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女騎士と開拓村

女騎士…、平和な村…、オーク…

導き出される答えは……!!


クルシアンの村は長閑なものだった。


木造の簡素な家がぽつぽつと建っていて、農作業用の牛が何頭も繋がれている。牛と言っても前世にいた牛とは少々異なるようで、角がかなり長く危険なのですべての家畜牛は根本から切断されていた。


「いい村だな……」


騎士団員の誰かがそう呟いた。開拓民は誰もがやる気に満ち溢れていて、牛を取っ替え引っ替えしてどんどんと開墾していく。元々肥えた土地だったようで、肥料には困っていないようだった。


元々自然豊かなエルフの土地は家畜が元気に育つようで、豚がすくすくと育ち、粗末な囲いで覆われた土地でぐうぐうと呑気に昼寝している。この豚もイクトールの前世にいたような豚とは違い、横幅がかなりあって食用になる場所が多そうだった。


開墾された畑の面積はざっと見たところで、3年後には子爵領地並の税収になるのではと見えた。


エクスリーガ騎士団がクルシアンの村について彼らを出迎えたのは、作り笑いを精一杯浮かべた村長だった。村長という役柄にしては、若い。まだ30代後半といったところだろうか。


元々ベーティエの街で小役人をしていた彼は、浮浪者を減らすという目的のために彼らを率いて新天地へとやってきていた。そういう事情があって、彼らは心機一転ここで頑張ろうと皆精を出しているのだという。


他のエルフ大陸の地と大きく違うのは、エルフの姿が見えないことだ。通常であれば負けた部族に重い税を課し、女子供を人質にして男たちを服従させる手段をとっているはずだ。


そんな疑問を一先ず置いて、マリアンヌは交渉を進めた。


「寝る場所は我々で確保するが、団員の食料事情が問題だ。これは負担を頼んでもよいか?」


「ええ、もちろん!騎士団の方々のお食事など、滞在に必要なものはこちらで賄わさせていただきます。はい」


ですが……。と前置きをして、村長が作り笑いをさらに強くする。


「今はこの開拓領が軌道に乗るか乗らないかの微妙な時期にございます。聡明なエクスリーガ騎士団の団長様ともなれば、その辺のご配慮はすでになされていることとは存じますが、何卒税率の方はご容赦いただきたく……」


村長が手揉みをしながら、上目遣いにマリアンヌの様子を見る。マリアンヌはそれを見て困ったように頭を掻いた。


村長の家というと、来客を迎えるためにその村の中でも最も大きく豪華なものであるのが普通だが、ここの村はそうではないようだった。他の農民たちと変わらない質素な家だ。他の家々が隙間風が自由に出入りできそうで、こちらがちょっとした雨漏り程度で済みそうなところが、最も大きな差だろうか。


通された来客用の部屋もテーブルが1つと、椅子が4つしかない。騎士団幹部8人のうち、6人が立っている。しかもその椅子のうち2つはガタガタと音を立てて安定しないものだった。さらに輪をかけて酷いのは、来客用の部屋にまでハーブが壁にかけられて乾燥させている。


以上のところを見ると、この村長は自分を歓迎していないのだろうとマリアンヌは考えて、いや、開拓村とはこんなものか、と首を振った。


首を振られて村長は酷く驚いた。税率軽減の申し入れに首を振られたと思ったからだ。それに対し、マリアンヌは手のひらを向けて制止する。


「わかった。税率の件はこちらも騎士団の運営があるゆえ即答はできないが、考えておこう」


そう言って引き上げ、マリアンヌは支援隊が持ってきた大きな天幕に戻った。マリアンヌが村長と会議をして、騎士団の幹部らが村の様子を見て回っている間に立てたのだという。


天幕の中は村長の家より広く、安物ではあるものの比較的新しい絨毯が敷かれており、書物をするための一人用のテーブルは村長の家にあったものとは雲泥の差である。彼の家にあったテーブルでは、穴にペンが突き抜けて羊皮紙が蜂の巣になるだろう。椅子の座り心地も、さっきのガタガタいう椅子に比べれば段違いだ。


「……報告しなければな」


ぎゅっと念話球を握り締めて魔力を込めれば、透明な水晶玉から淡い光が漏れ出してくる。しばらく明滅した光は、アンジェリカの応答の声を伝えるとともに安定した輝きに変わった。


『村長との会談が終わりました。村長からは今は村が成功するかどうかの大切な時期であるから、税率は少し考えてほしいとのことでした』


『わかりました。税は2割まで下げましょう』


「そ、それはあまりに下げすぎでは!?」


マリアンヌは念話であるにも関わらず、思わず叫んだ。


この世界での一般的な税率は折半、つまり5割が基本だった。不作のときなど、何か特別な事情があったとしても下げるところまで下げて3割が最低ラインである。それを考えれば2割は少なすぎる。これでは農民たちがつけあがるのではないかとマリアンヌは心配になった。


『ふふふ、何のための支援隊ですか?税収などなくともあなたたち自身が畑を耕して森を切り拓くのですよ。それに税を軽くすることで増える民を期待しましょう。それでこそ価値のある作戦というものがあるのです』


『作戦……ですか?』


マリアンヌは背筋が凍るような思いに駆られた。税を2割にしてまで効果のある作戦。考えたくもない。一体この女神アンジェリカは何を考えているのだろうか。


胸を不安で満たしながらも、マリアンヌは言われたとおり税率2割ということで話をすすめることになった。


翌日になって、村長にそのことを話すと村長は5回聞き返して、3回確認をとった。聞き間違いではなく、自費負担で小麦粉にしたうえで2割とか、その代わり人頭税がすこぶる高いとか、そういうわけではないことを確認した。


最終的にこの話が嘘ではないということを正式な書類を見せた上で、それを村長に預け、話が違うということになればそれを証拠とするよう言い付けた。


話し合い、というよりほとんど一方的であった通告は、村長が放心状態のまま幕を閉じた。


「マリアンヌ様、税率2割とはどういったことですか?」


マリアンヌの天幕の隣、会議用天幕の中で行われたエクスリーガ騎士団の会議で、幹部の1人が尋ねた。彼の目は怯えきっている。


「いや、アンジェリカ様の意志だ。それは安心してほしい」


マリアンヌのその言葉を聞いて、幹部たちが安堵の息をつく。


この天幕に集まった幹部だけではない。エクスリーガ騎士団の全員が、その魂に不可視の隷属術式を刻まれている。今は所有権がマリアンヌに移っているものの、そのマリアンヌの所有権がイクトールにある以上、彼らは実質的にイクトールの奴隷たちであった。


「しかし税率2割ではここで冬は越せませんな」


「支援隊の持ってきた食料で当面は持ちましょうが、本当にこの村で我々が食える分だけの食料が確保できますか?」


「いやその問題はすでにキャラバンとの話し合いがついている」


「その街道だって整備されてないじゃなか。あれでは行商人のケツの皮が何枚あっても足りんぞ」


幹部たちが意見を争わせるのを、マリアンヌは目を閉じて聞いていた。瞼の裏側の暗闇の中で、マリアンヌは思考の海を泳ぐ。


一体何をアンジェリカは考えているのだろうか。マリアンヌはそれを突き止めなければならない。そして先回りしてその目的を達成させることで、自分を使える駒だと認識させる。


そうでなければ、待っているのはフリードリヒの死だ。


フリードリヒは今、危険な任務に従事している。しかも、フリードリヒはそれを嫌がるどころか嬉々として取り組んでいる。


それもこれも、皇帝への復讐心からだろう。あのボロ小屋での一件以来、フリードリヒの瞳には苛烈な光が宿っている。


それもそうか、とマリアンヌは鼻から溜息をつく。自分の立場としてみれば、あれだけフリードリヒが怒り狂うのもわからないでもない。両親を一方的に殺され、妹を奴隷として売り飛ばし、幼馴染の……マリアンヌにとっては嫉妬の原因でもあったメイドのエティルも行方不明。


これで、フリードリヒは天涯孤独となったのだ。縋るのはもう、マリアンヌしかいない。


そう思った瞬間、マリアンヌの心の奥に薄ら寒い、しかし、それでいてねっとりと暖かい炎が灯った。想い人が頼れるのは自分だけ。その汚らしい考えが、マリアンヌの心を少しでも暖めたことに寒気を覚える。


喧々諤々の幹部たちの論争を横目に、マリアンヌは溜息をついた。そうして何か別なことを考えようとして、エルフ大陸に入ってから別行動になっているオークのことを考えて、また溜息をついた。

女騎士のいる村にオークが攻め込んでこないクソみたいな世界

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