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二章7

  コンラッドが水を汲んでいる間、ローズとジークは木陰で休んでいた。


「……ねえ。ジーク。コンラッドさんって信用できる?」


「ううむ。どうだろうな。あの人、他にも何か隠しているような気がするんだよな」


  そうとローズは言いながら俯く。何事かを考え込んでいるようだ。ジークはふうと息をつく。あの男、自分とローズの正体に気付いていた。俺が白雷の神子でローズが月玉の巫女だと。もしかしたらイライア様が誘拐されたと言うのも嘘かもしれない。そう彼を疑ってしまう。ジークは澄み渡った青空を見上げた。憎らしくなるほどに良い天気だ。そう思いながら目線をローズに戻した。


「ローズ。いつかで良いから俺と結婚して二人で静かに暮らそう。お前とだったら村でなくてもいいくらいだ」


「え。いきなりどうしたの。ジーク?」


「いや。俺は本気だ。ローズを誰にも盗られたくない」


  まっすぐに言うとローズは顔を赤らめた。彼女にしてみたら不意打ちである。それでもローズはわかっていた。王都に着いたらジークと引き離されるであろう事は。自分はたぶんもう村へは戻れない。一生をあの閉ざされた月の神殿で過ごす。ジークが言ってくれたプロポーズが叶う事はないのだ。そう思うとローズは無性に泣きたくなった。ジークに向き直ると彼の肩に凭れ掛かる。


「……ジーク。私もあんたを誰にも盗られたくない。だから覚えていて。私があんたをその。愛してるって事」


「……ローズ」


「ジーク。私はたぶん結婚できないと思う。それでも好きだと言ってくれてありがとう。嬉しかった」


  真面目に言うが。何故か、ジークは黙り込んだ。ローズは目線を上げて彼の顔を覗き込む。不満そうにしている。


「どうしたの。怒ってるの?」


「……ローズ。何で言っている事が過去形なんだよ。俺たち、これからだろうが」


「……ジーク。わかってないのね。私が王都に行ったら絶対神殿に連れて行かれるわ。昔、本物のお婆様に言われたもの」


  それがどうかしたかとジークは言う。


「神殿に連れて行かれるのが何だ。そんなの断ればいいんだよ」


「あんた、本当に物事の重大さがわかってないわ。私が結界の護り主にならないと国が危うくなるのよ。月の巫女の役割は身も心も削る。それでもやらないといけない。私はお婆様に言われた時から覚悟はしていたわ」


「ローズ。俺を置いて行くのか?」


  ローズはジークの表情があまりにも悲しそうなのに驚く。自分に対してジークは本気なのだ。けど巫女の役割のためにはジークと別れないといけない。胸が張り裂けそうになる。


「……ジーク。プロポーズまでさせておいて悪いとは思ってる。でも私は。国のためにも結婚はできない。だから私の事はもう忘れて」


「ローズ。国のためなら俺を切り捨てるんだな。お前の気持ちよくわかったよ」


  皮肉げにけど悲しげな表情でジークはそう言い放った。ローズは涙が流れそうになるのを唇を噛むことで我慢する。気まずい雰囲気になった。そんな中でコンラッドが戻ってくる。両手には水がたっぷり入った皮袋があった。


「……ローズ。ジーク。水を入れてきたが。どうかしたのか?」


「ああ。コンラッドさん。戻ってきたのか」


「そうだが。二人とも深刻そうな顔をして。何かあったか」


「いや。何もないよ。それより、もうそろそろ休憩を終わりにしないか」


「構わないが」


  ジークはローズを置いて茂みの中に行ってしまう。仕方なくローズを促してコンラッドは後を追いかけた。ローズの今にも泣きそうな表情にピンとくる。二人は喧嘩でもしたらしい。コンラッドはやれやれとため息をそっとついた。まだまだ若いな。そう思いながらジークを探したのだった。ローズがそっと涙を流していたのを見て見ぬ振りをしながらだったが--。

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