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プロローグ2

 ローズは村に戻ると両親と妹のいる家に向かう。


  手には森で採ってきたきのこや野草が入った籠がある。

  ジークは放っておいて扉の前まで行くと静かに開いた。

  中には父と母、妹の三人がいた。


「…おや、ローズ。ジークと一緒にいたんじゃないのか?」


  父のジンが話しかけてきた。今年で四十五歳になるジンは母のサラと結婚して、二十数年になる。

  若い頃はちょっとした美男子で有名だったらしいジンは今でも面影があるが。サラに言わせるとジークの方が上だとの事だった。


「…うん。いたんだけどね。ジークったら、あたしが剣試しの儀式に本気で行くのて言ったら。どうしてか怒ってそのまま、森に行ってしまったわ」


  自分が無理だとか言った事は口に出さないローズであった。ジンはそれを聞くと片眉を器用に上げながら、ふうんとうなる。


「…そうか。ジークがな。あいつは家の手伝いをしないで剣の稽古ばっかりやっている。将来は騎士にでもなりたいのか。どうなんだかな」


「あたしにはよくわからないわ。ジークが騎士様になってしまっら、会えなくなるのはわかるけど」


「そうだな。ローズ、母さんがスープを作ってくれているから。手伝ってきたらどうだ?」


 わかったと言ってローズは奥に入った。



「母さん。森に行ってきのこや野草を採ってきたわ。後、薬草も。村のお婆様(ばばさま)に渡してくる。きのこと野草は机の上に置いておくから」


  ローズが声をかけると暖炉に吊された鍋を木匙でかき混ぜる一人の小太りの女性が振り返った。年は四十三歳かそこらだろう。

  女性こと母のサラは娘に答えた。


「ああ、ローズかい。帰ってきたのか。ご苦労さん」


「うん。ただいま。じゃあ、母さん。野草ときのこは机の上に置いといたから、薬草をお婆様に届けてくるね」


「…わかったよ。お婆様によろしく伝えておくれ。気をつけてね」


 はいと頷いてローズはサラの側にいた妹のメリーにも声をかけてまた、家を出たのであった。



「…お婆様。薬草をお届けにあがりました。おられますか?」


  ローズは村のはずれにあるあばら屋に取り付けてある古い扉を開いて、大きな声で目当ての人物に呼びかける。少しして、奥からずるずると何かを 引きずるような音がしてしわがれた声が聞こえた。


「…ああ、誰かと思えば。シェイラスのお嬢ちゃんか。ローズだったね。また、薬草を持ってきてくれたのかい」


「はい。お婆様の作ったお薬はよく効きますから。薬草がきれたら困るでしょう?」


「確かにその通りだね。まあ、入りなさい。薬草はその机の上に置いといてくれたらいいよ」


  扉から入り込む日の光の下、白いものが混じった髪を後ろに纏めてつぎはぎの鼠色の服を着た老婆がローズの前に佇んでいた。片足を引きずるようにして歩き、しわだらけの顔をくしゃりと笑いの形に作る。

  ローズは扉を後ろ手に閉めて薬草の入った籠を机の上に置いた。老婆ことお婆様の横を通り過ぎて、分厚いカーテンを開けて光を取り入れる。

  明るくなった室内にお婆様はまぶしそうに目を細めた。


「ありがとうね。ローズが来てくれると細々したことなんかもやってくれるから助かるよ」


「いいえ。お婆様のお役に立っているんなら何よりです」


  ローズは笑って答えながら、てきぱきと戸棚から掃除道具を出して机や椅子、床などを雑巾で拭き始めた。

  彼女は幼い頃からこのお婆様の家にやってきては母や妹と一緒にまたは一人で身の回りのお世話をしていた。お婆様は名はわからないが薬の調合や施術などの腕は確かな村に唯一の医者であり薬草師である。

  ローズの母方の祖母はお婆様の古くからの友人だったらしく、若い頃から薬草の知識が豊富で森などで採ってきては届けに来ていた。それは娘でありローズの母のサラに、次にローズ自身に受け継がれている。

  サラが来れない時は彼女が代わりに薬草を採って届けていた。

  妹のメリーはまだ、十二歳で体が弱い。だから、お婆様には昔からお世話になっていた。

  ローズも小さい頃はよく熱を出して寝込む日々が続いていた。そんな時にお婆様の調合した薬をよく飲まされたものだった。成長するごとに体が丈夫になったので今は薬の世話になることはないが。


「…ローズ。お掃除が終わったらお茶にするからね。今から、茶葉とお菓子を用意するから」


  お婆様は不自由な左足を引きずりながらも茶葉やお菓子のある棚に向かい、出してきた。お茶の用意をゆっくりとだが始める。

  掃除をしながらもそれを心配そうに見守るローズだった。

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