悪夢を見た朝に
ハァッ、ハァッ
どれ程走ったのだろう?
しかしどんなに走っても走ることを止める気がしない。いや、止めてはいけない気がする。
追われている…。
しかしそいつが誰で何故追っているか俺には解らない。しかし奴はただ俺を追いかける。近づきもせず離れもせず、まるで自分の陰のように…。
坂を下り、砂地を駆け抜け、階段を降りてついに薄暗い部屋に逃げ込んだ。壁に背を向け座り込み、入口に目を向けた。体の震えが止まらない。頭を抱えて奴に向けて叫んだ。
「俺はお前とは違う!!現状に満足していないのに何もしない!!俺は生きてやる!!金も家族も過去も全てを捨ててでも!!絶対に行きてやるうう。」
「ううううぅぅぅ…、あれ?」
そこは紛れもない自分の部屋だった。横に昨日読んでいた小説がひどい様子で転がっている。しばらくして状況が掴めてきた。昨日本を顔の上にのせ眠り込み、夢で飛び起きた拍子に読んでいた本が顔の上から吹っ飛んだのだろう。あの夢は…、たぶんこの本を読んだせいで見たのだろう。
「しかし…、悪夢で叫び声をあげるなんてこ…」
時計は八時十五分、一時間目が始まる十五分前をさしていた…。
「うわああああ!!何でこんなことに!!」
超速で学校に行く準備をする。幸い宿題がなかったので学校のロッカーに全て教科書は置いて来ている。だから五分で準備することが可能になり、十分で学校まで行き、そして間に合うことが可能となる。しかしいつもの通学カバンが見つからない。仕方なく予備用のカバンを持って玄関に向かう。
「起こしてくれればいいものを…、自分だけ朝飯食って出かけてやがる…。」
大急ぎで玄関に向かう。靴を履くのに2.5秒。そしてドアの鍵をかけるのに7.3秒。
「登校準備、四分半。いける!!」
自分の愛車(近所の自転車屋で8950円)が唸りをあげて猛スピードで学校に向かう。
しかし、もし落ち着いていたらいつもと変わらぬ風景故に見分けにくい奇妙な点、つまりいつもと同じように二人分の食器が流し場にあったことに気付いただろう…。朝飯を食べていないにも関わらず…。
そして八時二十九分の学校の駐輪場。ドリフトカーブをしながら突っ込んでくる一台の自転車。事故でも起こったように聞こえるほど大きなブレーキ音を立て自転車を止め、自転車から降り、急いで下駄箱に向かった…。だが靴を脱ぎ終った後でチャイムが鳴り始める。
「まだだ!!まだ終わっちゃいない!!」
教室は二階、席も珍しく入口のすぐ目の前、いけるはずだ。二段飛ばしで自分でも恐ろしくなるようなスピードで階段を駆け上がる。
教室がみえた!!しかも教師軍団はまだ来ていない。
「ホントに遅刻するかと…」
勝利を確信し、入口手前で減速。膝に手を突き上がった息を整えた…。
しかし確信した勝利は数秒後に思いもよらない形で打ち砕かれた。下を向いていた顔を上げると俺の席にはいてはいけないはずの人間がいた…。眼鏡をかけ、いまいちパッとしない顔つき、身なり、雰囲気…。読書に熱中している。そして机の横には探していたカバン。
そこに座っていたのはまさしく俺自身だった…。
俺の体はそのまま凍りついた…。そこに永遠とも思えるような時間が流れた。ホントはその時間はたったの数秒だったのだろう…。
鳴り終えていなかったチャイムが流れた。俺を嘲笑うかのように…。




