三章2
そうして翌日、ジークとローズ、コンラッドの三人は皇宮に向かった。
コンラッドの話によると白夜剣と雷光剣は皇宮の地下室に普段は封印して保管してあるらしい。ふた振りの剣は岩というか石に突き刺さった状態で皇宮の鍛錬場に移動して主を待つという。それを行うのは魔術師と騎士達である。そこまで聞いてジークとローズは馬上で緊張していた。
「……コンラッドさん。じゃあ、皇宮で陛下に謁見した後で剣試しの儀にジークは行くのよね?」
「その予定だ」
「じゃあ、あたしも心配だから剣試しの儀に行ってもいいよね?」
「……まあ、女性が同席しても構わんが。その代わり、剣試しの儀は男が大半だからな。ちょっかいを出されるかもしれんぞ」
「うーん。あたしは同席しない方がいいのかなあ」
コンラッドとジークは内心では頷いていた。だってあんな野郎ばかりの中にローズのような若い女の子を連れて行くのは是非とも避けておきたい。が、ローズは気づかなかった。二人が心配しているのにだ。コンラッドはふうとため息をついたのだった。
皇宮の門前に着くとコンラッドは見張りの衛兵に自分の身分証を提示した。赤い色の鷲と杉の葉が交差した紋章の片手に乗る木のプレートだ。それを見た衛兵の二人は身分証をコンラッドに返した。そしてビシッと敬礼してみせる。
「……これは。スレイター騎士団長。お戻りになったんですね。お役目お疲れ様です!」
「ああ。ありがとう。じゃあ、俺たちは急いでいるんでな。通してくれないか」
「はっ。どうぞお通り下さい!」
コンラッドは頷くと馬に乗ったままで門内に入った。ジークも後に続く。ローズはこの日はジークの後ろに乗っている。こうして三人は皇宮に入ったのだった。
コンラッドは皇宮の騎士団の棟に向かう前に厩舎で馬を返す。ジークも同じようにした。その後で騎士団の棟に行った。到着するとジークとローズについて来るようにコンラッドは言う。そのまま、騎士団長用の執務室に着くと二人にひとまずは応接用のソファに座るように促した。二人はそこで休憩する。
コンラッドはさらさらと紙に何かを書き付けると立ち上がり壁際の棚の上に置かれた銀の鈴を鳴らした。ちりんと澄んだ音が鳴る。すぐに騎士団の一員らしい若い男性がやってきた。
「……お呼びですか。団長」
ドアをノックして入ってきた男性はまだ十八くらいでジークやローズと変わらない。コンラッドは男性に早速指示を出した。
「……ああ。オルグか。ちょっとこちらの二人を客室に案内してやりたいんだが。そのための書類を作成していたところだ。これを侍従長とメイド長に渡してくれ。後、メイドの手配と客室の用意をメイド長に頼むように」
「わかりました。けど団長。訳は後で聞かせてくださいよ」
「そのつもりだ。が。今は急いでくれ」
はいはいとオルグと呼ばれた男性は肩を竦めるとコンラッドから書類を受け取った。オルグはそのまま執務室を出ていく。
「コンラッドさん。あのオルグさんだっけ。部下の方なの?」
「そうだ。あいつはまだ若いが。気がよく効く有能な奴だ」
「ふうん。あたしやジークを見ても変な目で見ないし。良い人っぽいかも」
「……良い人かもしれんが。あいつ、意外と女癖は悪いぞ」
「それは同感。ローズに見向きもしなかったのは不幸中の幸いだ」
ジークが頷く。ローズはどういう意味だと見るが。コンラッドも答えない。しきりと首をローズは傾げていた。
その後、オルグは本当にメイドを騎士団の棟にまで連れてきた。ジーク付きとして中年の女性が二人とローズ付きとして少し年上らしい女性が二人と中年の女性が一人だった。合計して五人のメイドが二人に自己紹介をする。
ジーク付きの女性二人が左側がロンダ、右側がルンガといった。ローズ付きの女性三人は若い二人がリンとライラ、中年の女性がルミナといった。
この内、一番年長らしいルミナがジークとローズに挨拶した。
「……初めまして。新しい月の巫女様と白雷の神子様。私はルミナと申します。以後お見知り置きを」
「初めまして。あたしはローズマリー・シェイラスといいます。これからよろしくお願いします」
「俺はジーク・プレアデス。よろしく」
二人が自己紹介するとルミナは早速、立ち上がるように言った。こうしてルミナ達の案内でジークとローズは皇宮の客室に連れて行かれたのだった。




