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オークの戦士と人間の騎士団

死に物狂いの攻防は、あっという間に佳境に入りつつあった。


一撃目の宝具エクスリーガによる攻撃は、火炎の竜巻が水平方向に飛んだ。炎熱の濁流は山林を薙ぎ払い、ブルナーガの集落を直撃した。集落を囲う柵や、騎馬突撃防止用の杭が焼き払われ、家の屋根である藁は一瞬で燃え上がり、石を積んだ壁は爆風で吹き飛んだ。


さらには麓からのなだらかな坂のように一直線に、まだ残り火が踊る焦土のラインがマリアンヌから集落まで伸びて、騎士たちの突撃をレッドカーペットを敷いたように誘っていた。


その道を騎士たちが馬で駆け上がる。その手には、宝具エクスリーガの写し身たる、火炎によって形作られた燃え盛るハルバードが、獲物を求めて揺らめく。


まさに鎧袖一触。防御陣地を吹き飛ばされたオークたちは、エクスリーガ騎士団相手に、ほとんど一方的に殺された。


ブルナーガたちオークは、昔からこの山に住んできていた。それ故に地形は完全に把握しているし、各自それぞれが優秀な狩人だ。


だがそれでも、宝具エクスリーガから供給される無制限の魔力によって駆動する魔導鎧と、エクスリーガの分身たる燃え盛るハルバードで武装した騎士らの猛攻は止められない。重装騎兵の突撃は、堅固なオークたちの陣を一撃で食い破る。


急拵えの木造バリケードは、燃え盛るハルバードの一振りで薙ぎ払われる。矢を射かけても防御魔術によって防がれるか、燃え盛るハルバードが焼き払う。木を盾に防いでも、それを薙ぎ倒して燃え上がらせて突破する。


オークたちに抵抗する術はほとんど残されていなかった。


それでも20人近くの騎士を討ち倒せたのは、命がけの攻撃が彼らの喉元に食らいついているからであった。馬上の騎士に飛びかかり、地面に引き倒して数人で袋叩きにする戦法で、着実に騎士を討ち倒していた。


だがそれも長続きはしない。1人、また1人とオークは討ち倒される。次第に組織立った行動に支障をきたすようになり、袋叩き作戦も使えなくなった。ジリ貧、という言葉が最もしっくりくる状況でも彼らは勇敢に戦っていた。


ついに残った戦士たちが10人を切って、ブルナーガは戦士たちを首長の館に集結させた。そこには非戦闘員たる女子供が集まっていて、最後の砦として機能していた。彼女らも合わせれば30に届くほどかと思われるくらいしか、すでに残っていない。


「……もはやここまでか」


ブルナーガが呟いた。周囲の戦士たちは何も言わない。全員が満身創痍で、火傷を負っている者が多く見られる。中には右肘から先が無く、焼けた切り口を晒しているオークもいる。燃え盛るハルバードによって切り落とされたのだろうと容易く想像できた。


「イクトール……!やはりあいつはこの集落に災厄を齎す者だったのだ!」


右腕の無いオークが言った。その表情は怒りとも憎しみともつかないものだ。


「やつさえいなければ、こんなことにはならなかったのだ!いくら狩りが上手いといっても、お目こぼしをしてやるべきでは……!」


そこまで言って、仲間の1人に肩を優しく叩かれ、後はもう何も言えなかった。何を言っても後の祭りである。


たしかにイクトールは狩りがダントツに上手く、手ぶらで帰ってきたことはなかったほどだ。今までそれにあやかっていた分はすでに胃袋で消化済みで、今更そのことについて言及することは卑怯なことのように思われた。


暗い雰囲気をこじ開けるように、言いづらいことを言うように、側近の1人であるブルナーガの弟が進み出た。


「……ブルナーガ様、敵は再び突撃隊形を整えつつあります」


指示は仰がない。むしろ何をどう足掻いても死ぬしかないことは明白だった。そして、戦士の名誉としては死ぬまで戦うことが全てだった。





「大した抵抗もなし……、か」


報告を受けたマリアンヌは物足りなそうな声を上げた。


重装騎兵は一直線に集落を抜けていき、迂回して再び突撃を果たした。俯瞰すれば騎士たちは8の字を描くようにして2度集落を襲い、元の陣に戻っていた。


2度の攻撃であれば、2度目に迎撃体勢が取れるはずだ。それが軽微であったことを考えると、敵は組織を維持できていないはずだ。


「はい。組織立ってはいますが、もはや強固なものではありません。あと2度ほど突撃を行えば、崩せるでしょう」


フリードリヒがマリアンヌの呟きを受けて言った。


「これまでの被害は」


「ざっと10といったところだろう。ごめん。全部守ることはできなかった」


フリードリヒは重々しく言った。突撃の際、フリードリヒは先陣を切った。オークたちを斬り伏せる傍らで、彼は周囲の騎士たちを守りながら戦っていたのだった。


「蛮族相手にエクスリーガ騎士団が10もか」


「何せ相手はオークだから……ってことだろう」


オークはその全員が戦闘員として十分な力を持っている種族だ。また狩りを生活の主体としている種族であり、弓の扱いも斧の扱いも上手い。古い書物には狂戦士として描かれ、勇者の敵として頻繁に登場する。歴史書に照らし合わせると、ちょうど人間がその勢力圏を広げた過程で、オークという別の知的種族と争いを繰り広げていたことがわかる。


そんなオークだが、発展した魔導技術はその種族の膂力差を無にした。10の被害も馬に矢を射掛けられ、落馬したところを袋叩きにあったものがほとんどであった。


当然ながら被害はオークたちのほうが多いだろう。すでに飛来する矢はなく、抵抗もほとんどない。


隠れるべき山林はエクスリーガの力で焼き払った。オークたちが陣取っているのは山の頂上より下った中腹にある集落である。すでに敵の生き残りは30を割るのではとマリアンヌは予想していた。


次の突撃準備を整え終わり、命令を下そうとしたとき、微かなラッパの音がマリアンヌの耳に届いた。


「今のは……」


「うん。……侵入者だね」


2人の目が鋭くなる。


事前に斥候役として、そして取り逃がしたオークたちを狩るために配置していた騎士たちからの信号だった。そのラッパの奏でた音色の意味は「侵入者」だ。


逃げ惑うオークたちの中で、勇敢な者がいたということだろうか。それとも狩りに出ていた別の部隊が戻ってきたのか。マリアンヌの中で思考が回る。


このとき、エクスリーガ騎士団の誰1人として、この侵入者がたった1人のオークだとは考えなかったのだ。


「フリードリヒ。ジョアンを隊長にして、本陣の騎兵50を威力偵察に向かわせろ。退き際を間違えるな」


マリアンヌは考えを巡らせながら、50の騎兵をラッパの方、侵入者の方向へと向かわせた。


マリアンヌの本陣には200の騎兵がいて、100の騎兵がこの山を取り囲むように布陣し、200の騎兵が少数部隊による攻撃を集落に仕掛けるつもりだった。200の騎兵を予備戦力として温存していたのは、マリアンヌの経験と勘からで、もっと強固な抵抗があるものと予想していたからだ。


オークは侮れない戦士であり、またベーティエの街の警備をすり抜けて襲撃して逃亡するような犯罪者が逃げ込んだ集落だ。兵力に任せて突撃をして、策にかかるなど避けるべき愚行だった。


当然ながらエクスリーガ騎士団の主任務とは王都防衛であり、敵の討伐である。ベーティエ公爵領の商人から受けた依頼の優先度は低い。


10を失ったと聞いたとき、マリアンヌはしくじったかという思いが頭をかすめた。オークは語り継がれるほどの力を維持できていなかったのだ。もしくは宝具エクスリーガの圧倒的魔力が原因か。とにかく、別働隊の存在が明らかになった今は堂々と選択に間違いはなかったと胸を張れる。がら空きの本陣を叩かれるという事態は、考えられる中で最悪の最悪だ。


「よし、攻撃部隊は敵本陣に突撃。その後準備地点へと戻って我々と合流だ。別働隊がジョアンたちが仕留めればよし。そうでなければ本隊で叩く」


マリアンヌは久しぶりに全身の血が熱を帯びるのを感じた。手にした宝具エクスリーガが悦んでいるかのようだった。

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