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プロローグ3

  お婆様の淹れたハーブティーと茶菓子はなかなかの美味であった。


  ローズは舌鼓を打ちながら、それらを口に運んだ。ローズが飲み食いしているのをお婆様が呆れたように見つめている。違和感を感じながらもお構い無く、ハーブティーやクッキーを食べ終わった。


「…まったく、お前は相変わらずだの。幼い頃からよく食べる。ハーブティーはそこらの水じゃないというのに」


「…はあい。すみません」


  おざなりに謝るとお婆様はため息をついた。


「…まあ、いいわい。で、今日はわしに何の用じゃ?」


 単刀直入に聞かれてローズは居住まいをただした。


「…そのね、お婆様。最近、変な噂を聞くの。都で妖魔が出るって。そして、皇帝陛下が伝説の神子様を探してるとも聞いたんだけど。それが何なのかわかる?」


「…ああ、その事かい。わしも聞いてはいたがね」


  お婆様は眉を上げるとローズの持つカップを取り上げた。もう、ハーブティーは飲んでしまっており、ポットの中にある中身を再び注いだ。

  ローズはそれを受け取りながらこう言った。


「…ジークが最近、畑や家の手伝いをさぼって剣の稽古ばかりしてるって聞いて。もしかして、白雷の神子様に選ばれるつもりでいるのかな?」


  不安そうに彼女が言うとお婆様は小さくため息をついた。


「…あんたはいつだって、ジークの事ばかりだね。そんなに奴が気になるなら、一緒に都まで行ってくるかい?」


  そうからかうように言うとローズは顔を赤らめた。


「もう、お婆様ったらからかわないでよ。ジークはただの幼なじみだって。前にも言ったでしょう?」


「わかってるよ。何、ちょっと冗談で言ってみただけなのにね。そんなに照れなくてもいいじゃろう」


  お婆様はひゃひゃと笑いながらローズに紙包みを手渡してきた。何だろうと思いながら見るとピンク色の水玉模様をした可愛らしいデザインのものだった。

  少し濃いめのピンクのリボンで括ってあり、お婆様は開けてみなと言った。


「…開けていいの?」


「…駄目だったら渡してないよ。まあ、中身は開けてからのお楽しみだね」


  そう言われてローズは首を傾げながらもリボンをほどいた。包装紙も開くと小さな白い紙箱が現れた。

  蓋を開けてみる。中には銀色に輝く液体が入っていた。


「…お婆様。これは何?」


「…それは月の雫という貴重な薬だ。月の巫女様の首飾りにも使われている月涙石や薬草を混ぜたものだよ」


「…へえ。綺麗なお薬ね」


「その代わり、これは劇薬といってもいい代物だ。本当に重い病か大怪我をして痛い時くらいでないと飲めないよ」


  お婆様は真剣な顔で言う。ローズも真面目に頷いた。その後、家の掃除を終わらせて帰路に着いたのであった。



  自宅に帰ると母のサラや父に妹が出迎えてくれた。


「…お帰りなさい。お婆様と話し込んでいたみたいね」


  母のサラが穏やかに笑いながら話しかけてくる。ローズも頷きながら手に持った籠を見せた。


「ただいま。うん、薬草を全部渡したらお金と後ね。貴重なお薬をもらったの」


「…貴重なお薬?」


  サラが怪訝な表情をする。ローズは籠の中にある小瓶を取り出した。


「…うん。これなんだけど」


「…まあ、綺麗ね。何ていうお薬なの?」


「えっと。月の雫だと言ってたわ。お婆様が絶対に危篤の時か大怪我をして痛くて仕方ない時くらいでないと使ってはいけないと言っていたの」


  それを聞いたサラは顔を青ざめさせた。


「…ロ、ローズ。そんな高価な薬をもらったの。月の雫といったら、月の巫女様か霊力の強い人でないと作れないと聞くわ。そんな貴重な薬をいただけるほどうちはお金持ちではないし」

 

  サラは慌てているらしく部屋を無意味に歩き始めた。父も真剣な面持ちでこちらを見ている。


「…ローズ。本当に月の雫なのか?」


「わからない。本物なのかまではお婆様も言ってなかったし。とりあえず、お金を渡すわ。父さん、母さん。これで今月の生活費は助かるはずよ」


  ローズが元気づけるように言うと父はまあ、そうだなと頷いた。母のサラも気を取り直してローズからお金を受け取る。


「まあ、気にしてたって仕方ないわね。ローズ、いつも代わりに薬草を持って行ってくれてありがとう。助かるわ」


「うん。じゃあ、母さん。もう、夕方だから食事の準備をしようよ」


「わかったわ。父さん、悪いけど。メリーを呼んできてちょうだい」


  サラが頼むと父は奥へと入っていった。ローズとサラは台所に向かったのだった。

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