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転生者リーゼロッテ

リーゼロッテ・マルクル・ド・カロンが10歳の誕生日を迎えたとき、彼女は強烈な既視感に襲われた。社交界デビューを果たしたリーゼロッテは、その日たくさんの貴族の子弟たちと顔を合わせることとなった。その顔ぶれの内に、気になる名と顔を認めたところで、強烈な既視感に襲われたのだ。


一瞬にして頭痛と発熱に見舞われたリーゼロッテはすぐさま医務室に運ばれ、いくつもの治癒魔法を施されたが、一向に良くならなかった。


未知の病か!不治の病か!呪いか!感染性のウィルスか!と騒がれたのは1日の間だけで、リーゼロッテは翌日にはケロッとした様子でベッドで暇を持て余していた。上体を起こした姿勢で、リーゼロッテは夢見心地に現状を把握し直そうとしていた。


驚くべきことに、目覚めたリーゼロッテの記憶の中には彼女の体験したものではない記憶が混在していた。日本という異国で、聞いたこともない言葉を操り、鋼鉄と内燃機関と電気の支配する非魔導技術の異次元とも言える世界。その世界でリーゼロッテは官吏として働いていた記憶が焼き付いて離れない。むしろ10年のリーゼロッテとしての記憶は、34年ものアラサー独身地方公務員としての記憶に飲み込まれつつあった。


(でも日本とやらでの元々の名前がまったく思い出せないわ……)


元々の、と認識している時点でかなり前世の記憶に飲み込まれつつあることをあえて無視しつつ、リーゼロッテは改めて周囲を確認する。


今、リーゼロッテは、貴族の子女にとってお決まりとも言える天蓋付きベッドに横たわっている。その横には大きな姿見があって、大きなクローゼット、ドレッサーが並んで、身嗜みはここで整えるのだと主張しているようだった。


ベッドの横に置かれた小さなチェストの上にはハンドベルが置かれていて、リーゼロッテの記憶がこれでメイドを呼ぶのだと教えてくれる。無駄に広い部屋に、他にはぬいぐるみや絵本があり、その少女趣味ともいえる物品の数々がリーゼロッテに10歳という年齢を意識させる。


(……これって転生というやつなのでしょうね)


しかもこの世界にはぼんやりと既視感にも似た記憶がある。ゲームで、……電気信号と光によって構成される仮想現実体験機械で……、どこか見たことのあるような気がするのだ。


靄がかかったように思い出せないが、ベッドの上でぼーっとしてても始まらないので、とにかくリーゼロッテは起きることにした。





この世界は中世ヨーロッパによく似た世界だ。中世ヨーロッパといっても中世がどういうものなのかわからないが、リーゼロッテは中世っぽいなー、と思っただけだ。もっと真剣に社会科の講義を受けておくべきだったかと少し後悔。


でも後悔しても知識は増えないので、私はさっそく本を読み漁ることにした。すでにこの世界の基礎的な知識は頭に入っていたので、特に読み書きで困ることはない。


この国はヒュムランド帝国という諸侯連合国家で、皇帝は選帝十三公爵家が投票によって選ぶことになっている。端から端まで馬車で旅をするなら三ヶ月ほどかかるらしい大帝国であるヒュムランドは、ほとんど人族が支配する帝国だ。


驚くべきことに、この世界には魔術が存在し、ヒト以外の種族が存在していたのだ。


ファンタジー映画で見たことのある白いエルフと黒いエルフに似た、リョスアルヴとデックアルヴという種族。そのままエルフとダークエルフって感じだ。でもそんなにイケメンじゃないのでちょっとガッカリ。もしかしたらもっとイケメンエルフがいるかもしれないので、希望は捨てないでおく。もちろん、白いのも黒いのもエルフだけに魔術が得意みたい。


そして二足歩行する犬と猫。キュオーンとアイエルロという種族。キュオーンはなんて言うか、狼男って感じで、犬がそのまま二足歩行してる感じ。アイエルロは、モンスターを狩るゲームで見たことある生き物を大きくした感じ。


でも本で読んだ限りだと、キュオーンはどっちかっていうと良い奴っぽく書かれてて、アイエルロは悪い奴っぽく書かれてるんだよね。著者が犬派なんだろうか。私は猫派なので、致命的な対立だ。


そしてファンタジーではお決まりのオークという種族。前世記憶の中にあるゲスで頭悪くてエロいっていう種族とは違って、なんか普通に未開の部族って感じの書かれ方をしている。しかも、どっちかっていうと、筋力や純粋な戦闘力では並び立つ者のいない種族とか書かれててちょっと好意的な書き方をしてるのも不思議。


アイエルロよりは道理が通った考え方ができ、傭兵として非常に優秀……って何よ!このマーリンとかいう人はそんなに猫に恨みがあるのか。猫派の私が黙ってないぞ。


そしてヒト族は、なんか可もなく不可もなくって書き方をされている。このマーリンって人曰く、ヒト族は魔力の消費量を抑える形になっているから、飛び抜けた才能を発揮する種族ではなく、その低消費量と引き換えにして獲得した知性こそが最も優秀である……らしい。


そんなヒト族の国が、「ヒュムランド諸侯連合帝国」とか「ヒュムランド帝国連合」とか「ヒト族諸侯貴族連合帝政国家」とか、表記揺れ激しいなオイ、とツッコまざるをえない名前の国だ。


その帝国は貴族たち、つまり諸侯が集まって成り立っている。その中でも皇帝家から次の皇帝を会議で決める権利を持つ、十三の公爵家が、「選帝十三公爵家」として君臨している。


選帝十三公爵家は、シェーンブルン、ベーティエ、メギハード、ダルシアン、アヴァリオン、サンマルティア、アシェット、メレアグロス、ペリアス、デカリオ、ルタリア、レヴキソス、イースリテの13の公爵家である。彼らはそれぞれ家臣を持ち、国家とも言える派閥を構成している。


各公爵領は広大で、地図で見た限りでは1つの国くらいはありそうだった。それが13個。帝国というのは13の国家が手を組んで出来たものだと考えた方が良さそうだ。


その周りに侯爵領などがあり、私のカロン伯爵領を含む伯爵領などもある。帝国全土や公爵領を写す地図では見えないが、細々とした子爵領や男爵領も存在している。父や家令の話を盗み聞くに、騎士領というのもあるらしい。……地図をこっそり見ると、騎士領ってこじんまりとした村くらいの大きさしかなかったけど。


中でも私のいるカロン伯爵は選帝十三公爵家でいうところのシェーンブルン公爵の派閥であり、古くはシェーンブルン公爵家の外務大臣みたいな位置にあったらしい。


カロン伯爵領は、帝都アルファードから西に500リューほど進んだところにある。リューがキロメートルに直すとどれくらいになるのかわからないけど、馬車で3週間もかかる。とても遠い。私の記憶の中ではとても退屈で、それこそ携帯ゲームなんかないし、死ぬほど退屈で、そして退屈な思い出しかない。


それに帝都からカロン伯爵領までにサンマルティア公爵領、ナルド子爵領、ヨルカン辺境伯領、シェーンブルン公爵領、トポツキー侯爵領を通らなくてはならないので、一々挨拶に伺うことになる。そういうわけで帝都から領地まで行くのは一苦労だ。まあナルド子爵は向こうから挨拶したいっていう流れだったけど。


とにかく、そんな事情もあってか、カロン伯爵家は帝都に住んで、領地経営は信頼のおける親戚や部下に任せている現状だ。他の貴族たちもそんな感じで、領地にいるのは一部の例外を除いてほとんどいなかった。


数ある伯爵家の中でも、カロン伯爵家は社交界でも中々の位置にいて、他の伯爵家からも一目置かれている。やはりシェーンブルン派閥の外交担当だからだろうか。


さらに、どういうわけか父ヴィンハラールは潤沢な資金に恵まれており、優秀な裁縫ギルドの職人とコネもあり、社交界ではトレンドの最先端を行っていた。


カロン伯爵家が外交一族であるからか、親も兄弟も美形が多く、私リーゼロッテもその例に漏れず、自分で言うのもなんだが美人である。金髪碧眼色白でおめめぱっちりだ。……表現が古いと自分でも感じるのはアラサー故の自虐ネタなのか、ギリギリアラフォーを回避したアラサーの魂と、リーゼロッテとしてのぴちぴちの肉体のギャップなのかは永遠の謎だ。


そんなアラサーの魂の記憶が、さらに鮮明に蘇ったのは、私が15歳のとき。魔法学園への入学式の案内状を見たときであった。


魔法学園は貴族の子弟を対象にした魔術と貴族のマナーを学ぶ場である。ついでに言及するなら、襲爵できそうにない子弟は、ここで貴族同士のコネクションを作って将来に備えるのだ。他にも美人の貴族の娘……つまり私のような人は……っていうのは思い上がりかもしれないが、少なくとも朧気な前世の記憶の私より、数百倍かわいいのだから仕方がない。


とにかく、貴族のかわいい娘たちは、より高い位の結婚相手を探すという目的もある。政略結婚というやつだ。怖い。


そんな色々な思惑が重なって、魔法学園に通うのは貴族の子弟ではほとんど当たり前のことと化していた。入学が15歳くらいから卒業まで、3年間通う点に、リーゼロッテは前世の記憶の中に高等学校というものを見つけた。


そしてついにリーゼロッテは劇的なことを思い出した。


(これ、前世の乙女ゲーだ……!)


前世の独身アラサー地方公務員リーゼロッテにとって、乙女ゲーは唯一のオアシスだった。いや、乙女ゲーだけならず、アニメとか漫画とか同人誌とかいろいろ癒やしはあったけど……。


前世でプレイした「Princess Step〜私を探す王子様〜」という乙女ゲーに設定がめちゃくちゃ似ているのだ。他にも似た設定の乙女ゲーは「恋の魔法をかけて、かけられて」とか「女の私に魔法適性があるわけない!」とか「求婚は1人ずつでお願いします!」とか「マジカル学園イケメン詰め合わせBOX」とかいろいろあるが、断片的な情報しかなかったものの、登場人物の中にリーゼロッテがいるのはプリステ(略称)だけだ。


入学案内の冊子を見て、すべてを思い出した私は、しばらくフリーズしていた。ギギギ、とぎこちなく姿見を見れば、そこにはスチルで見たことのある悪役より少し幼さのある顔が困惑と驚愕をミキサーでスムージーにした表情で見つめ返していた。


プリステの中で、リーゼロッテは定番の悪役として登場していた。確かシェーンブルン公爵家の次男である金髪の王子様キャラ、セドリックのルート。それとアシェット公爵家の長男である黒髪の俺様キャラ、オズワルドのルート。この2つだ。


主人公の名前は、……ええとたしかハルだ。……いや、違う。たしかプリステの主人公の名前は自由に変えられたはずだ。


……ということはハルというのが私の元々の名前?って、そんなことは今はどうでもよくて。


とにかく私リーゼロッテは主人公に意地悪をして、嫌われて、ええと、たしかどっちのルートでも変態貴族と結婚させられたりするんだよね、たしか。


……マジで?


「嫌だぁー!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあああぁああああ!!!!!」


ベッドの枕に顔を突っ込んで渾身の叫び声を上げる。意味はないと知りつつも叫ばずにはいられなかった。


メイドたちが「またお嬢様がご乱心だ」と呆れながら部屋の外に集まりだしたころ、そろそろ喉が痛くなってきたので、水差しから一口飲んで一心地着く。


アラサーの記憶を取り戻してからというもの、私の言動はかなり貴族の娘らしからぬものになっているらしい。メイドたちの反応も、急に遠吠えしだした飼い犬をちょっと心配して見に来るみたいな感じだ。


「お嬢様、落ち着かれましたか?」


部屋の外から、馴れ馴れしいまでの言葉をかけるのは若いメイドのローラだ。いや、ローラだけではなくこの屋敷のメイドたちは私に馴れ馴れしいと思う。


たしかに、私は貴族っぽく振る舞うのは慣れない。貴族のようにテーブルマナーを気にしながら高給料理を黙々と食べるよりも、庶民みたいに帝都の第三城壁外の出店で喋りながら食べ歩きする方が性に合っている。からあげ美味しいです。コロッケ美味しいです。フライドポテト最高です。この世界にもあるんだと初めは驚いたけど。


そういうわけだからか、私は使用人たちから少し舐められているようだった。仲が良いと言えば聞こえはいいだろうが、少し失礼な物言いが目立つのだ。


「お嬢様?……死んだかな?」


「死んでないわよ!」


前言撤回!少し失礼ではない。かなり失礼なメイドだ!


ローラによるドア越しの失礼な発言は頭の片隅に追いやって、私は記憶を探っていく。


たしかリーゼロッテはセドルートでもオズルートでも、攻略対象の婚約者として登場する。その美貌とコネクションを使って、格上の公爵家の息子と婚約を結ぶのだ。セドもオズもリーゼロッテとは同年代で、主人公はその一年後輩として入学してくる。


一応、その二人とはすでに顔見知りだったりする。社交界に出てれば当然と言えば当然だけど。


初めて顔を合わせたのは、たしか社交界デビューの時だ。あの高熱を出してぶっ倒れた原因とも言える少年。それがセドリックだ。そのときから気になっていたのだが……。そうか……。セドリックだったのか……。


セドリック・ニーア・ド・シェーンブルンは、エルフ大陸侵攻に積極的な姿勢を見せる開戦派と呼ばれる派閥の筆頭である、シェーンブルン公爵の次男である。白に近い金髪に、新緑の瞳のイケメンだ。セドリックは、去年の末にあった皇帝陛下の息子アルディギオン殿下の、三回忌を偲ぶ場で見たのが最新だ。


ちなみにシェーンブルン公爵家は先述のとおり、カロン伯爵家の御主人ともいうべき家柄であるため、セドリックと顔を合わせる回数は多い。セドリックの兄アーノルドが、エルフ大陸で武勲をあげているのを自分のことのように誇らしく語っていたことは記憶に新しい。



新章突入!

ということで、設定を小出しにしつつ、転生者リーゼロッテちゃんの話です。


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