プロローグ
よろしければ一読どうぞ。感想お待ちしております。
健全な男子高校生の9割9分9厘は女子の下着に興味があると言っても過言ではない。
そもそもが、である。
あんなに短い余りにも防御に頼りない、ひらひらの腰布でその生足を惜しげもなく陽の光に晒すことを国に強制されているのだ。これはもう国を挙げての男子高校生に対しての挑戦もしくは応援と受け取らねばなるまい。
捲れ。
そしてその目に焼き付けろと。
倫理など関係がない。欲望のまま、理性などかなぐり捨てて。
羞恥に染まる女子の表情がさらに興奮に拍車をかける。
抑えきれぬ願望と欲望が理性を破壊する。どこか意識の遠い場所でやめろと訴えているが聞こえない。例え聞こえていても従わない。
彼女は油断している。
仕掛けるならば今だ。
確実に仕留められる。
サブマリン投法のような美しいフォーム。
地面をえぐるような急角度から振り上げられた右手は、優しくスカートの端を捉える。
そしてそのまま空高くその手を掲げるようにそれを捲くりあげた。
見事なまでのスカート捲り。
芸術的なまでのパンモロ。
黒いニーハイソックスから艶やかな太股、女性らしい丸みを帯びた臀部とスカートに収められたシャツの隙間、そこに見える薄い桃色の布一枚。
止まる時間。
圧倒的な達成感と開放感を得ると同時。
絶望的なまでの後悔と焦燥感がその身を襲う。
「きゃっ」
短く高い悲鳴が一つ。
慌ててスカートを押さえるがもう遅い。
本日二度目のお披露目である。
絶対零度の視線が彼を捉えた。
あれは人が人を見る目ではない。汚物か蛆虫か、それを目撃した人間の目であった。
「覚悟は出来ていますか?」
「落ち着け、不可抗力だって分かっているだろ?」
「死んでください」
「やめ――っごふっ!」
数秒意識が落ちた。
それほどに見事なハイキックが放たれたのだ。
女子高生が繰り出していいレベルの足技ではない。総合格闘技の大会にでも出場したほうがいい、きっと結構な結果を残せることだろう。
「い、……痛つっ…………、こっちだって見たくて見ている訳じゃないんだけど……」
「もう一発受けますか?」
「分かった、分かったからその蹴りをやめろ」
彼、水無瀬志波はスカート捲りという衝動を抑えられない。
そして彼女、天枷天鳥は――。
「……ちょっと手を貸してください」
恥ずかしそうにそう呟く。
何事もはっきりと受け答えする彼女にしては珍しく小声で自信なさ気だ。
志波はすぐに察すると黙って右手を彼女に向かって差し出す。
遠慮がちに天鳥はその手を握り締める。
「く、……屈辱です。辱めです。……貴方に触れていないと、気が狂いそうになるほど不安になるなんて……」
「そう言うなよ、お互い様だ」
「冗談じゃありません」
繋いだ手を振り払い、天鳥は言う。
冷たい声だ。
誰も寄せ付けない冷徹の拒絶。
「行きますよ、犯人を見つけ出さなくては」
「へいへい…………」
その二人を眺める少年がいた。
「二人の空気作っちゃって、僕もいるんだけどなぁ……」
志波に向かって小走りに近付いた彼、天野輝晃は自分の手を上げて元気に声を上げる。
「水無瀬君ハイターッチ」
「? お、おう」
反射的に手を叩き合わせてしまう。
「これになんの意味が?」
「意味なんてないよ、ただ元気が出るでしょ?」
よく分からない。
彼が置かれている状況もよく分からない。
完結に言うと。
転入初日に学園長に意味不明な試験に参加させられている。本人の意思など構いもせず強引に、結局断ることも出来ず流されるままに身を任せている状況だ。
「時間がありません、急ぎましょう」
「そうだな。俺も何度も蹴られたくはないし」
犯人の目的は分からないが、この意味不明な制約を解かなければ色々と不味い。
志波のこれからの学校生活どころか私生活に支障が出る。
「とりあえずは移動です、領域範囲外に出れば能力の効果は消える筈ですから」
そう言って彼女は先陣を切って歩き出す。
歩む速度は心做し早足だった。
その後を慌てて追いかける輝晃。それに続きながら、志波はこの面倒な試験の始まりを思い返していた。