういう洋服を着せてみますね。」


 『お菓子屋』さんが見学したいというので連れてきた。『お菓子屋』さんって年上受けが良かったりするんだよね。先生も真っ赤になって、ボーっと『お菓子屋』さんの顔を見ている。


「『十万石』って年増好きね。まあいいわ。先生『十万石』を少しだけ貸してあげるから、単位のほうよろしくね。」


 先生は聞いているのか聞いてないのかよくわからないが頷いているところをみると大丈夫だろう。


 交際中ということなので『十万石』って呼ぶように変えている。ここは公共の場だし周囲の目もあるから、ビッチ女優の演技も外せない。まあ、『お菓子屋』さんが居るときだけだが・・・。


 今日の課外授業は認天堂医大付属病院の救急外来である。どんどんと患者が運び込まれてくる。


 無茶苦茶忙しい部署なのは知っていたが、知識と現場では乖離がある。私たち見学者も見学だけというわけにいかない。医大生とはいえ、医師免許を持っていない人間が、医療行為をすることはご法度であるため、発作症状をおこした患者の足を押さえつけたりするだけなのだが、罵声が飛び交う。


「そこのイケイケの厚化粧! ここに来てこの包丁を抜け! タイミングを外すなよ。」


 どうも、この部屋の担当医に目をつけられたようだ。大きなマスクに透明なサングラス、頭には帽子と完全防備だが下は、白衣だけだ。それも胸元を大きく開けて、胸の谷間が覗いている。手には手袋をつけているが、真っ赤なつけ爪が透けている。


 ビッチと言われないだけマシかもしれない。しかし、イケイケは古いなあ。90年代位が青春だったんだろう。


 私は言われたところに立ち、担当医のカウントダウンに合わせて包丁を抜く。患者はヤクザみたいだ。刃物で命のやりとりをしていたらしく身体中に切り傷があり、銃弾の古傷と思われる跡も多い。


「何やってんだ! お前。」


 担当医のカウントダウンよりも若干早く包丁を抜いてしまったようだ。罵声が飛んでくるも担当医が傷口を押さえる。その一瞬の間で大量の血液が飛び出してきた。ワザとなのか偶然なのか向こう側から傷口を押さえたため、真上に飛び出していた血液がこちらに向かってくる。


 真正面から私の透明なサングラスに向かって一瞬だけ飛んできた。もちろん、周囲の医学生は悲鳴をあげて逃げており、担当医はその医学生たちに罵声を浴びせている。


 まさに狙ったかのようにサングラスの右目から右頬、そして胸の谷間が真っ赤に染まっている。


「おい。大丈夫か。」


 この大惨事に罵声を浴びせていた担当医も気遣いの言葉が出た。


「次は、何です?」


 こんなことは大したことじゃない。まだ処置の真っ最中なのだ。


「・・・ああ、・・・そのまま腰をシッカリと押さえつけていろ! 痙攣症状が来るはずだから、多少暴れるかもしれん。そこのノッポ! イケイケがここまでやっているんだ。腰を抜かしてないでシッカリしろ。」


 私がヤクザの腰を押さえつけると同時に痙攣症状が発生する。これも、腰をシッカリと押さえていれば、最低限の動きで済むと習った。全力で上から体重を掛けておさえつける。


 情けないことに腰を抜かした医大生がいるらしいが、周囲の医大生の様子なんか見ている暇なんて無い。


 しばらくすると痙攣症状がやむ。どうやら、ひとつの峠を越したようだ。


「よし! イケイケよくやった。お前だけ休憩な。おら! 悲鳴をあげて逃げ惑うようでは単位なんぞ貰えんと思え! ほら、次がくるぞ。」


 どうやら、これが認天堂医大名物の『血の洗礼』らしい。まあ、これくらいの血に悲鳴をあげていては医者になれない。医師免許を持っていれば外科や内科、産科となんでも出来ないといけないような過疎の村も存在するのだ。嫌だなんて言ってられない。


 しかし、派手にやってくれたものである。これじゃあ、下着まで血まみれだろうな。まあいい記念だから、『お菓子屋』さんに写真を撮って貰おう。


「『十万石』格好いいでしょ。」


 隅にいるはずの『お菓子屋』さんを振り返ってみると居ない。


「おかしいな。確か此処にいると・・・。」


 近づいていってみると床に崩れ落ちて気絶していた。仕方がない叩き起こすか。


「ひぃぃぃ。」


 叩き起こした途端に私を指差して悲鳴をあげやがった。


 なるほど。


 怖がる『お菓子屋』さんに写真を撮って貰い、スマートフォンの画面で見てみると・・・こりゃ怖いわ。思った以上に血が飛び散ったらしくホラー映画のゾンビのようになっていた。


     *


 控え室でマスクとサングラスを取り、顔を洗ってメイクを直していると外が騒がしくなった。どうやら、さっきのヤクザの仲間が騒いでいるようだ。


「オーイ! イケイケ!!」


 処置室で担当医が呼んでる。悪い予感しかしない。


「オイ! イケイケ居るんだろ!!」


 このまま、トイレに行こう。そうしよう。


「イケイケ居ます!」


 処置室からひとりの医学生が顔を覗かせている。告げ口されて逃げ遅れたようだ。


「よっしゃーでかした。」


 仕方がないので処置室を覗くと、そこには担当医のニヤついた顔があった。


「じゃあ、お前とイケイケであの騒ぎを止めてお帰り願ってこい。大丈夫だ。警備の人間がチェックしてるから、ヤッパもチャカも持ってない普通の人間だ。」


 ヤクザを普通の人間と言うか?


「えーーー。俺もすか。」


 だから告げ口なんかしなきゃいいのに・・・。お前のは自業自得だ。

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「帰還勇者のための休日の過ごし方」志保が探偵物のヒロイン役です。よろしくお願いします。
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