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ラバーズ・ロード  作者: 永春
第一章「出立」
4/50

4.真意



 統一感のない高級品で溢れている広い部屋。

 龍をかたどった柱時計がコーン、コーンと時をきざむ。柔らかすぎるソファが落ち着かない。

 おそらくどれも強奪品なのだろう。

 ふいにドアがノックされ、ひとりの男がトレーを持って入ってきた。


「『お姫様』、お食事でございますッスよ」


 アルドの側近で、ヤークと呼ばれていた男だ。


「……エイダンとショーンには?」

「同じものが届いてるはずッス」

「……ありがとう、ございます」


 色々と思うところはあるが、とりあえず受け取る。

 毒が入っているわけでもないだろうし、お腹もすいていた。


「それじゃ、そろそろボス来ると思うんで、それまでに食べておくといいッス」


 ヤークはニヤニヤ笑いながら、部屋を出る前に言い残した。


「ボスが来たら、『それどころ』じゃないと思うんで」

「……」


 アルドの台詞が頭をよぎる。


「お前、俺の女になれ」


 そんなことを言われたのは、箱入り娘のメイリは生まれて初めてだった。

 無意識に顔がほてる。

 ぶんぶんと首を振る。


「しっかりなさい、メイリ」


 自分を叱咤する。

 そうだ。あんな盗賊の言葉に振り回されてはいけない。


 アルドは用心深い男だ。

 目先の利益に飛びつかず、先のことまで深く読んでいる。

 そうでなくては、あの歳で盗賊団の首領などつとまらないだろう。


「なにか、別な目的があるに違いありませんわ。わたくしと二人きりで話す場を作るために、こういう手段を取ったのかもしれませんね」


 アルドの考えを探ろうと、メイリは数時間前のことを思い出した。


 * * *


「お前、俺の女になれ」

「なっ、なにを馬鹿なこと――」


 メイリより先に、従者のエイダンとショーンが激怒した。


「姫様、耳を貸す必要などありません!」

「うるせーな、今はこのお姫様と話してんだよ」

「下手に出ると思って、調子に乗るな!」


 アルドはため息ひとつ、くるりと背を向けた。


「はいはい。んじゃ、いったん帰るぞ。売るにしろ囲うにしろ、一度アジトに戻る必要がある」

「了解ッス」

「どうせ素直についてこないだろうから、そいつらまとめて縛って引きずってこい」

「ふざけ――」

「抵抗したら殺す」


 その脅しは、おそらく嘘じゃないと思える迫力があった。


「……くそっ!」

「エイダン、ショーン。仕方ありません。今は」


 そしてメイリたちは大人しく捕まり、山の中にある盗賊団のねぐらへ連れて来られた。

 到着するとエイダン・ショーンと引き離され、メイリだけがこのアルドの居室へ放り込まれたのだった。


「しばらくしたら戻る。それまでくつろいどけ。『俺の女』らしくな」


 アルドはそう残してどこかへ行った。


 部屋の外にはヤークが見張りに立っているので、逃げることはできない。

 メイリは首をかしげて考える。


「……わかりませんわ。あの男、いったい何が目的なんでしょう。まさか本当にわたくしの体が目的なんてことは――」


 部屋の中を見渡す。

 壁には、水を浴びる裸婦の肖像画。

 隅には、石で作られた裸の天使像が置いてある。


「……あるかもしれませんわね」


 しかし、どちらにせよアルドが帰ってこなければ話が進まない。

 見張りもいるし、エイダンとショーンを人質に取られたような形なので下手に動けない。


「腹が減ってはいくさはできぬ、と言いますし」


 とりあえず、運ばれたご飯を食べることにした。


 * * *


「お父様!」

「おお、どうしたメイリ」

「春ですわ。雪の下に、黄色いお花が咲いていましたの」

「プリムラか。小さくて美しい。メイリによく似ているな」

「まあ、嬉しいですわ。ありがとうございます、お父様――」


 * * *


「……おとう……さま……」

「お? やっと起きたか、『お姫様』」

「はっ! わたくし、眠って……?」


 起き上がろうとして、体が動かないことに気が付いた。

 手足も胴体も、縄で縛られていた。

 痛みはない。が、きつく固定されている。


「なっ!?」

「芋虫みてぇだな」


 そう言って笑うアルドに怒鳴った。


「なんの真似ですか、これは! ほどきなさい!」

「うるせぇぞメス豚が 」

「ふぁ!?」


 予想外の反撃に、思考が停止する。


「ぴぃぴぃわめき散らしやがって、何の役にも立たねえ癖にうっとーしい。羽虫以下の存在だな 」

「……!?」


 なんだ。何が起きている。

 どうしてこんな扱いを受けるのか、メイリには理解できなかった。

 言葉が出ずに口をぱくぱくさせていると、メイリの様子を観察していたアルドが尋ねた。


「……どうだ、興奮するか?」


 その言葉が一瞬理解できなかったが、すぐに叫んだ。


「すっ! するわけないでしょう!」

「ぎゃははは、そっかそっか。すまねえな」


 アルドはすんなりと縄をほどき始めた。


「お前のこと何も知らねえからよ、もしかしたらこういうのが好きかもと思ってな」

「意味がわかりませんわ! いたぶられて喜ぶひとがいるものですか!」

「いやあ、それがたまにいるんだわ」

「エッ」

「首を絞めて欲しいとか、火であぶって欲しいとか」


 メイリは目を丸くする。

 世界は広い。世の中には知らないことがたくさんあるが、この話は知らないほうが良かった気がする。


「ゴホン。ふざけてないで、本題に入ってください」

「本題?」

「あなたの目的はいったい何なのですか。こんな回りくどいことをして、二人きりでしか話せないようなことなのでしょう?」

「はっ、ンなもんねぇよ。本題は『これ』だ」


 アルドの右手が顔に近づいてきた。

 とっさに目を閉じると、そのまま目隠しをされた。

 大きな手だ。片手でメイリの額から両目、鼻のあたりまで悠々と覆っている。


 普段から武器を握っているためか、少しごつごつしていて冷たい。

 いや、自分の体温が高いのか?


「――!」


 いきなりだった。

 温かくて柔らかくて、少し濡れているものが唇に触れた。



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