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女神と転生者の内政と傍観者のオーク

注意:女神アンジェリカの意見はこのファンタジー世界の意見であり、筆者は何かの思想に傾倒しているわけではありません。


城は2つに分けられる。敵に対処するための実務的な城と、自らの権力を誇示するための美術的な城だ。


フルール城は東を山脈に接し、北を平原に臨んで穀倉地帯を有し、メギハード公爵派閥のゴルド子爵領に接している。また西をトラン子爵領に接し、南をベーティエ公爵領に接している。元々フルール子爵家はベーティエ公爵家の家臣団の一家門であり、ベーティエ公爵とメギハード公爵との戦で身を立てた、武に長けた家であった。


そういうこともあって、フルール城は実務的な城であった。低い城壁がいくつも幾何学的に張り巡らされて、何重にも侵入者を拒んでいた。その地下にはいくつもの、領主ですら知らない地下通路があり、ベーティエ領内に繋がっているものもあるのだという。現実的に考えれば、ベーティエ領内まで数十リューも離れているのに地下通路が届いているわけはないので、おそらく国境付近に密入国用の地下通路があるのだろうと推測されたが。


その城の一室。実務的な城には似つかわしくない豪奢な部屋。赤い絨毯に、重厚感のある調度品の数々は、城に住む者のランクを見せつけている。


重厚感のある机の向こう。大きなガラス張りの窓を背にして、逆光を受けて革張りの椅子に座って手を組む少女がいた。


実務的な城は城壁厚く、ほとんどの場合ガラスを用いた窓などは使われない。そのままぽっかり空いた穴となるか、冷たい風を防ぐために布を張られるかのどちらかだ。戦の時には弓を射るための穴として扱われるためだ。


なので、その部屋のガラスという存在は、城の中にあってかなりの異物であった。


「座りなさい。我が使徒イクトール」


部屋にいるのはアンジェリカ、フリードリヒ、そしてイクトールだ。全て異世界、日本を知る者。その共通点が、イクトールに不安を抱かせたが、横目でフリードリヒの顔色を見ると彼も同じ気持ちだったようだ。


呼び出されたイクトールは、アンジェリカに勧められ、ソファに腰を沈める。三人がけのソファのほとんどがイクトール1人で埋まってしまい、フリードリヒは狭そうにソファの肘掛けとイクトールの巨体の隙間に挟まった。


フリードリヒは以前見た時よりやつれていて、瞳に自信の輝きがなかったが、肌には生気が宿っていて、元気なのは元気なようだった。身体だけ元気というのは、歪なバランスであるが。


「まずは情報共有をしましょう」


執務机に置かれた紅茶の入ったカップに口をつけてから、小さく綺麗な音を立てて置き、アンジェリカが話を切り出した。


「私はトランフルール領の視察と管理を行っていました。なかなかいい領地ですね。麦の生産をやめたとか聞いてましたが、それは余剰分の、つまり商業用の分の話で、生活分と税の分の麦は続けていたようですね」


アンジェリカがフリードリヒに視線を向けた。


「そう、……です。俺も馬鹿なわけじゃないです。余剰分を商業利用するのは資本主義の概念からすれば合理的な考えです」


フリードリヒがぎこちない敬語で話す。


「それに芋の生産も、ノーフォーク農法を導入するためには家畜が必要で、その畜産を導入するための初期費用に必要なもので、なんというか、その、見切り発車だったのは認めるが、悪い結果はもたらしていない!……と思う、ます」


こいつ敬語下手くそだな、とイクトールは思いながらもフリードリヒの行動そのものには感心した。だが、それだけの作業に対していったいどのようにして対応したのかがわからなかった。


「その家畜の世話は誰がしたんだ?」


イクトールは純粋に興味から聞いた。ブルナーガの集落では豚を10頭に満たない程度飼っていただけだ。その理由は世話が面倒極まりないためで、農作もしない彼らにとって糞なども処理の手間がかかるだけだからだ。


「始めは騎士団の馬係をより高い賃金で数人引き抜いて、その下に何人かの農民をつけた。新しい事業は新しい金になると言えば、農民たちは疑うこともなく食いついたし、それ以前に俺がいろいろと魔術の生活への利用法を編み出していたことも関係している……と思います」


「大規模土魔術をああして建築に使うのは数千年前には見られましたが、今ではあまり使われてないですね」


フルール城の近くの一区画は高い壁で囲われていて、その中で豚や牛を飼っていた。まともに囲いを建てていては財政が追いつかないので、フリードリヒは自分のほぼ無限に扱える魔力を使って石の壁を作って5km四方を囲ったのである。


「牛が500、豚が1200、羊が600、馬は400……よくまあ増やしたものですね」


「とにかく土地も芋もあった。増やせるだけ増やして、まずは安定した経営ができるようにする必要があったんです」


「家畜には芋を食べさせていたのですか?」


「……売れ残ったから」


その辺の事情はイクトールも知っていた。麦中心の生活をしていたところに、信用第一のギルド商人たちに新商品を売り込むのは無理がある。


狙うとするならば、一攫千金を狙う行商人相手にするべきだったのだろう。彼らは既存の流通ルートによらない、独自のルートを持っているし、個人的な付き合いなだけに信頼度も有している。


さらに言えば行商人は根無し草の、稼ぎの安定しない職業だ。彼らは一攫千金の美味しい話をいつも狙って市場を嗅ぎ回っている。それをどうにかして利用しない手はない。


フリードリヒがいろいろと隣で弁解しているのを、イクトールは遠い場所の出来事のように聞いていた。帝都にジャガイモを利用したコロッケを販売する出店を作ったとか、領内の宿屋にレシピを教えて口コミ効果を狙ったとか、社交界での手土産として珍しい料理ということで持ち込んだとか。


だが、そのどれもが思わしくなかったようだ。コロッケは貴重な油を大量に消費して採算が合わないだろうし、領内の宿屋の利用率はそもそも芳しくないだろうし、社交界では金の匂いのしない庶民向け料理は見向きもされなかったのだろう。イクトールはフリードリヒの弁解のすべてにケチをつけて指摘することもできたが、それはしなかった。


面倒だったのもあるが、何よりフリードリヒが可哀想だったからだ。


「冬は麦藁の加工を農民たちがしている。わら半紙も作って識字率も増えてるし、ここの農民は他のところに比べて裕福な暮らしをしてるんだ!」


フリードリヒは縋るような目でアンジェリカを見た。聞けば聞くだけ農民にとっては理想的な領主だったように、イクトールには聞こえた。


だが、そんなフリードリヒも皇帝の不興を買って貴族の座から蹴落とされた。今彼がこうして呼吸して、自身の成果をアンジェリカに主張しているのは、アンジェリカがマリアンヌと結託して方方(ほうぼう)に手を回した結果、フリードリヒが公式上死んだことになっているからだ。


フリードリヒはオーク討伐の際、団長の意に背く命令などを独断でいくつも下し、100人以上の被害を出し、反乱を起こし、ついに団長が自ら手にかけた。ということになっている。


すべての関係者がアンジェリカに隷属紋を刻まれた状況では、口裏を合わせるのも簡単だった。フリードリヒが生きているという証拠を残そうと意識を向ければ、隷属紋が奴隷の意識を一瞬で奪うように設定されており、暗号化して紙に書き留めるなどの口頭によらない偶発性を装った情報すら遮断されている。


時折気絶する騎士団員がいて、その度に与えられる懲罰術式の痛みによって叩き起こされる光景が、しばらくの間よく見られる光景だった。


懲罰術式の効果を、イクトールは一度目の当たりにしていた。あの凛として力強い雰囲気を漂わせていた女丈夫であるマリアンヌが、何かに許しを乞いながら頭を抱え、涙や鼻水や涎や血を撒き散らして、地面に頭を擦り付ける様子。


どんな壮絶な痛みが彼女を襲っていたのかはわからないが、彼女のこれまでの人生で育ててきたプライドをすべて粉微塵にしてしまうほどの痛みがあったのだろう。あの後、結局彼女は疲れ切って気絶して、再び目を覚ました後も呆然とするばかりであった。


「そうですね、たしかにここの農民は優秀です。ですがそこに何の意味があるんですか?」


アンジェリカは無感動に言った。フリードリヒの訴えは、彼女にはまったく届かなかった。フリードリヒは届かなかったことが理解できないのか、ぽかんとした顔をしている。


「彼ら農民を賢くしてどうするのですか。使い捨てる駒に考える力を持たせてどうするのですか。彼らプロレタリアートは無学だからプロレタリアートなのですよ」


アンジェリカは心底どうでもいいふうに吐き捨てた。


「いいですか転生者フリードリヒ。あなたは識字率だの、食生活の充実だの、出生率だの、豊かさだの貯蓄だの、農民の満足度云々と美辞麗句を並べ立てますが、ではその理想の結果には何があるのですか?」


アンジェリカはそのぷにぷにした頬に頬杖をついて、呆れ顔だ。


「そ、それは、誰もが幸せに暮らせる世界で……」


「その幸せをあなたが与えてやると?無学で、哀れで、自立心もなく、食うのにも困って、挙句身の振り方もわからず、教育という言葉の意味もわからず、政治に微塵も興味がなく、搾取されるためだけに生まれてきた愚民に、可哀想だから幸せというものを味合わせてやる……と?」


「そういうことは言ってない!」


「間接的に言ったじゃないですか。文字も知らない、職もない、技術もない、文化も低い、教育を重視しない、畑を言われるがまま耕す単純労働以外に能がない農民に、字を教え、教育し、生産ということを教え、貯蓄を教え、学を収めることの重要性を教えてやった、と」


そこでアンジェリカは一息ついて、手元のカップのお茶を一口。


「そして今までそいつらがどれだけ惨めで、役に立たずで、その命や人格に唯一性もなければ、十把一絡げの価値もなく、そこらの適当な浮浪者とも代わりの効く、単純な労働力だったのかを教えてどうするのです?」


アンジェリカはその美貌と愛くるしさからは想像もできないほどの言葉でフリードリヒを責め立てた。美幼女の口から語られる罵詈雑言は、イクトールを妙な気持ちにさせるには十分だった。


そこまで言ってないのでは、と思っても口にはできない、ちょっと特殊な性癖を持ったイクトールであった。


フリードリヒは下を向いて握り拳を力一杯膝に押し付けていた。イクトールからは見えなかったが、その目には涙が決壊寸前まで溜まっていることだろう。


「彼らが学を得て、その先に自由を求めたのならどうなるのですか?イクトール、答えなさい」


アンジェリカから急に話を振られて、イクトールは慌てながらも頭の中で答えを組み立てた。簡単な歴史の授業みたいなものだ。


「まあ、歴史に見るに、貴族打倒の武装蜂起じゃないですか?」


「はい、優秀な我が使徒イクトールに、クソザコ男神僭称野郎の使徒フリードリヒくんは拍手ぅー」


アンジェリカが満面の笑みで拍手する。ぱちぱちと可愛らしい音が、石造りの壁に吸い込まれていく。彼女だけ見れば微笑ましい光景だが、今にも泣きそうになっているフリードリヒを見ればイジメの現場にしか見えない。


そこから急に無表情になって、またつまらなそうに頬杖をつく絶世の美幼女は、さらにつまらなそうに金髪を指でくるくると弄んだ。


「つまり、農民が反乱を企てる可能性が出てくるのですよ。支配者である私たちからすれば迷惑以外の何者でもないのです。」


「でも……」


「でももクソもありません。そもそも農民の識字率が上がったからどうなるのですか。必要のないものは与えても意味がありません。彼らから登用するのですか?登用するとして何に?その財源は?その財源を支える労働力から登用するのに、その不足分の調達はどこから?」


アンジェリカの捲し立てる言葉に、フリードリヒは何の反論もできずに、ただ俯いて震えている。


「あなたは人を救うのに魚を与えるだけで、釣り方を教えていないのです。食を与え、知識を与え、苦労を知らずに頭だけ大きくなった愚民を量産してどうするのですか。小人閑居して不善をなす。彼らを単純に労働から解放したとしても、解放された彼らはどこへいくのですか?ここはあなたのいた前世ではないのですよ。第三次産業はほとんど発達していないし、中流階級は一部の商人しか存在していない。第二次産業はギルドが牛耳って閉鎖的で、第一次産業は貴族が独占して奴隷たちが死ぬまで従事している。そんな社会に知的生産階級など存在しないのです。行き場を失い、かといってかつての単純労働に従事するだけの盲目性を失った半端者に、これからどう生きろというつもりですか?」


アンジェリカの言葉は辛辣だった。それだけにフリードリヒは何も言えなかった。イクトールは経済や政治に詳しくなかったが、何となくアンジェリカの言いたいことはわかった。


自分の生きる道以外を知らなかったところに、さらに良さそうな道を教えられる。だがその道の先には何もない。騙されたと思っても、戻ったところで待っているのは奴隷労働とほとんど変わらない生活。改善しようとも税搾取によって貯金もできなければ、明日食うのにも困る始末。今までそれに気付かなかったから従っていた生活だが、知識を得たからには……。


それならば、そんな知識など不要だったと嘆くことしかできない。その後に残るのは行き場のない社会への悪意だけだ。それが何を引き起こすかは、何となく想像がつく。


想像がつくだけに、アンジェリカの、次に打つ手が何となくイクトールにはわかってしまったような気がした。


「なのでぇ、彼らはトランフルール領から追放しまぁーす。追放と言ってもただ放り出すのは忍びないので、元エクスリーガ騎士団の、フルール派とかいう不穏分子もまとめて追放しまぁす。うふふふふ」


完全に悪いことを考えているときの顔であった。イクトール的には悪い予感しかしなかったが、何らかの考えがあってのことなのだろう。そしてそれはオーク族にとって歓迎することで、人間族にとって歓迎できないことなのだろう。


何となく、どういうことを期待しているのかわかるが。


「まさか、その不穏分子を他領に押し付ける気では……!」


フリードリヒが言い当てた。アンジェリカが途端に破顔した。


「うふふふ。まさかぁ、全知全能たるぅ、いと高き存在たる女神アンジェリカ様がぁ、そんなことをするわけないじゃないですかぁ。うふふ。単純に旧フルール領の進んだ教育を輸出しようというだけですよぉ?識字率もフルール領だけで高くても意味がないことを理解なさぁい。うふふふふふ」


アンジェリカは至極楽しそうであった。


「さてイクトール、あなたの活動の成果を」


一頻り笑ったアンジェリカは、気持ちを切り替えて言った。切り替えの早さは見ていて清々しいほどだ。


「成果と言われましても、自分はただ狩りをしていただけですから……」


成果と言っても何頭狩ったかなんて、もうしばらく前から数えていない。100頭以上は狩ったと思うが、何を何頭狩ったかと聞かれれば答えられない。


「あなたのおかげで自由な資産がエピクロス金貨で2000を超えました」


ピンとこない数字だったが、フリードリヒが驚いたような顔をしているので、かなりの値段なのだろうとイクトールは納得しておく。


「ほとんど商取引用の貨幣ですからね。フルール領の牛1頭が3エピクロスくらいに勘定できますよ」


「かなりの資産だ……。新しい事業になるな……」


その新しい事業で痛い目を見たはずのフリードリヒは、まったく懲りていないようだった。


「まあほとんどが私の魔術による加工が功を奏した形ですけどね」


「さっすがアンジェリカ様!」


イクトールの素早い反応に、フリードリヒは片眉を上げた変な顔をした。イクトールの太鼓持ち技術も、もはや脊髄反射の域に達していた。


「無限の魔力というのは金になりますし、兵力にもなるのですよ」


アンジェリカがご機嫌でパチンと指を鳴らすと、それに呼応して部屋の奥の扉が開いて、骨の動物が歩いて出てきた。熊、鹿、猪、狐、狼といった様々な動物が、骨だけになって動いている様はホラーそのものだ。眼窩から覗く頭蓋骨の奥で、ぼんやりとした紅色の炎が見える。


「炎の本質は生命なのです。マリアンヌが使っていた具現や武装の魔術は片鱗に過ぎません。まあ、今はこうして私の肉体の維持に殆どの力を使っているのでできませんが、本来なら軍団レギオンの魔術こそが炎の魔術の本質にして原初ですので、フリードリヒは覚えていればいつの日か使える日がくるかもしれませんね」


アンジェリカは嬉々として魔術の解説をするが、イクトールにとってはちんぷんかんぷんだった。フリードリヒは理解しているのかしていないのか、驚いたような怖がっているような表情をしていた。


「ま、半無限の魔力といえど、その魔力を顕現術式に消費している状況ですからね。10頭くらいに力を通しただけで、……ほら」


そう言ったアンジェリカの左手が、手首からポロンと冗談のように落ちた。


「ですから、次に新しい宝玉が必要なのです。今ですら出力不足で、1日の半分は寝て過ごしているのですよ」


アンジェリカが手首から先の無くなった左腕を振ると、骸骨の動物たちは奥の扉の向こうに引っ込んでいって扉を閉めた後、がらんごろんと派手な音が起きた。おそらく魔力供給を絶たれた骸骨がバラバラになって崩れたのだろう、とイクトールは予想した。


魔力供給を断ってある程度の余裕ができたアンジェリカは、左腕を振るとただちに左手が生えてきて、満足そうな顔で頷いた。


「とにかく、この資産の使い道が今回の任務と絡んできます」


「かしこまりました」


「はい。次はフリードリヒ」


アンジェリカが促すのを見て、イクトールはまだ何かあるのかと驚いた。


「俺は……とにかくいろいろやった。地下道の地図の書き出し、下水道の設置、新しい地下道の作成、木材の切り出し、街道の整備、武器防具への付呪、……賊の捕獲もやった」


「捕獲?」


イクトールがソファーから上半身を乗り出した。ソファーが軋む。


トランフルール領は賊が増えていた。崩壊したフルール子爵領が主な原因だ。皇帝軍に付き従ってきた傭兵が賊となり、治安が崩壊しつつあったのだ。


アンジェリカはそれを幸いとして、エクスリーガ騎士団のフルール派という、軽騎兵を中心としたフルール子爵に比較的賛同的だった面子をフリードリヒに率いさせ、賊狩りをやらせたのだ。


捕獲というのは文字通り捕獲して、隷属紋を身体に刻む事を指す。


「そう。捕獲です。今でようやく50を超えたところですよ。イクトール」


「……つまり奴隷が増えたってことです」


フリードリヒが力無く答えた。


「……だんだん読めてきたような気がします」


イクトールのその言葉を聞いて、アンジェリカは喜んだような顔をした。


「言い当ててみなさい、我が使徒イクトール」


「その賊を率いて他の領土を襲う。というのはどうでしょう」


「あら、イクトールったらダメですよ。いけない子ですねぇ、まったく。本当に悪い子です」


アンジェリカは心底嬉しそうに言った。自分の計画を察してもらえて非常に嬉しそうだ。


「ふふふ、せっかくですから名前をあげましょう。何がいいでしょう」


しばらく顎に指を当てて、ニヤニヤとアンジェリカは笑っていた。その様子は少女が誕生日プレゼントに何をねだろうかと考えているように見えた。


「ジェフヴァの(かいな)。これでいきましょう。あのペテン師の名前も貶められて一石二鳥ですね」


ジェフヴァは人間族の神の名前だ。アンジェリカからすれば同業者ということになるのだろうか。


「ではフリードリヒ。捕獲した賊どもを率いて、手始めにトランフルール周辺の領地を荒らし回りなさい。準備期間として20日と、馬100頭を与えます。それまでに捕らえた賊53人と、元フルール衛兵隊から何人かを連れて、部隊行動ができるようにしておきなさい」


「御意」


フリードリヒは貴族然とした立ち振る舞いでソファから立ち上がって、アンジェリカに対して跪いた。ちょっとかっこいいとイクトールは思わないでもなかった。


跪いて頭を垂れるフリードリヒに、アンジェリカが椅子からひょいと降りて、とてとてと近づいていく。(よわい)十を数えるかどうか……、という見た目の幼い子供の仕草ながら、その端々からは神秘的な魅力が振り撒かれている。


「しばらくの間、あなたの働きを見ていましたが、なかなかのものです。褒めてあげます。よしよし」


そういってフリードリヒの頭を撫でるアンジェリカ。撫でられたフリードリヒは、その手に十分な殺傷能力があることを知っているので、生きた心地がしなかった。


「忠誠には報いるものが必要ですね。エクスリーガの使い手は、こちらに召還して、今週中には到着するはずです。準備期間は有効に使いなさい。言いたいことはわかりますね?」


「……はい!ありがとうございます!」

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