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ラバーズ・ロード  作者: 永春
第一章「出立」
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3.取引


「わたくしがこの場の責任者。イルヴァーツ国主ヘルンが三女、メイリ・ヘルンですわ」


 凛と名乗った途端、空気が止まった。

 メイリの威厳によるものかと思ったのもつかの間。


「……くっ」

「ぷくく……」

「ぶはっ!」

「ぎゃはははは!」


 盗賊たちは大口を開けて笑い始めた。

 なかでも一番笑っているのは、首領の男だ。


「――っはっは、ひー。いーねー、いいセンスだよキミ。俺はアルド、こいつらのボスだ」


 これは良い反応を得られたのか、そうではないのか。

 メイリには判別つかなかったが、とりあえず欲しかった反応じゃないことは確かだ。


「……何がおかしいのですか?」

「ぶはっ! やめろよ、そのネタひっぱんなって」

「今後の参考までに、ぜひ」

「は~? 天然ってやつか?」


 アルドは目元の涙をぬぐうと、口元を緩ませたままメイリを指差した。


「わがイルヴァーツ王国のお姫様が、護衛もつけず、そんな娼婦みたいなカッコーして馬車に乗ってるわけねーだろって」

「しょっ……しょう、娼婦!?」


 メイリは顔を赤くした。それが怒りか羞恥心かは、自分にもわからない。

 改めて自分の格好を見る。

 イルヴァーツ城内の温かい居室、柔らかいベッドで眠るための寝間着はとても薄く、肌が透けて見えた。


「――っ!」


 慌てて胸元とヘソのあたりを、両腕で隠した。


「しかし見た目は最高だな。歳も若いし、さぞ高いんだろう。娼婦のくせに馬車で丁寧に運ばれるだけある」

「い、いい加減にしなさい! 無礼にもほどがあります!」

「なんだぁ、そこまでしつこいってことは、王女をカタることでこの場を切り抜けようとしてんのか?」

「嘘ではありません! わたくしは正真正銘の――」


「証拠は?」


 言葉をさえぎられ、目をしばたたく。


「え?」

「だから、証拠だよ。王族なら、普通なんか証明できるもの持ち歩いてんだろ」

「…………」


 メイリは小声でショーンに尋ねる。


「な、何か持っていますか……?」

「申し訳ございません、急いで出たもので……」

「ですよね……」


「ぎゃははは、やっぱ嘘じゃねーか。残念だったな、全員奴隷コースだ」

「違います! これには事情があるんです!」


 メイリは慌てて否定する。


「お聞きなさい!」


 ぴっと右手を前に出して注目を集め、これまでの顛末と、これからの展望を語った。


「イルヴァーツ城は先日、反乱軍に急襲されて落ちました。わたくしたちは命からがら脱出し、中央に援軍を求めに行くところなのです。わたくしの危機はイルヴァーツの危機。それを救って下さったアルド殿に深く感謝するとともに、救国の英雄として讃えます。無事に首都にたどり着き、イルヴァーツを救うことができたならば、望みの褒美を取らせましょう。信用できないならば、首都までついて来れば良いですわ」


「は? 嫌だけど。つか、なげーよ」


 ガンとショックを受けるメイリを見て、ショーンが激怒した。


「貴様! 口下手で人見知りな姫様が一生懸命言葉を紡いだというのに、なんだその態度は!」


 ただの追い打ちだった。


「ぎゃはは! フォローになってねーぞ」

「ショーン、いいのです、わたくしの伝え方が悪かったのです……」

「ばぁか、伝え方の問題じゃねーっての」


 アルドは見下したようにため息をつく。


「王女である証拠がねー時点で論外だが、仮に王女だったとしてもリスク高すぎなんだよ」

「リ、リスク?」

「そうだ。王族がこんな盗賊との約束を律儀に守るとは思えねー。かと言って解放せずについてっても、俺らは首都に着いた途端に捕まって牢屋行きだろ」

「そ、そんなことしません!」

「初対面でそれを信じろって方がムリ」

「う……」

「なんか反論あるかオイ」

「…………」


 メイリが黙り込んでしまったのを見て、アルドの手下たちが冗談交じりに非難した。


「あー、泣かせた」

「ボス、女の子泣かせたー」

「バカヤロ、いま真面目な話してんだよ」

「泣いてません」


 メイリは涙を払うと、恥を忍んで盗賊に頭を下げた。


「では、教えてください。どうすれば良いですか?」

「あ?」

「わたくしは、ここで捕まるわけにはいきません。いそぎ首都に向かい、反乱の報を伝えねば。売られた後に隙をついて逃げ出すこともできますが、時間が惜しい」

「俺の知ったこっちゃねー」

「わたくしは何も知りません。あなたが望むものも、交渉の仕方も。だからお願いします。どうすれば解放して頂けるか、教えてください。覚悟はあります。何でもいたします」


 必死に頼みこむと、アルドは腕を組んでしばらく考え込んだ。


(確かに、このガキが本当に王女だった場合、ただ奴隷屋に売るんじゃもったいねえ。それにこの見目だ。奴隷屋にボロ儲けさせるのもシャクだしな……何か策はないか。王族かどうか確かめつつ、安全に大きな利益を回収できる手段は……)


 回転の速い頭に電気が走り、アルドはぽんと手を打った。


「――ああ、閃いた」


 呟きに反応して、メイリは下げていた頭を起こした。そのあごを人差し指でくいっと上げて、軽く引き寄せながらアルドは下衆い笑みを浮かべた。


「お前、俺の女になれ」



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