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ラバーズ・ロード  作者: 永春
第一章「出立」
6/50

6.犠牲



「アジトが、黒装束の大軍に囲まれてるッス!!」


 血相を変えて飛び込んできたヤークは、そう叫んだ。

 アルドは眉をひそめる。


「はあ? なんだそりゃ。さっき襲ったやつらの残党か?」

「同じカッコーしてるんで、そうだと思うッス。でも、数が……」

「百か? 二百か?」

「ケタが、もうひとつ多いッス」

「二千はねーだろ、さすがに」


 と言いながら窓の外を見ると、確かにそれぐらい数えられてもおかしくない兵数が見える。

 アルドは同時にいくつかの思考をめぐらせた。


(この付近に、その規模の戦闘集団がいるなんて話は聞いてねぇ。仲間の復讐で出向いてきたにしちゃ、速すぎる)

(うちの盗賊団は百人程度――このアジトが砦になってるとはいえ、勝てる見込みゼロだろうな)

(タイミング的に見て、目的はこのお姫様としか思えねえが、さて……)

(戦闘が始まってねえのに、数が見えるってことは――威嚇か。戦力差を見せて、お姫様を渡せば無駄な殺し合いはしねぇぞって意思表示だろうな)


 結論を出し、面倒くさそうに頭をかいた。


「んー、やっぱ王女だったかあ」

「や、やっと信じて頂けましたのね?」


 塞翁が馬というわけではないが、ようやく信じてもらえたことにホッとした。


「ボス、どうするんスか?」

「どうするもこうするも。戦って勝てる数じゃねーだろ。逃げるっきゃねーよ」

「完全に包囲されてるッスよ。逃げれるッスかね?」

「まあ、普通に逃げれば、半分以上は死ぬだろうな。このお姫様のせいで」

「う……」


 メイリは申し訳なさそうに押し黙る。


「アレがマジで反乱軍なら、目的はこのお姫様ッスよね。ならフツーに差し出せばいいんじゃないッスか?  俺、まだ死にたくないッスよ」

「ん~……そうだなあ」


 ヤークに言われて悩むアルドを見て、メイリはたじろぐ。


「あ、あのっ……! わたくしのせいで、このようなことになってしまったのは、とても申し訳ないと思います。ですが――」

「ヤーク、全員を大広間に集めろ。お姫様の従者ふたりも連れてこい」

「了解ッス!」


 アルドはメイリを無視して指示を出した。

 ヤークが部屋を出て行ってから、メイリに一言だけ伝えた。


「服、着とけ」


 * * *


 喧騒に包まれた広間。

 前の方には、エイダンとショーンが縛られたまま座らされていた。


「オラ、静かにしろや! 」


 アルドが声を張り上げると、水を打ったように静まり返った。

 メイリを引き連れて壇に登ると、視線がそこに集まった。


「聞け野郎ども。知っての通り、この砦は大軍に包囲されている。こんなところで、わざわざ死ににいくほどバカじゃねえ。そこで、俺はひとつの決断をした」


 アルドは腰の大きなナイフをすらりと抜く。

 磨かれた刃に、メイリの顔が映った。


「あ、アルド……?」

「貴様、姫様に何をするつもりだ!」


 暴れるエイダンとショーンが、アルドの手下に押さえつけられる。

 アルドはメイリの髪をわしづかみにして、ぐいっと上に引っ張り上げた。


「動くといてーぞ」

「……!」


 抵抗することもできたが、しなかった。

 アルドを、信じると決めたから。

 ぎゅっと強く目をつむった。


「姫様っ!」


 びゅんと風を切ってナイフが振られる。

 直後に頭がガクンと揺れた。


 吊るされていた糸が切れたように、メイリはバランスを崩して床に倒れ込んだ。

 アルドの手には、メイリの長かった髪の毛が握られていた。


「おい、エイダンとショーンっつったか」

「き、貴様、何ということを!」

「お前らのどっちか、 この髪をカツラにしてお姫様のフリをしろ。 大丈夫だ、遠目ならバレねぇ(と思う)」

「なっ……!?」

「んでもう片方は、それを連れて敵軍に投降しろ。俺たちゃ、お前らが注意を引き付けてる間に逃げる。敵の目的がお姫様なら、お前らがバレないうちはスルーしてくれんだろ」


 名案のように聞こえるが、メイリは恐る恐る尋ねた。


「そ、それは、ばれてしまったとき、エイダンとショーンは……どうなるのですか?」


 アルドはあっさりと答えた。


「俺が反乱軍なら、そんなナメた真似してきた野郎はただぶっ殺すだけじゃ済まさねえな 」

「そ、そんな案――」

「これが却下だっつーなら、仕方ねえ。おとなしく本物のお姫様の首を差し出して、見逃してもらうさ」

「うぐ……!」


 メイリが黙ったところで、アルドはエイダンとショーンに問いかけた。


「どうするお前ら。やるか?」


 ふたりにそれを聞くのはずるい。

 従者の彼らがノーと言えるはずがない。


「姫様のために死ねるなら本望だ。ここで尻込みしていては、マズルに合わせる顔がない」

「貴様のような外道に姫様を任せるのは、心底不本意だがな。それしか手段がないのであれば仕方ない」


「いけません! 何か他の案を――」


 止めようとしたとき、外で鬨の声が上がった。

 戦を始める前の雄叫びだ。

 いよいよ、黒装束の軍が攻めてくるのだろう。


「時間がねえ。恨むなら、何も名案が思いつかない自分を恨め」

「そんな……」

「お前ら! 聞いての通りだ!」


 アルドは再び手下たちに向けて叫んだ。


「俺ァこのお姫様と旅に出る! よって、盗賊団はこの瞬間をもって解散とする!」

「ボス!? なにも、解散しなくたって――」

「行き場がねぇ奴はヤークについて行け!」

「俺ッスか!?」

「囮が出たら、散り散りになって走れ! 宝物庫のモンは好きなだけ持ってっていーが、持ちすぎて逃げ切れなかったらマヌケだぞ! 囮がばれたら俺たちも追われるからな!」


 指示を出しきると、最後にアルドはとても楽しそうに笑った。


「トリの演目は『鬼ごっこ』――野郎ども、遊びの時間だ!」



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