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一章6

この回は残酷な描写が出てきます。苦手な方はご注意ください。

ジークは買ってきた衣服などをローズに気づかれないように転移魔法の応用でローズの家に移していた。


妖魔がジークに飛びかかる。ジークは一瞬の隙を突かれて鋭い爪で目を狙われた。が、寸手のところで腕で顔を庇ったので目は無事だった。赤い鮮血がぽたぽたと滴り落ちる。ジークは左腕を負傷した。


「……ちっ。こいつ。俺のことを本気で狙いやがった」


『……オマエ、ヒカリノミコカ』


「ふうん。俺のことを知っていたか。光の神子の事は知っている。が、残念ながら俺じゃない」


『ナニ?!』


「口はきけても考える頭はないか。俺は光の神子に力なんかは似ているが。人違いだよ」


嘘だと妖魔は叫ぶ。猿のような姿をした異形だ。真っ赤な目と鋭い爪、大きな体で全身が茶色い毛で覆われている。


『デハオマエハ。ナニモノダ?』


「……俺か。ジークだよ。まあ、お前は倒すから名乗っても無駄だろうが」


ジークはそう言って妖魔の懐まで跳躍して飛び込み、左腕の怪我をものともせずに剣を逆手に持ち直した。そして深く胸に突き刺した。ぐさりと鈍い音がする。


『……グ。オマエハヤハリ。ヒカリノミコダ』


「うるせえな。黙ってろ」


ジークはそう吐き捨てるように言うと剣を一気に引き抜いた。ボタボタと黒っぽい血が溢れ出る。妖魔は既に虫の息だ。が、まだ襲おうとする。剣に無詠唱で光の魔力を纏わせた。ジークは妖魔の眉間の辺りに再び剣をおろす。


『……アアァ!』


妖魔は今度こそ悲鳴をあげて倒れた。すうと白と金の光に包まれて半透明になる。消え去ってしまうとジークはふうと大きく息をついた。


「やれやれ。一体は倒せたか。だが、俺が光の神子だと気付かれてたな。あの魔王もバカじゃないという事か」


独りごちるとジークは剣を振ってついた血を落とした。それもキラキラと金の光に包まれて消える。ジークは光魔法を使って清めたのだが。

ローズはまだ自分が月の巫女であると気づいていない。どうしたものかと頭を抱えるのだった。


翌朝、ローズはいつもの森で短剣を習いに行った。が、ジークがなかなか来ない。どうしたのだろうと思い、彼の家に急いで向かう。

ジークの家にたどり着くと両親がちょうど畑仕事をしていた。ローズは大きな声で問いかける。


「……すみませーん。ローズです。ジークはいますか?!」


呼びかけたら声が聞こえたのかジークの母が畑からこちらにやってきた。顔は日に焼けているが顔立ちは綺麗といえた。ジークは母親似だった。


「あれ。ローズちゃんじゃないの。どうかした?」


「私。いつもジークが剣の稽古に行っている森があるでしょう。そこで剣術を教えてもらっていて。今日も来ると思ってたんだけど」


「……ジークに剣術を教えてもらってたって。それでいつも朝早くに森へローズちゃんも行ってたのね。えっと。ジークだけどね。あの子、左腕に切り傷を作ってしまってね。今は家で療養中なのよ」


「ジークが怪我って。ひどいものではないんですか?!」


「えっと。医者に診てもらったから大丈夫だって。出血は激しいけど深い傷ではないって先生は言ってたから」


それを聞くとローズはほうと胸を撫で下ろした。ジークの母はおやと目を見開いた。


「……ローズちゃん。すごく心配してたみたいね。ジークは線が細いけど。見かけによらず丈夫なのよ。だからそんなに慌てる事はないわ」


「だったら良かったです。あの。ジークの様子を見に行っていいですか?」


「ええ。いいわよ。ジークもローズちゃんが来てくれたら喜ぶわ」


ローズはお礼を言ってその場を後にする。ジークの母はそれを見送りながら畑仕事に戻ったのだった。


ローズはジークの家に入る。お邪魔しますと言うもしんと静まり返っていた。

奥にあるジークの部屋を目指した。ジークには兄がいたが。彼は隣村に婿入りしていていない。なので両親とジークの三人暮らしだ。ローズはドアの前まで来るとノックをしたのだった。


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