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主人公と悪役令嬢の密会です!

遅くなりまして申し訳ありません。

魔法学園にはいくつもの個室サロンが存在する。貴族の子である私たちが社交をするためのものだ。


基本的に予約制で、サロンを使いたければ担当の文官に届け出て鍵を貰わなければならない。そんな中で個別に鍵を所有する特権を許されているのが、選帝十三公爵家の子女たちだ。


「今日は私のささやかなお茶会にようこそおいでくださいました」


そういって客を迎えるのはエリザベータ。言わずと知れた大貴族アヴァリオン公爵家の末娘で、魔法学園2年生にあたる。


こんなお茶会を開くのは入学から5回目。この回数は公爵家の令嬢としては格段に少ない。


カロン伯爵家である私が回数にして少なくとも10回は開いていることから考えれば、エリザお姉様はかなりのヒキコモリだ。


私自身には繋がりがなくとも、実家の関係でお呼ばれすることが多いので、お返しとして開かなければならないのだ。そのたびに割りとシャレにならないお金が飛ぶので、私は毎回お父様に泣きつくハメになっている。人付き合いって本当に面倒。


「さて、本日皆様をお招きいたしましたのは、他でもない私たちの研究成果を見てもらうためですの。もちろん、ただ見てもらうだけでなく、興味がお有りでしたら投資のお話も歓迎いたしますわ」


エリザお姉様は営業スマイル中で、やればできるというところを側仕えに見せている。やれるなら普段からやればいいのにとは思うが、言わないことにしておく。


側仕えを学園内で侍らせることは禁じられているものの、それは外面的なものだ。生徒でもある下級貴族の子爵や男爵の娘たちは、あくまでも自主的にエリザベータに協力しているに過ぎない。言い訳乙。


エリザお姉様がニコニコしながら向ける目線の先には、1台の自動車があった。


最高級の巨大魔石を単純にただバッテリーとして利用し、電磁力によって動くこの世界初の自動車。原案、私。制作、私。費用、エリザお姉様。様々な部品の取り寄せは2人の実家のコネ。


燃費を無視すれば馬すら抜き去る速度を出して、未熟なサスペンションが吹っ飛んで車軸が再起不能になって、分解されながら走行するほどのモンスターマシンだ。搭乗者の命すら飲み込みかねない化物がそこにあった。


転生してから風魔術にあれほど感謝したことはない。エアバッグ作ろう。


ところがここで問題が起きた。資金が尽きたのだ。


まさかアヴァリオン公爵家のお嬢様のお小遣いを喰らい尽くすとは思っていなかった。製作者の財布すら破壊する化物がそこにあった。


そこでカンパである。前世、妊娠したバカな同級生の堕胎代でしか関わりのなかったものだ。一度も会話したこともないクラスメイトになぜ500円も出さないといけなかったのか。あの空気は、二度と味わいたくないものだ。


幸い、今世は貴族が同級生なのでそんなバカなことは起きない。万が一そんなことが起きたら家まで巻き込んで死人が何人出るかわかったものではない。一代男爵程度ならいいけど、そんな地位の者は私たちに話しかけることはマナー上許されていないし、私たちも話しかけない。生活レベルが違うので、合わせようとすると必ず下の方が痛い目を見る。


それに金持ってないのにカンパに誘っても意味はない。計算によると、あと15000エピクロス金貨が必要なのだ。気球による航路がまだ安定化されていない以上、ゴムがどうしても高いし、金属加工技術もないので時間と金がかかりまくる。


最高時速は何リュー出るのかなんて計ろうとしなければよかった。あれは徹夜のテンションで2人とも頭が逝ってたのだ。ゴムベルトが弾け飛び、ブレーキパッドは割れ、ハンドルはひん曲がって、ギアは歯が無くなり、電磁石は熱でダメになった。


そういうわけで学園でカンパを募るのだ。今こそカロン伯爵家のコネの力を見せるとき!


……と意気込んだのはよかった。お茶会は大成功だった。カンパも集まった。


でも、エピクロス金貨28枚とマルクス金貨62枚に、あと新作お菓子がいくつも集まっただけだった。目標金額には遠く及ばない。


普通に女子会やっただけかよ!


お菓子は私とエリザお姉様で美味しくいただきました。ごちそうさまでした。


中でもデュオクリーム商会のレアチーズケーキが最高でした。きっとサクラちゃんの記憶からのものだよね。


「あー!どうしよう!資金繰りに失敗するなんて!」


我ながらアホなことをしたと2人して頭を抱えて嘆く。嘆いても覆水盆に返らず。廃車元に戻らず。


そうやって頭を抱えてうんうん唸りながらお菓子を食べて考えていると、ふと、金持ちを思い出した。


私の目の前には、3つめのレアチーズケーキがあった。





「はあ。資金援助……ですか」


個人的なお茶会ということで、サクラちゃんを2人っきりになれるようにサロンに呼び出した。変な目的に使われないようにと2人でのサロン申し込みができないので、エリザお姉様の名前を借りたが、エリザお姉様には断りを入れてある。


転生者の会話なんて、これ以上に聞かれて困るものなんてない。


「そう!電気自動車を作ってたら、実験中の事故で壊れちゃったの!でももう予算がなくて……!」


「……電気自動車」


サクラちゃんが目を丸くして驚く。


私は、もう隠さないことに決めたのだ。お金がないので、お金を持ってる転生者仲間ということで助けてもらう気満々だ。


そう。


私はクズだ。


徹夜のテンションで車をぶっ壊す馬鹿野郎だ。野郎じゃないけど。


「電気……ということは、つまり、そうではない自動車を知っているということ……?」


「ガソリンは石油がないから作れないし、エンジンが作れないわ!でもモーターなら魔術で何とかなるし、実際何とかなったのよ!」


「ガソリン、石油、モーター…」


サクラちゃんが繰り返した言葉は、この世界にはないものだ。私は無意識に喋っているが、口から出ているのは日本語の響きだ。この世界の言葉ではない。


「隠し事は無しにしましょう?あなたは誰のルートにいきたいの?私は変態貴族にさえ売られなければそれでいいの!」


私は懸命にサクラちゃんを説得する。するとサクラちゃんの目の色が段々と変わっていくのがわかった。


ああ、何度も見た目の色。利益を計算してそろばんを脳内で弾く商人の目だ。


「いくら欲しいんですか?それと、こちらへの利益は?」


「い、いち……」


「はい?もっとはっきり言ってくれませんか?」


「エピクロス金貨で15000枚です!!」


私の言葉を聞いたサクラちゃんは、間違いなく、私をバカを見る目で見ていた。


「は?い、一万五千枚?」


「はい。15000枚です」


「……何に使うんですか」


「まずゴムね。タイヤが無くなっちゃったから、新しく買わないといけなくて」


「はあ?タイヤ用ゴムで一万五千枚もしないでしょ」


「タイヤって結構大きいのよ!あれと同じだけのゴムってかなりの値段になるのよ!」


今度こそ、サクラちゃんの顔は心底信じられないというものになった。


「は?まさか総ゴムでタイヤ作ってるんですか?」


「へ?総ゴムってどういうこと?」





結論。生半可な知識で車を作ろうとした私が馬鹿でした。


よく考えれば自転車だって空気入れてたじゃん。と思って笑い事にしたかったけど、サクラちゃんは許してくれない。


「はあ?どんだけ無駄遣いしてるんですか!これ!見て!見ろ!見やがれこのド低脳!」


サクラちゃんが突き付けてくる現実は、辛い。彼女によれば、私とエリザお姉様の研究費があれば、3台は作れたらしい。何もかんも総ゴムタイヤが悪い。


車のタイヤも空気が入ってるなんて知らなかった。車の免許持ってても、点検要領とかもう忘れちゃってるよ。何十年前の話だよ。でも思い出せばなんかやったようなやってないような……。うーん。


まあ、とにかく、サクラちゃんを巻き込んで、私たちの計画は再び順調に進み出した。


「と、ところでサクラちゃん!資金援助の方は……?」


「ギルドに届け出してます。私個人の資産を担保に金融系の組合をあたって、今、見積もり出してもらってるところです。ご心配なきよう、リーゼロッテ様」


う、うーん。なんだか、棘のある子のようね……。もっとこう、サクラちゃんは天真爛漫な感じで、貴族の王子たちの心を溶かしていく感じのストーリーだったのに。どうしてこうなったの……。

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