番外編 ローズの新婚生活2
あれから、五日が経った。
やっと腰痛はましになってきたが。右足首の捻挫はまだ痛む。鎮痛剤のお世話になっていた。この間、ジークは一生懸命に私の世話をしてくれた。さすがに厠やお風呂は出来る範囲で自力で入ったが。脱衣場での着替えは手伝ってもらった。何せ、立てないので困った。仕方ないので大きな声でジークを呼んだのだった。
五日も経つと腰痛が取れてきた。足首の捻挫も腫れが少しは引いてきただろうか。お食事は三食全て用意してもらってばかりだ。心苦しくはある。
「……ジーク。後十日くらいはこの状態が続くね」
「そうだな。けど仕方ないだろ」
ジークはそう言いながら食べ終えた食事の後片付けをしている。お皿などを持って寝室を出ようとした。私は自分が情けなくて唇を噛み締めた。
「……ローズ。嫌だろうけど。無理はするなよ」
「うん。そうだね」
無理矢理、笑顔を作って頷いた。ジークはため息をつくと出て行く。それを見送ったのだった。
ううむ。暇だ。私って本当におっちょこちょいだなあ。ジークは今、洗濯中のようだった。悪戦苦闘しているんだろうか。ちょっと気になる。けど寝室から出るのは禁止にされているし。どうしようかな。うんうん考えているうちにも時間は過ぎていく。
……そうだ。ロアラさんからもらった恋愛小説があった。これでも読もうかな。そう思ってサイドテーブルにずりずりとにじり寄った。本を手に取った。まだ、やっぱり歩いたり立ったりはしづらい。ぜえぜえ言いながらもベッドに横になる。しばらくしてからクッションにもう一度凭れかかった。小説を読み始める。これは一人の平民の少女と騎士の青年の身分差のラブストーリーらしい。紆余曲折あって少女が騎士と結ばれるという物語だ。ロアラさんは騎士の逞しさや少女のひたむきさが良いと言っていたけど。ペラと表紙をめくって一枚ずつ目を通していく。まだ、半分も読んでいない。それでも良い暇つぶしにはなったのだった。
一時間ほどしてジークがウェンディ先生と一緒にやってきた。ジークはちょっとやつれている。それもそのはずで私とは寝室を別にしているから夜は眠れていないと思う。
「……ローズさん。今日は調子が良いみたいだね」
「あ。先生。こんにちは。はい。だいぶ、痛みはマシになってきました」
「それは良かった。じゃあ、治り具合を確認しようか」
頷くと先生はカバンをテーブルに置く。聴診器を取り出した後、診察が始まった。まずは下瞼を下ろして様子を見たり舌を出して確認したり。脈拍を測りそれから聴診器で心臓の音などを確認したりする。後は腰のあたりを触ったり押したりして触診だ。魔法で体の中を透かし見たりもする。最後に包帯と湿布を取り除いて捻挫の様子も確認して。ウェンディ先生は持ってきていた手帳にそれらを記入していく。
「……うん。腰の調子は五日前よりもだいぶ良くなってきているよ。捻挫の方はもうしばらくかかるね」
「そうなんですか」
「足首の捻挫は後十日はかかると思った方がいいよ。言ったでしょ。炎症がひどかったって」
「……そうでしたね。じゃあ、本当に半月はかかりますね」
「だろうと思うよ。ジークさんも大変だとは思うけど。辛抱強く待ってあげてほしい」
「……わかりました。毎日、ありがとうございます」
ジークがお礼を言うと先生はにっこりと笑う。私を見てこう言った。
「ローズさん。今度から重い物を持つのならば、旦那さんがいる時にしてね。でないとまた今回のような事になりかねないから」
「……はい。すみません」
「わかったんならいいよ。じゃあ、湿布と包帯を取り替えておくね」
ウェンディ先生は真顔に戻ると腰の湿布と足首の湿布をジークと協力して取り替えてくれた。包帯も取り替えてもらう。さすがに先生は手際がいい。ジークに包帯の正しい巻き方も教えてくれる。そうこうするうちに時間はきた。手当てを終えると先生は手を振って帰って行ったのだった。
ジークは私が好きなラズベリーのタルトを買ってきてくれた。ハーブティーも不慣れながらも淹れてくれたし。ラズベリーのタルトを食べたらすごく美味しい。程よい酸味と甘みがあって生地もサクサクしていた。
「……うん。美味しい!」
「そうか。良かった。ハーブティーは淹れ慣れていないから。苦かったら言ってくれ」
ジークは苦笑しながら言う。タルトを食べ終えたのでハーブティーを飲んでみた。これはカモミールのようだった。苦くはなくてむしろ、ほんのりと甘い。
「……ううん。苦くないよ。むしろ甘い」
「……ああ。ちょっとハチミツを入れてみたんだ。飲みやすくなるかと思ってな」
「そうなんだ。わざわざありがとう」
笑いながら言うとジークの顔がうっすらと赤くなる。耳や首筋まで赤くなっていた。照れているらしい。意外な反応に私も驚いてしまう。
「……あの。後十日くらいはこの状態だけど。大丈夫かな?」
「……ああ。俺のことは気にするな。ローズは自分の事をまずは考えてくれ」
「わかった。心配かけてごめんなさい」
そう言うとジークはふっと笑って頭を撫でてきた。その手の温もりに包まれながらもハーブティーを飲んだのだった。




