二章王都へ1
ジークとローズはその日の朝に出立するための準備に追われていた。
夜明け前に起きてジークが剣などを用意していたらローズも持っていく物を改めて確認していた。ローズは身支度を終えると家の裏口から出る。荷物を手に持ってだが。ジークと待ち合わせ場所にしているあの森に向かうためだ。ふうと息をつく。
きいとドアが軋む音がする。もう、この家には最低でも一月は戻れないだろう。それを思いながらローズはこの場を後にした。
「……おはよう。ローズ」
森に着くとジークが挨拶をしてくる。ローズはぎこちないながらも笑いながら返事をした。
「おはよう。ジーク」
「荷物はちゃんと持ってきたな?」
「うん。この通り持ってきたよ」
ローズは背負っているリュックサックと右手に持ったカバンを見せた。ジークもリュックサックを背負い、左手には大きなカバンを持っていた。腰にはいつもの剣を佩いている。
「……じゃあ、行こうか」
「うん。ジークも大荷物だね」
「まあ、ローズもな。この森を北に抜けると王都への道に行けるんだ。手を出してみな」
ローズは言われた通りに手を出してみた。ジークがそっと彼女の手を握る。剣だこのあるゴツゴツとした手ではあるが。乾いていて温かい。ローズはどきりとしながらも黙ってされるがままだ。二人は王都を目指して歩き始めたーー。
あれから、一時間は歩いた。ローズとジークは休憩を取らずに森の中で北の方角を向いて進んでいる。
「……ふう。この森、けっこう広かったんだね」
「ああ。足が痛くはないか?」
「ううん。大丈夫だよ」
「そうか。なら良いんだ」
「ジークも痛くはないの?」
ローズがきくとジークは穏やかに笑う。
「いや。俺も大丈夫だよ。今のところはな」
「……そうなんだ。まあ、ジークは剣で鍛えているものね」
「確かに。それは言えてるな」
ジークは笑みを深めた。ローズもつられて笑う。
「ねえ。森を抜けるまでどれくらいかかりそう?」
「そうだな。後、二時間はかかるだろうな」
「え。そんなにかかるの?!」
ローズはつい声をあげてしまう。ジークは肩を竦めた。
「……仕方ないだろう。あの村から王都まではただでさえ遠いんだ。俺たちの足でも片道だけで一月半はかかるんだぞ」
「一月半って。そんなに遠かったんだ」
「そうだぞ。馬に乗ればもっと速いんだがな。人の足だと倍はかかる」
がっくりとローズは項垂れる。まさか、そんなに距離があるとは。考えもしていなかった。
「……まあ。女連れだとそれくらいはかかるということだ。男だけだったら野宿しながらでも行けるんだが」
「なるほど。そうだったんだ」
「とりあえず、無駄口を叩いていないで。先を進むぞ」
「はい」
「ローズ。盗賊や妖魔が襲ってくる時もあるから。その時は俺を放って逃げたらいいからな」
ジークの言葉にローズは頷いた。彼は強い。それはわかっている。それでも自分を連れての旅は一人旅よりも危険を伴う。仕方ない事だと思うしかなかった。
そうして二時間ほどしてやっと森を抜けた。王都に繋がるという大通りに出る。二人は互いに手を繋いで進んでいた。もう、時刻は昼近くになっている。
「……ジーク。お腹が減ったね」
「そうだな。ちょっとここらで昼飯にするか」
ローズは頷く。大通りの脇に適当な場所を見つけた。ジークが左手のカバンから何故かシートを出した。準備が良いなと思う。
「ローズ。この上に座れよ」
「ありがとう」
言われた通りに座る。ローズは自分の右手のカバンをシートの上に置く。チャックを開けて中から保存食の乾パンと干し肉を取り出す。ジークも同じようにする。二人で黙々と食べ始めた。水筒も出して水を飲む。
ジークが手早く食事を済ませるとローズも少し遅れて食べ終えた。再び、カバンのチャックを閉めて持ち、立ち上がる。ジークは慣れた手つきでシートをカバンの中にしまう。後片付けを終えるとまた歩き出したのだった。




