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プロローグ5

 お婆様の短剣の一撃は確実に急所を狙うものだった。


ジークはそれを剣で受け止めながらじりじりと後退する。


「ははっ。どうした、ジークの坊や。いつものように斬ったらいいものを!」


「くっ。さすがにお婆様を斬りつけたらローズが怒る。あいつは怒らせたら怖いんでね」


「情けないね。あんたみたいなのをへたれというんだよ」


 お婆様は短剣で斬りつけながら器用に話す。ジークは何とか相手の隙ができないか伺っていた。が、なかなか斬り込む事ができない。仕方なく少し後ろに飛びのいた。お婆様はそれを追いかけてさらに突っ込んでくる。


「ははっ。坊や、とうとう逃げる気かい?」


「んなわけないだろ。ただ、隙ができるのを待っていただけだ」


 ジークはそういってお婆様に両手をかざした。


「…コールド」


 短く呪文を詠唱すると手から淡く白い光が放たれる。それがお婆様の足元に降りかかると氷となって凍りつく。


「な、なんだい。これは?!」


「あんたは魔力を持っているだろう。肉弾戦でやったとしても勝ち目がない。だから、魔法を使ったまでだ」


 ジークはそういいおいてからゆっくりと近づく。そして、お婆様を無表情に見下ろした。


「さようならだな、お婆様」


 ジークはお婆様の胸元に剣をゆっくりと沈めていった。

「なっ。どうして…」


 ズブズブと剣は胸元に深く突き刺される。お婆様の口や刺された部分から赤ではなく青紫色の血が流れて地面に染み込んでいく。


「やっぱりあんたは妖魔だったんだな。しかも、厄介な筋の。俺が白雷の神子だといっていたが。知っていたんだな」


「かはっ。そうだ」


 お婆様こと妖魔は口から出る血を吐き捨てながら答えた。ジークは背中まで貫通させると一気に剣を引き抜いた。ざしゅと鈍い音がして妖魔はゆっくりと前に倒れこんだ。既に息はしていなかった。ジークはそれを見届けると剣についた血を払ってから鞘に収めたのだった。

 そして、その場を立ち去った。


 夜が明けてジークはいつも通りに剣の稽古をしに森に向かった。村外れまで来るとお婆様に化けていた妖魔と戦った場所にたどり着いた。

 そこにあったはずの妖魔の骸はすでにない。ジークは妖魔が日の光に当たると消滅してしまうことを知っていた。彼が剣で戦えるようになってから村に来た妖魔を狩っていたからわかる事だった。剣術を教えてくれたのは元騎士だったサイモンという中年の男性だ。サイモンはかなり強くてジークに対しても手加減せずに特訓をしていた。ジークがまだ五歳と幼い時だったが。

 そんな事を思い出しながら歩き出す。今日はお婆様がいないということで村が大騒ぎだろう。どう、ローズに言ったものやらと頭を悩ませる。ジークは仕方ないとため息をついたのだった。



「あ、ジーク。こんな所にいたのね。探したわよ」


「ローズか。何しに来たんだ?」


「何しにって決まってるじゃない。お婆様の事を聞きにきたのよ」


 やはりそうきたかとジークは内心で思った。


「…お婆様か。あの人だったらもういないよ」


「え。いないってどういうこと?」


 仕方ないと思いながらジークは昨夜の出来事を説明した。するとローズは嘘と言いながらうつむいて黙りこんでしまう。だから言いたくなかったのにと苦味が走ったような表情になる。


「そうだったの。お婆様は妖魔だったのね。ジークは知っていたの?」


「何となく気づいてはいた。昨夜になって俺が家を出たらいきなり襲いかかってきた。小競り合いになって斬らざるをえなかった」


 淡々と言うとローズは苦笑した。


「言いたくないんだったら無理に言わなくていいわ。けど、お婆様の事を見抜けなかったあたしはまだまだね」


 ぽつりと言うとローズは踵を返した。ジークを置いて村に戻っていったのだった。

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