二章4
コンラッドは深いため息をついた。
本当に知らないようだ。が、彼にもわかった。ローズの濃く質の高い魔力が。むしろ、清らかで神力と言っていい力が彼女の体を流れているのがわかる。このまま、ジークという少年と旅をさせない方が安全だ。コンラッドはそう結論づけるとこの新しい白雷の神子と月玉の巫女に目をやった。
「……そうだな。私は皇帝陛下の命令でとある方を探している。このお方は名をイライア・フレイア様。当代の月玉の巫女であられる」
「ええっ。イライア様って言ったら。伝統ある神官や騎士を輩出しているというフレイア家の娘さんで。文武両道の豪胆な巫女姫様だって有名だけど」
ローズが驚いてみせた。コンラッドは真面目な顔で頷いた。
「確かに剣術ーーレイピアの腕前はなかなかだ。まあ、本題に戻ろう。イライア様は何者かによって連れ去られてしまってな。月玉を残したままでだ。そこで皇帝陛下や皇族の方々は困ってしまわれた。月玉はこのナスカ皇国の結界の要の一つだ。
それの持ち主がいない以上、新たな持ち主が必要になる。そこで陛下は剣試しの儀と同時に月玉の巫女も一緒に探そうと決めたのだ」
「……それで。何で俺達にわざわざ話すんだ?」
「ジークと言ったな。君はこの娘の持つ力の本質をわかっているだろう。だったらこの娘とは一緒に旅をしない方がいい」
「何でだよ?!」
「言っておくが。 巫女は清らかでないといけないのが一番の条件だ。君と一緒に旅をしていたら危なっかしくて仕方ないんでな」
ジークは自分が感じた危機感が当たっていた事を痛感した。
「……嫌だ。ローズと離れたくない」
「聞き分けた方がいい。ジーク、君はローズを守り抜けるのか?」
「……」
コンラッドに厳しく言われてジークは黙り込んだ。ローズは彼の手をぎゅっと握った。
「ジーク。大丈夫だよ。私はあんたの側を離れないから」
「……ローズといったか。君は新しい月の巫女になれる素質を持っている。この若者と一緒にいても危険がいっぱいあるだけだぞ。何より、巫女を清らかなままで皇帝陛下の御許へ連れて行かないと。この国の存亡にも関わるんでな」
「ナスカ皇国の存亡に関わるって。私は何があってもジークから離れない。コンラッドさんだったっけ。月の巫女だったら他を当たってください」
ローズの発言を聞いたコンラッドはふうと深いため息をついた。頭を抱えてしまうのだった。
ローズとジークはコンラッドに言って王都へ行くと告げた。するとコンラッドは待ってくれと止めてくる。
「何であなたが止めるの。コンラッドさん」
「……ローズ。君は自分が狙われやすいのをわかっていない。かのイライア様でも滅多に外出を避けておられたくらいだ。月の巫女はその場にいるだけで妖魔を引き寄せてしまう。それだけ月の力は闇と似ているんだ」
「……確かに妖魔は私を狙っていたけど」
「ジークは白雷ーー光の神子ともいえる。本来、雷光剣と白夜剣は対でな。この二つが合わさると白光剣という最強の剣になるらしい。白光剣は扱い方が難しいが。どんな妖魔であっても打ち倒すと言われている」
「やけに詳しいね。コンラッドさん」
勢いづいたコンラッドはジークとローズに詰め寄った。
「……いいか。ジーク。君がいればローズを妖魔から守ることはできる。だが、剣を手にしていない君はまだ未熟だ。そんな状態で一緒に旅をしていても君が苦労するだけだぞ」
コンラッドは真面目な顔でジークを見つめた。近くで見るとコンラッドの瞳は青みを帯びた黒だとわかる。それをローズが発見している間、男二人は見つめ合っていたが。先に目を逸らしたのはジークだった。
「……わかったよ。ローズと二人で旅をするのはやめる」
「わかってくれたか。なら、二人だけではなく私も同行しよう。馬に乗ってきているからローズを傷一つ付ける事なく王都に送り届ける。それは約束しようか」
「何で俺は抜きなんだよ」
「君は男だろう。自力で行けばいい」
「……何気に俺には冷たいな。コンラッドさんは」
また、二人は睨み合う。ローズはまただとため息をついたのだった。




