番外編 ローズの新婚生活4
この回でローズ編は終わりです。
三日後にやっと腰痛と足の捻挫は完治した。
ウェンディ先生からも「もう大丈夫だよ」と言われて私は浮かれてしまう。ジークも母さん達もホッとしている。妹のメリーは私の完治お祝いにとラズベリータルトとバーンズという黄色くて細長い形の南国の果物を使って作ったパウンドケーキを作ってくれた。バーンズは熟すと甘くて美味しい。それをスライスしてスプーンで押し潰したものを生地に入れて混ぜる。そうしてから型に入れてオーブンで焼く。とてもほっこりとした甘みが美味しいパウンドケーキが出来上がる。これと同じく南国で採れるコーツィンという豆があった。コーツィンは果実から種を取り出して。火で熱して煎る。それを挽くと黒い粉になるのだ。
この黒い粉にお湯を注いで砂糖を入れる。牛のお乳も入れるとカーフという飲み物になるのだ。カーフとこのバーンズのパウンドケーキは意外と合って美味しい。
「……今日ね。クォーツさんとコンラッド様から頂いたの。バーンズとコーツィンの粉とをね。だから作れたんだけど」
「え。クォーツさんだけならまだしも。コンラッドさんもくれたの?!」
「うん。お姉ちゃんが怪我したって聞いたらしくて。ジュリアナさんやロアラ様も心配してたって言ってたよ」
メリーの言葉に私は驚いた。かつてこの国を守るために一緒に旅した人達ではあるが。まさか、私の怪我の事を聞きつけてこういう贈り物をしてくれるとは。今では滅多に会わなくなっていたのにだ。
「……そうだったの。じゃあ、お礼の手紙を送らないとね。教えてくれてありがとう。メリー」
「うん。さ、早く食べないと冷めちゃうから。ジーク兄も遠慮しなくていいよ。まだあるから」
メリーに言われてジークもバーンズのパウンドケーキを口に運んだ。私も食べてみる。ほっこりとしていてそれでいて癖のない甘みが良い。生地もしっとりしている。カーフも飲んだら相性が良い為、すごくバーンズの味を引き立てていた。
こうして母さんとメリー、ジークとの四人でパウンドケーキやカーフに舌鼓を打ったのだった。
翌日、母さんとメリーは迎えに来たクォーツさんとジュリアナさん夫妻と共に私の家を後にした。ジークと二人で別れを惜しんだ。
「……本当に今迄ありがとう。おかげで大助かりだったわ」
「ローズ。今度はあんたが村に帰って来なさいな。そうねえ。ジーク君との間に赤ちゃんが生まれた時にでも」
「……なっ。義母さん。何を言って」
「……ははっ。冗談よ。けど早めに孫の顔を見たいのは確かだね」
「その。頑張ります」
ジークはボソッと答える。母さんはニヤニヤと笑っていた。
「この調子だと来年にはできてるね。メリー、あんたも彼氏を早めに見つけてよ」
「……母さん。あたしはまだ十五だよ。彼氏を作るにしたってまだ早いって」
メリーが言うと近くにいたジュリアナさんとクォーツさんが頷いた。
「それはそうですね。サラさん。メリーちゃんはまだまだこれからですよ」
「うん。僕もそれは思います」
「……二人とも。そんな事を言ってたらメリーが行かず後家になっちゃうよ。ただでさえ、男っ気がないのが心配なのに」
「……じゃあ。私の同僚の騎士を紹介しましょうか?」
「え。いいの?!」
「はい。メリーちゃんより三、四歳は上ですけど」
母さんはやったと喜んだ。メリーは驚きすぎて言葉が出ないらしい。まあ、そんなこんなで二人はクォーツさん夫妻と一緒に帰って行ったのだった。
見送りが終わり家に入った。ジークは私を横抱きにすると寝室に行った。ベッドに降ろされる。
「……ジーク。まだ昼間だよ」
「……ん。ちょっと義母さんの言葉に煽られた」
私はそれを聞いて顔に熱が集まった。たぶん、真っ赤になっていると思う。そ、それって。ナニをナニするって事でして!!
アホな事を考えないとやってられない。
「……ジ、ジーク。頼むからお風呂は入らせて」
「そうだな。じゃあ、一緒に入るか?」
「何を言ってんの。ジーク」
「頭と体は……」
「ギイヤアア!!」
私は悲鳴をあげてクッションをジークに投げつけた。ボスっと彼の顔に直撃する。その間に慌てて何故か用意してあったネグリジェなどを持って浴室に向かう。私はボソッと呟いた。
「……たくっ。ジークのムッツリスケベ」
そう言った後で服を脱いでお風呂に入ったのだった。
お風呂から上がるとちょっと機嫌の悪いジークが待ち構えていた。黙って近づいてくるとおもむろに抱きしめられる。
「……ローズ」
低い掠れた声で名前を呼ばれた。ドキッとなる。うう。ジークのこの声に弱いのだ。一気に顔に熱が集まってドクドクと心臓がうるさく鳴る。不意に顔が近づいて額にキスをされた。
「さっきはごめん」
「ううん。私もごめんね」
謝るとジークは蕩けるように笑う。頬にもそっとキスを落とされた。唇にも優しくされて。ジークは髪を撫でた。
「……愛してる」
小さな声で囁く。私は嬉しくなって背伸びをした。ジークの首に両腕を回す。しがみ付くように抱きついたのだった。




