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ラバーズ・ロード  作者: 永春
第二章「越境」
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9.洞窟

 暗い洞窟の中を、足音が反響する。

 カンテラの光が岩肌を赤く染め、そこに四つの影が伸びた。


「キキッ」

「きゃあ!」


 コウモリが鳴きながら前を横切り、メイリは思わずアルドにしがみつく。

 カンテラ以外の明かりもなく、肝試しでもできそうな陰鬱とした雰囲気があった。


「うっとーしい」

「ご、ごめんなさい……」


 アルド、メイリ、ユイ、カイの四人は、ミッドガルに密入国するため、国境の洞窟に入り込んでいた。


 運び屋としてミッドガルへ向かわないといけないユイとカイは、行商人としての荷馬車や馬を宿に預け、荷物だけを持ってアルドについてきたのだった。


「これが天然洞窟? 不自然なくらい歩きやすいけど」

「……ところどころ、壁に燭台がある。人の手が加えられているね」


 ユイとカイが疑問を口にすると、アルドが昔話を始めた。


「むかし、イルヴァーツとミッドガルの国境を縄張りにしていた『サンダカ盗賊団』ってのがいてな」

「サンダカ……」


 メイリは聞きながら、ぽつりと復唱する。

 聞いたことのあるような、ないような名前だ。


「首領のサンダカは腕も立つし、めっぽう頭の切れる奴だったんだが……まあそれはいいか」


 歩きながらアルドは続ける。


「そんで、サンダカはこの国境の山に目をつけた。洞窟を整備、拡張して根城にしたわけだ。この洞窟は、ミッドガル側まで繋がってる」

「じゃあ、抜ければもうミッドガル?」

「ああ。だが見てのとおり中は迷路状になってる。案内なしじゃ、一度入ったら二度と出られないとまで言われてたな」

「ふーん。詳しいじゃない」


 ユイは素直に関心するが、カイは更なる疑問を持つ。


「どうして一介の傭兵が、洞窟の存在を知っているだけじゃなく、向こう側までの道を熟知しているんだい?」


 アルドはふたりには「傭兵のメルド」と名乗っている。


「ワケありの経歴じゃなきゃ、待遇の良い王国軍兵になってるさ」

「まあ、そうだろうけど」


 その追及をかわし、さらにアルドは話題を逸らした。


「ちなみに、この洞窟のどこかにはサンダカが隠した財宝があるって噂があるぜ。巷じゃサンダカの秘宝とかって呼ばれててな」

「秘宝か。興味深いな」


 それをユイは鼻で笑う。


「やだねえ。男ってのは、そういう話が大好きなんだから。秘宝なんてあるわけないじゃん、ね、アイリ?」

「ふぇっ!?」


 急に振られてびっくりした。

 実は「秘宝、見つけられたらいいな」と思っていたなんて答えられず、どぎまぎする。


「そ、そうですわね。まったく馬鹿馬鹿しいですわ」

「お前は黙ってろ」

「うぐ……!」


 アルドに冷たくあしらわれるが、そう言えば宿を出る前に「なるべく喋るな」と言われていたことを思い出した。


「お前は奴隷っぽくねえ。特にその口調がそうだ。下手に喋ると身分がバレる。奴隷っぽくしろと言ってもわからねーだろうし、必要がない限り口を開くな」


 まったくその通りだ。

 メイリはつい喋ってしまわないように、口に手を当てて歩くことにした。


 ただ、ひとつだけ疑問を残して。


(……それほどの人物が率いた大盗賊団は、いったいどこへ? これほど整備した根城を、どうして手放してしまったのでしょう……?)


 無人となった「サンダカの洞窟」。

 その暗闇の奥底で、何かが蠢いた。


 * * *


「ねえ、まだなの? 長くない?」


 疲れたのか、ユイが文句を言う。


「国境越えがそう簡単に済むか。でもまあ、とっくに半分以上は過ぎたぜ」

「今日は洞窟の中で休むのかい? 雨露もしのげるし」


 カイが尋ね、メイリもそうなのだろうと思ったが、アルドは首を横に振った。


「ここは、なるべく早く出た方がいい。寝るなら洞窟を出てからだ」


 急ぐ理由がわからない三人に、鼓舞するように続けた。


「出口はもう近ぇ。さっさと行こうぜ。急いでんだろ?」


 しかしその直後、皮肉にも案内役のアルドが足を止めることになる。


 大きな空間に出た。

 カンテラの光が天上まで届かず、広さは小型のコロシアムほどもある。

 広場には出入り口がいくつもあり、案内なしだと確実にここで迷うだろうと思われた。


「ちょっと、道を忘れたとかじゃないわよね?」

「……少し地形が変わってる。先を確認してくるから待ってろ」


 そう言い残して、アルドはひとつの横穴へ小走りで入っていった。

 地面の石に腰を下ろすと、ユイとカイは雑談を始めた。


「……あいつ、そのままひとりで出口に向かったりして。カイはどう思う?」

「まさか。自分の連れを置いていかないでしょ」

「わかんないよ~? 仲良さそうだけど、奴隷だもんね。アイリ」


 偽名なので、呼ばれたことに気付くのがワンテンポ遅れた。ハッとして、ふたりのほうを向く。


「奴隷ならむしろ、解放されるのは好都合なんじゃ」

「ぶっちゃけ、ふたりはどういう関係なのさ? 奴隷にも色々あるけど、荷物持たされてるわけでもないし……やっぱ性奴隷?」

「――!」


 顔を赤くして、ぶんぶんと首を振った。


「違うなら、何奴隷なの?」


 問い質されて困ったメイリは、ふと思いつく。

 両手を口に当てて、「喋れない」アピールをした。


「あはは、あいつが黙ってろって言ったから守ってるの?」


 こくこくと頷く。


「忠実だねえ。こんな可愛い奴隷なら、ウチらが買い取ろうかな?」

「いまの僕たちにそんな余裕ないよ、姉さん」

「まあ、お値段聞いてみるだけでも――」


 その場にいるのが恥ずかしくなったメイリは、立ち上がって広場を歩き出した。

 待ってろと言われたが、動くなとは言われていない。広場の中を散策するぐらいならいいだろう。


「……?」


 カンテラを持って中央まで歩いて行くと、光を反射して輝く石があった。


「わぁ、きれい」


 片手大の真珠のような色・形で、光が当たると虹色に輝く。宝石の一種だろう。


「サンダカの秘宝……だったりして」


 あとでアルドに聞いてみようと思って、それをポケットにしまった。


 * * *


「悪い、待たせた」


 やがてアルドが戻ってきて、三人を先導した。

 地形が変わっていたのは広場の部分だけだったようで、そのあとはサクサク進んだ。


「これが最後の分かれ道だ」


 ふたつに分かれた穴を照らして、アルドはそう言った。


「あとはまっすぐ行けばミッドガル側に――」


 そのとき、パラパラと天井から小石が振ってきた。

 微かな振動だが、そこにいる全員が感じ取った。


「……地震?」


 ユイが呟いた瞬間、洞窟の中に獣の咆哮が響き渡った。


「グオオォォオン!!」


 鼓膜が破れるかと思って、反射的に耳を塞いだ。

 立っていられないほどの揺れが起こり、地面にへたり込む。


「くそっ、気づかれたか!?」


 アルドが舌打ちをした直後、前方の壁を突き破って巨大な腕が現れた。

 モグラのような大きな爪がついているが、毛ではなくウロコに覆われている。


「地龍だ……!」


 メイリは苦々しいアルドの表情を見て、サンダカ盗賊団が姿を消した原因はこれだと悟った。



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