掃除道具入れに入ってはいけません
「そこにいるんだろ?出てきてくれよ」
俺は、教室の掃除道具入れに呼びかけた。
「頼む!何が起きているのか、教えてほしいんだ‼︎」
だが、まったくの無反応…
教室の中は無音のままだ。
しかたなく、俺は数歩前に進んだ。
「開けるぞ」
そう言って、掃除道具入れの取っ手を掴み、開けた。
俺は……目を見開いた。
中には、英語の中野先生が、しゃがみ込んでいたのだ。
ついさっきまで、隣の俺たちの教室で、ミニテストのプリントを配っていた中野が、なぜこんなところに…?
中野は、明らかに様子がおかしかった。
顔色は青ざめて、びっしりと汗をかいていた。
ガタガタと全身を震わせている。
顔を背けて、俺を見ようとはしない。
ブツブツと独り言をつぶやいている。
「…悪夢だ…これは悪夢だ…これは悪夢だ…」
中野は、俺にまったく気づいてない様子だった。
俺は、先生に問いかけた。
「先生、ここで何やってるんですか⁉︎なんでみんないないんですか?俺、気を失っていたみたいで、状況がよくわからないんです…」
中野は、うつろな表情で、俺のほうを向いた。
そして、俺を見た瞬間、まるで化け物でも見たかのように目を見開き、絶叫した。
「ぎゃああああああ!」
「先生!俺です、先生!1-Bの落合です!どうしたんですか⁉︎」
俺は必死で呼びかけたが、中野は絶叫をやめようとしない。
完全に錯乱しているようだ。
その姿は、あのキレやすく、みんなに怖がられている中野とは思えないくらい、弱々しく見えた。
そんな中野を見ている最中のことだ。
いきなり、俺は自分でもわけがわからない衝動を覚えた。
目の前の中野先生を、食べたくなったのだ。