第5話 この芝居で騙されるのは誰だ
「和重。」
「『お菓子屋』さん。」
『お菓子屋』さんがどうしても謝りたいというので、私が和重さんのマンションに『お菓子屋』さんを連れてきた。
「何、『お菓子屋』さんって和重の知り合いなの?」
「ああ、昔の俳優仲間だ。」
「聞いてないよ。」
「ああ、言ってないからな。お前もう、『お菓子屋』さんをモノにしたのか早いな。」
「・・・・うん。そう。だから、合鍵を返して!」
「ほらよ。」
私は和重から、鍵を受け取ると何事もなかったかのように『お菓子屋』さんに手渡す。
「これをマンションの自動ドアに翳すと開くから、あとは普通に鍵を開けて入って頂戴ね。」
「ち・違うんだ。和重。これは違うんだ。」
「何、もう捨てられるの私。昨夜はあんなに愛しているって言ったのに・・・。」
*
「偶には、他人を挟んでみると面白いな。」
最近は芝居の練習に和重のマンションの扉に入ってから1分間、なんらかの芝居を続けるように言われている。まあ一種のお遊びなんだけど。
「面白くねえよ! 僕、今日一番焦ったよ。冗談じゃないよ。」
「『お菓子屋』さんって昔俳優だったんでしょ。乗ってくれると思ったのにだらしないわね。」
「はいはい。俳優なんて忘れましたよ。それよりも、この鍵返すよ。」
「それは預かってて・・・。」
「もう芝居は終わりだろ。いい加減にしてくれよ!」
ちょっと、イジりすぎたかな。『お菓子屋』さんがマジ切れしだした。少しだけ、今日の番組のおかえしのつもりだったのだけど・・・。
「ううん。本当にそのまま持っていて。この鍵で、あきえちゃんを連れて来てほしいの。無事に入ったのを確認次第、私は『中田』さんを連れていくから。もし途中で週刊誌の記者に捕まったら、『家族ぐるみで交際しています。』って言えばいいじゃない。また違う日にリトライすればいいし、あきえちゃんだけお泊りでもいいよ。」
「それって、君が『中田』と噂になっちゃうよ。しかも、僕と交際中なわけだろ。どんなビッチな女優だよ。」
「まあ女優にスキャンダルはつき物だというからいいんじゃないかな。どうせ写真週刊誌には載っちゃうんだから。」
これで映画は第1作目だけ作れば、お役御免だよね。それ以降は本当に細々とタレント活動をすれば、芸能事務所にも損にはならないでしょう。
「はあ・・・本気なんだね君。しかし君って凄いことを考えるね。でも、きっと僕怒られるよ娘に。お姉様に酷いことしてるって。」
「まあ、それは覚悟してもらわなきゃね。はあ・・疲れた。和重、出勤前に起こしてね。今日、どうしても出なきゃ成らない課外授業があるのよ。」
「それはいいが。もう、あと2時間しかないぞ。」
「ええー。もうそんな時間なの。ごめんなさい。『お菓子屋』さんも泊まっていってくれるかな。その後、部屋と大学まで送って行ってほしいの。」
「はいはい。アッシーでもメッシーでも何でもやらさせていただきます。」
*
僅か2時間だったが、和重の隣で眠るとスッキリと目覚められるのよね。それに和重の淹れてくれたコーヒーで完全に目覚める。
そして自分のマンションへ行き、もちろん堂々と『お菓子屋』さんと半ば抱き合って入る。居るよ居るよ。もう記者が数人マンションの前で待ち構えていた。私はサングラスをかけて、『お菓子屋』さんに合鍵を使ってもらい入っていく。
これで今日のワイドショーにデカデカと『お菓子屋十万石の新恋人』とか出ちゃうんだろうな。
『中田』さんとあきえちゃんが使うであろう部屋を案内しながら、サクサクと着替える。もちろん、ビッチに見えるような露出度の高い服。どうせやるのなら徹底的にやらないと気が済まないのである。
そのまま、大学に送ってもらうとギリギリ集合時間に間に合った。大学構内を『お菓子屋』さんと腕を組んで歩くとミーハーな女医の卵が悲鳴をあげていたような気がしたが、まあ気にするまい。




