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何やら疑惑を持たれているようです

収穫祭の準備は、着々と行われていた。というか、すでにほとんど終わっていて、私の出る幕なんて一切ない。私どころかお父様もお兄様も出る幕なんてない。全部を家令のギースがやってしまうのが例年のことだ。


飾り付けとかやりたかったんだけどなー。そうだ!魔術で像とか作ってみたらどうかしら!学園でゴーレム作りに挑戦したときに、何度か等身大のものは作っている。伝説のドラゴンとか巨人とか、神話のモンスターを作ったらきっと街の人たちも喜んでくれるはず!私の成長をお父様に見てもらいたいし。うん。本音は後者だ。


「ということで、石像を作りたいの」


「お嬢様が仰るのなら、どうぞご随意にお願い申し上げます」


そのことを家令のギースに言うと、恭しくそう答えられた。なので、私は張り切って石像作りにとりかかる。


会場は街中にある噴水広場と呼ばれるところだ。前世の記憶が戻った時に、中世ヨーロッパの下水道事情が最悪極まりなかったどころか、下水という考えもなく石畳が糞まみれでハイヒール出現という事態を想定したが、そこは予想に反して衛生的であった。


なぜか下水道は整備されていて、汚物は汚物として決められた場所に流れ着いて浄水処理されている。いい臭いはしないので、誰も近付かないけれど。そういえば古代ローマのときにはすでに下水道技術があったんだったよね。公務員試験の勉強してるときに覚えていたのが懐かしい。


去年までの収穫祭はいろんなところで穴掘ったり、穴掘ったり、穴掘ったり、あと穴掘ったりしてて忙しかったからできなかったけど、今年は魔法学園に入学したこともあって、私の実力をみんなに見せるいい機会だ。


最近、というか前々からメイドたちの私を見る目が、なんだか舐めたようなものを感じるのよね。ローラのせい……、にはしたくないけど、でもそう思わずにはいられない。


ここでカロン伯爵家令嬢に相応しい魔術を見てもらわないと!


「……リゼ、それは何をしてるんだい?」


アル兄様が私のやることを不思議そうに見る。私がやっていたのは魔術での杭打ちである。


「石像のあたりをとっています。だいたいこの大きさで作りますので」


手をくるんと動かすたびに、石の杭が地面から隆起して現れる。うーん。杭「打ち」なのかしら。


「それと、この杭は魔力の導火線代わりになるのです」


「どう……かせん?」


「ええ。この杭に魔力が向かうように私の中で目印にするのです。杭自体に魔導率はほとんどありませんが、これがあると効率よく石像の成形ができますの」


「うーん。ドウカセンってのが僕にはよくわからないけど、リゼはやっぱり頭がいいね。無詠唱魔術を使えるなんて、自慢の妹だよ」


ぐへへへ。褒められた。イケメンのアル兄様に褒められた。


……ん?導火線がわからないってことは、もしかして火薬ってそんなに発達してないわけ?でもマスケット銃は家に飾ってあったから、火薬そのものの存在がないってわけじゃないよね。


「では伝説のドラゴンの像をご覧に入れますわ!」


私は手を腰に当てて、自信満々に言い放つ。アル兄様にいいところを見せなくてはならない。いいところを見せて、私ができる子だってわかれば、変態貴族に売られるなんてことはないもんね。


アル兄様はぱちぱちと小さな拍手をしてくれる。祭りの準備をしてくれている人たちも、何事かと恐る恐る覗いている。カロン伯爵家の嫡男と長女が何やら妙なことをしていると、彼らとしても気が気じゃないのだろう。他の領地では、気に入った娘を囲い込む貴族もいるらしいし、気に入らないやつを殺す貴族もいるらしいし。


私は両手を石畳へとつけて、魔力を地面に込める。


「我が目が捉える空を越え、大地を天へと登らせるは力の証!今この地より我が示す大地の躯よ、現れ()でよ!」


手のひらから放出された魔素がドラゴンを形作り、魔素が石へと形質変化を起こす。


すると杭から石がみるみるうちに湧き出るように形成されていき、まるで石の杭が膨らんでいくように石のドラゴンを象っていく。


灰色の無機質の身体に鱗を纏い、4本の足で地面を掴み、雄々しき翼を翻す。長い首を擡げて大地を睥睨する。


うぐぐ……!予想以上に魔力が……!でも爪とか鱗とかのディティールが……!


「おおおおおおお!!すごい!すごいよリゼ!」


無邪気にはしゃぐアル兄様。魔力を送り続けている石のドラゴンは、私の魔力が続く限り自由に動かすことができる。今、石のドラゴンはその身を揺らし、あたかも生きているように振舞っている。


し、尻尾がもうちょっとかっこよく巻きたい……!


魔力を更に込めると、石のドラゴンの尻尾は伸びて、ぐるりと自然に巻いてみせる。


「ぷはぁ!」


ぽてん、と尻餅をついて私はその場に座り込んだ。汗が吹き出して、額に玉をいくつも作る。


アル兄様はへとへとの私なんか見ずに、感心の声を上げながら私の作った石のドラゴン像をしきりに触っている。もうちょっと妹にべたべたでもいいんじゃないですかねえ!


アル兄様がご執心の石のドラゴンは、なかなかの迫力だった。鎌首を擡げて大きく口を開けて石畳を睨みつけるドラゴンは、今にも襲いかかってきそうに見える。


うん。我ながらいい出来だ。


「リゼ!今のがゴーレムかい!?」


「いえ、今のはただの石工ストーンクラフトの魔術です」


ぱんぱんとお尻を叩いて立ち上がる。貴族の令嬢らしからぬ振る舞いだが、今更それを咎める人はいない。


「あそこまで大規模な石工ストーンクラフトなんて、すごいじゃないか!やっぱりリゼは天才だよ!」


「ありがとうございます。お兄様」


天才だって!嬉しい!


アル兄様に褒められるのはよくあることだけど、それでもやっぱり嬉しいものは嬉しい。なんていったって次期当主だし、アル兄様が「リゼをあんな変態貴族に売るなんて!」とかお父様に怒ってくれたら、あんなバッドエンドは回避できるわけだし。


「ふぅ。ちょっと疲れましたわ」


私はそう言って深呼吸をする。この深呼吸にも実は意味があるのだ。この世界の生き物は体内の何らかの器官、もしくは細胞に魔素を保存、結合するものを持っている。知性生物の魔素器官はまだ未解明な部分であるが、魔物の場合、それはコアと呼ばれる高濃度魔素結晶にあたる。


ここから魔素を体内に巡らせて加速させることで、魔力が生まれる。魔素はそのまま魔術の材料となって体内からは消えるのだが、ではそれはどこから供給されているのか。それはもちろん外部からであり、深呼吸とは空気中の魔素を体内に取り込むためなのだ。


とはいっても極微量だから、気休めにしかならないけどね。やらないよりマシ程度。それよりも何か飲み物や食べ物を摂取したほうが効率的に魔素を回復できる。


私が食べ物に拘るのはそういう意味も含まれているのだ。けして食欲に負けてとか、美味しそうだからとか、けしてそういうわけではない。けしてそういうわけではない。断じてそういうわけではないのである。


「ローラ、喉が渇いたわ」


祭りの準備のためにその辺に置いてあった木の椅子に、私はどさっと腰を落として手を出す。いつもならほとんど間髪入れずに、私の好きな木苺とミントのジュースが出した手に渡されるのだが、今日は出てこなかった。


「あ、そっか。ローラは『おつかい』に出したんだっけ」


いつもいるものだから、ついついいつもの癖が出てしまった。


「そこの、何か飲み物を持ってきたまえ」


私が少し照れていると、アル兄様がそのへんの召使を捕まえて頼んでいた。すっ飛んでいった召使は、しばらくして戻ってきた。手には革袋があった。


恭しく差し出されたそれに、私はすぐに口をつける。果実の香りは葡萄。これはワインだ。しかし薄い。美味しくない。


「水よ、我が声に従いてその形を変えよ」


さっと詠唱して魔術を発動する。革袋から空中へ躍り出た薄紫色の液体が、球体に近い形をとりながらふわふわと浮遊する。


「水よ、その姿を清め不浄なるを除け」


続いて水球が渦巻いて、どんどんとその透明度を増していく。それに伴って、その南半球ともいうべき下側から、黒にも見える雫を分離させた。それこそが薄いワインから分離させた葡萄酒が葡萄酒たる雫。いわば濃縮液というわけだ。それを革袋で受ける。


それからさらに空中に浮きっぱなしの水を私は片手で指揮者のように操って、半分ほどの水を革袋に戻す。今度は希釈するわけだ。残った水はそのまま石畳へと落とす。


「うん。まあまあね」


これで適度な濃度に変幻自在。水が多少古くても大丈夫というわけだ。魔術師ってのはズルい。というか前世の技術者が泣くほど便利だ。


「……い、いやぁ、リゼは本当に魔術が得意なんだね。土属性の次には水属性か……」


呆れたように言うのはアル兄様だ。


「ええ。魔術の腕だけは誰にも負けないと自負しておりますの」


「他にはどんなことができるんだい?」


「ええと、……まあ、いろいろできますわ。以前は風の魔術が得意でしたが、最近は土の魔術も苦労なく唱えることができますわ。水と火はまだまだ稚拙ながら、同級生には劣らない自信がありますの」


私の自信満々の言葉は、面接官に自分を売り込むためのものだ。私は優秀なんですよー。だから変態貴族に売ることなんてもったいないですよー。


だがアル兄様は眉根を寄せて渋い顔。なんで?


「……リゼ、正直に答えてほしい」


何やらアル兄様が深刻そうな顔。何?何か私不味いことを言ったかしら!?待ってアル兄様!変態貴族に売ることだけは勘弁して!


「神様に会ったことはあるかい?」


「へ?」


私が内心大慌てでいると、アル兄様はそんなことを言い出した。神様?神様って何?


「え、えーと、それはいと高きジェフヴァ様のことで?」


「そうだ」


「はあ……。そんなジェフヴァ様に会っただなんて畏れ多いことはまったく……。というか、会えますの?」


「……そうか。そうかぁー…!」


今度は安堵したように息を吐き出すアル兄様。どうしたのかしら。仕事続きで心労?


「あ、アル兄様?どうしましたの?」


「あー、いや、何でもない何でもない。気にしないでくれ」


「はぁ……。アル兄様がそう仰るのなら……」


どうも歯切れが悪い。神様に会った?それが私とどう繋がるのだろう。


神様というのは、この場合、私たちヒト族の守護神たるジェフヴァ様を指す。この世界の宗教は唯一神ではなく、多数の種族の神々がいて、多神教に近い様相を呈している。でも種族内では唯一神的でもあり、そこがまたややこしいことだ。


私たちヒト族の国たる帝国内では、男神ジェフヴァと、その使徒たる守護天使を、各地にある教会は祀っている。カロン伯爵領内に教会は28あって、そのうちの約半分が正教会で、残りが西方守護教会である。正教会は男神ジェフヴァを祀る教会で、西方守護教会はそれに加えて守護天使も祀る教会だ。


私は西方守護教会のほうが好きだ。正教会は神の教えだの何だとの言うだけでほとんど何もしないが、西方守護教会は実際に孤児院を開いたり炊き出しをやったりしている。貴族は自動的に正教会になるんだけどね。私は嫌い。


この2つはすこぶる仲が悪い。たしかいろいろ因縁があったんだけど、詳しくは知らない。魔法学園の神学の授業では、正教会側の主張から西方守護教会は存在しないことになっているから、そもそも西方守護教会との確執は語られない。貴族たちも正教会側だから帝都の大図書館にも、少なくとも私の閲覧できる範囲では、そんな資料は存在しない。


でも、これは何かある。おそらく、この疑惑こそ私が売り飛ばされる原因かもしれない。まあ女の勘だけど、煙が立ったのなら一応調べておかなければならない。火が無ければそれはそれでよし。調べずに楽観視できるほど、「私」は若い小娘ではない。

補足説明。

通常、魔術師は1つか2つの系統の魔術を扱うもので、リーゼロッテのように火、水、土、風の四大属性を操るのはかなり難しいとされています。

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