第1章
入国し、この国の全貌が
少しだけ明らかになります。
全身がだるい。仕方ないか。
本来5日の道は雨が降ってて
道がぬかるみ道が悪かった。
だから予定より大幅に遅れちまった。
おかげで1週間も馬車にこもりっぱなし
の上に、揺れる度に激しく
尻を打つため尻が痛い。
まるで、老人のように身体中を
さすりながら馬車を降りると
目の前に空まで届きそうな程高い
壁が視界に飛び込んできた。
噂には聞いていたが、間近で見ると
何か圧倒されるものを感じる。
「しかし、すごい壁だな~」
固まっている体をストレッチで
ほぐしながら見上げる。
何メートルあんだよ?
60mなんて下らないよな。
驚いたのは壁だけではない。
ここに来るまで何度も関所が
あったしすごく苦労した。
どうやら、情報が全くないのは
壁だけだはなく、こうした徹底された
ものによるところも大きいとみる。
「はぁ~、男だという理由で
ここに来るまでに時間が
かかるとは思ってもみなかった」
関所で止まって、事情を話す度に
「男のくせにアーデルハイトに
何しに行くつもりなんだ!」
とか、親父の書いた書面を見ながら
「は?男が騎士団?ふざけるのも
大概にしろ!」
とか
ひどい言われようだった。
なんだかんだで、その人は
通してくれたけど...。ともあれ、
親父の書面があって助かった。
あと、執事さんもだな。
俺一人だったら、威圧と質問責めで
もう参ってたのが手に取るように
わかる。
しかし、女の兵なんて珍しいな。
女の兵自体が珍しいというよりかは、
ここに来るまでの全てに出会った兵が
女だったということに珍しさを
感じる。それに声でしか性別判断が
出来ないぐらい隙間なしの鎧だった。
今から戦争の準備でもするのでは?
と、訪ねたら何故か殴られたのは
今でも訳が分からない。
関所も大事なとこではあるが
いくらなんでもあの鎧はやりすぎ
な気がしなくもない。
まだ痛む頬をさすりながら、重い
足を引きずるように歩く。
時間帯的には夜ということもあり、
虫の鳴く音も四方八方から聞こえる。
今までの中で一番大きな
門の前に門兵がいる。
おそらくだが、これが最後
なのだろうか。しかし、
また文句を言われると思うと
かなり億劫だ。そんな気持ちのままに
俺は門兵がいるとこまで歩いた。
「止まれ!何者だ!」
鋭い声が闇夜に響く。
「私はアントリエ王国の
リヒト・アントリエ。
この度、アーデルハイト国王陛下
より騎士団としての任命を
命じられ参りました。
これは書面です。」
ここに来るまで何度
言わされたことか、もう脳から
じゃなくて無意識レベルで
言えるまでに達してると思うぞ。
門兵はこれまでの兵士同様、
若干怪しみながら書面を受け取る。
ここまで来るということは、全ての
関所を超えてきているということ
であるのに、ここまで厳重に何度も
警備を固めている点に脱帽だ。
門兵は書面を見ながら驚いた様子だ。
これも何度も見た光景だ。
流石に、何度も驚かれたら
俺でも不安に駆られる。
そんなに俺が騎士団になるのが
おかしいのか?
いや、確かに戦闘技術なんて
素人に毛が生えた程度だけどさ。
でも、俺の戦闘能力については
書かれていなかったはずだ。
と、なるとやはり"男"という点に
問題点は収束されると思う。
呑気にあくびをしながら、不審点
について考える。
「リヒト・アントリエ殿。
どうぞお通りください。
ようこそ、アーデルハイト国王へ」
「あっ、どうも
ありがとうございます。」
意外とすんなり通ったな。
ふぅ、これで長かった
一週間の旅も終わるのか。
もうこんな目にはあいたくない。
体がストレッチをしたのにも
関わらずギシギシと音を立てた。
こんな時ばっかりは、脳金だった
彼らを羨ましいと思う。
緊張の糸がほぐれたのもあってか
眠気が波のように押し寄せてきた。
「眠い」
とりあえずもう夜だし適当に
宿にでも泊まって寝るか。
俺はそう思いながらも始めて訪れ
尚且つ秘密だらけのアーデルハイト
に入国出来たことにワクワク
していた。
「どんな国なんだろうな」
嬉々とした表情で門をくぐる。
見えてきた光景に俺は絶句した。
門をくぐると出てきた言葉が
「お、女しかいないのか?この国」
しか見当たらなかった。
それも無理は無い。至る所に
女、女、女。男なんてたまに
見かけたらいいぐらい。
よそ者の俺は珍しいようで
四方八方から視線を感じる。
好奇な視線を感じながら
街を見て回ることにした。
女が多すぎること以外は
他の国と対して変わらないな。
いや、むしろ活気がある。
もう結構遅い時間になるはずなんだが
酒屋や、食べ物屋やから雑貨屋まで
どこも賑やかだな。
アントリエでは見ない物も
少なくない。まるで昼間のように
明るい街路を歩く。門をくぐる前の
自然だらけの道と比べると、別の世界
のように見えた。目をグルグルと
メリーゴーランドのように回す。
店を見ていると
食べ物が目に入りお腹が鳴った。
「そいや、今日何も食べてないな」
何か食べるとしよう。
俺は賑やかな店の中から
串焼きを売っている店に
立ち寄った。食欲を
刺激する香ばしいいい匂いだ。
食欲がそそられる。どうやら串焼き
の店らしい。普通の肉だけでなく、
野菜の串焼きなど種類は
様々だった。その中で一際
目立ったのは、普通の肉よりも
大きく切られた串焼きだった。
「この串焼きって何の肉なんだ?」
「これかい?これはワイバーンの肉さ
お兄さん、買うかい?」
「わ、ワイバーン.......」
眉間に手を当てて、記憶の中で
"ワイバーン"に関する
情報を引き出す。
「確か、大型の竜に似た生き物
のはずですよね...?」
慣れた手つきで、焼きながら
満足げに答える。
「あぁそうさ。この国の騎士団様
達が退治がてら肉をくれるんだよ
そいや、お兄さん
見かけない顔だね?」
よそ者はすぐに分かるのだろうか。
「俺はアントリエ王国から
来ました。リヒト・アントリエ
です。ではこの串焼き一つ頂きます。」
「これまた遠いとこからお疲れ。
はい、じゃ、一本サービスだよ。」
串焼きお姉さんから、二本の串焼きが
渡される。そのボリュームに驚いた。
「重っ!?
ど、どうもありがとうございます」
「はいよ、また、来てね」
基本よそ者って冷たくされる
ことが多いのにいい人だったな。
敵国の間者が紛れ込んでいたり
する場合もあるので、基本的に
城下に住んでいる民の人たちは
冷たい場合が多いのだ。
でも、
「ワイバーンか....」
率直に言って
騎士団強すぎやしないか?
普通は退治するのも一苦労なもの
なんだがな。軽い戦争をするぐらい
の気持ちで行かなきゃ死ぬことも
あり得るというのに。少なくとも、
アントリエだとそうだった。
アントリエでは、何百年と戦争を
していない平和な国ではあるが、
親父の方針で"平和ボケをしないため"
という理由で半年に一回程で
ワイバーン討伐遠征が軍の方で
行われる。
死人は出ていないらしいが、怪我人が
出ないことはないらしい。
しかし、アーデルハイトでは違う
ようだった。
あの人の口ぶりからするに
結構な頻度で退治してるっぽいな。
「............」
頭痛がしてきた。
ますます俺を騎士団に
入れる意味が分からない!
不安、そして不安、不審。
思わず、ワイバーンの串焼き二本を
両手に持ったまま、星がよく見える
澄んだ空を仰ぐ。
俺は城になるべく近い宿に泊まる
こたにした。泊まった
部屋でこの国について
改めて考えていた。それはもちろん、
主に俺を迎える理由についてだ。
「おそらく、いや先祖様が
絡んでいるのはほぼ間違いない
と言っていいはずだ。
ってなると、その先祖様が昔
何かしたんだろうが、うーん。
これが雑用係とかだったら
昔失礼なことしたお詫びとか
なんだろうけどな」
何せ、騎士団だ。そんないい加減な
理由で招き入れるほど
騎士団の敷居は低くない。
これは各国共通の事実だ。
そこから考えるに、先祖様の尻拭い
という、何とも嫌な
可能性は限りなく低いだろう。
「そう考えると、うーん」
意味分からん。頭がパンクしそう。
割と頭を使う事に関しては得意と
自分でも自負していたが...。
ワイバーンの串焼きを頬張り
ながら必死に頭を捻らせて見るが
何も出てこなかった。
明日、国王陛下に聞くしかないのか。
でも、気になる。胸中にもやもやと
渦巻く嫌な感じは取れない。
「やめだ、やめ」
ベッドに大の字で倒れこむ。
柔らかいクッションが眠気を誘う。
思考を止めたと同時に
今まで溜まっていた疲れが
どっと押し寄せてきた。
とりあえずは今日はもう寝よう。
....................
ふわぁ~。よく寝たな。
俺はベッドから体を
起こして窓を開けた。
朝の心地いい光とうららかな風が
寝起きの体に気持ちいい。
いや~、昨日は夜だったから
よく分からなかったけど
景色もとてもいいな。
いくら壁に囲まれるとは言っても
たくさんの自然があって
全然囲まれているように感じない。
「いい国だ」
この一言に尽きる。
窓の外から顔を出して、街の様子を
見下ろす。街の民はもう店の準備を
している。あの活気はこの朝の
念入りな準備が影響してるの
だろうか?是非アントリエ
でもそのルーツを生かして見たい。
宿のおばさんにお礼を言い宿を出た。
路地で思いきり空気を吸う。
「朝ごはんはどうしようか....」
辺りを見回すと昨日の串焼きの
お姉さんがいた。どうやら、店仕度
を始めているようだ。
丁度いい。ついでに騎士団について
聞いてみようかな。
「おはようございます。
昨日はありがとうございます。」
声に気付いたのか、振り返る。
「おや?リヒトだっけ?いいのさ
あのくらいお安い御用ってもんさ。
こんな朝早くから
どうしたんだい?」
「いや、実は今日アーデルハイトの
騎士団について知りたいと
思いまして。何か教えて
もらえませんか?」
作業を一旦止めて、うーんと
首を捻る仕草をする。
「騎士団かい?そうだね~。
まず昨日も言ったけどワイバーン
を楽に倒せるぐらい強いのさ。
それに、皆いい人でね~
特に団長のアイギスさんなんて
とても子供の頃に悪ガキだったとは
思えないほど厳格な人でね」
なるほど。続きを促す。
「あの人を中心に統制されてる。
あとね、研究機関もあるんだけど
そこもすごく優秀でね~。
つい最近、空を飛べる...気球?
飛行船?とか言ったものを
発明したそうよ。
私が知ってるって言ったらそれ
ぐらいかな~。どうして
気になるんだい?」
「いえ少し気になったもので。
ありがとうございました。」
「いいんだよ、またおいで。」
串焼きお姉さんにお礼をいい
城へ向かうことにした。
情報をまとめるに...。
ふむ、その団長さんは
相当の実力と見た。
ワイバーンを軽くあしらう軍団の
トップなんて、常人がなしえる
事じゃない。きっと、筋肉隆々で
威厳もある大男
みたいな人なんだろう。
「あっ、朝ごはん...まぁいいか」
今は朝ごはんどころではない。
なんか考えたら緊張してきたな。
失礼のないようにしないと。
朝から賑やかな街路の景色を
楽しみながら、城へと向かう。
................
「どいて!どいてー!」
どこからか声が聞こえた。
ふと、振り返ってみると
妹と同じぐらいの背格好の女の子が
すごい勢いで走っている。何事だ?
もう少し後ろの方を見てみると、
おそらくここの国の兵であろう者が
追いかけている。
「お待ちください、陛下!
今すぐ城へお戻りになって下さい」
「もう!いいじゃない、ちょっと
ぐらい街に出たって!」
「先日、そうおっしゃって
かれこれ夜まで帰ってこなかった
のは陛下ですぞ!」
朝から夜までふらつくか。
それはひどいな。ちょっと
どころではないぞ。兵の皆さん
大変そうだな。
あれだ、スーラで言うところの
「お兄ちゃん!
ちょっと私と 遊んで~」
と一緒の部類だな、きっと。
大概スーラがそういう時は
一日中買い物やら付き合わされる。
スーラ曰く、「女の子の買い物が
予定通りいくことはまずない」
ということらしい。
あぁ、朝からご苦労様です。
俺には関係のないことなので、
さらりと流そうかと思ったが...。
ちょっと待て。聞き捨てならない言葉
が聞こえたぞ。確か、陛下...?
...................?陛下?あの女の子が?
まさかな、いくらなんでも若すぎる。
普通はもっと、威厳とひげのある
年配の男性というのが普通なのだが。
俺がボサーッと立ったまま
考えてると陛下と言われていた
女の子が俺の手を掴み
そのまま走り出した。
「ちょっと、私と一緒に逃げて!」
「は?なんで?」
「国王陛下が脱出を手伝って
って言ってるの!いいから
早く行くよ!」
「意味わからん!」
「分かりなさい!」
理不尽とはまさにこの事を
言うのだろうと体で理解した。
この自称陛下と名乗る女の子に
連れられ俺は街を走り回った。
「なんで、城を目前にして
連れ回されなきゃいけないんだよ」
「文句言わない、口じゃなくて
足動かす!」
あぁ、城がどんどん遠ざかって行く。
なんのために城に近い宿に
止まったと思ってるんだ。
そして、町の皆。なんでそんなに
この自称陛下を応援してんだ。
「頑張って逃げて下さいね!」
とかおかしくないか?
どうやら、この自称陛下の
逃走劇は日常茶飯事の事らしい。
あちこち走り回っているうちに
兵達の姿を見失った。
ようやく自称陛下から解放された俺は
近くの木陰で体を下ろす。
はぁ、体力ないんだなら
勘弁してほしい。ここまで全力疾走
したのは、騎士学校で罰として
走らせれた時以来と思う。
ふと、目をやると
自称陛下は満足げな表情で
息ひとつ乱さず、仁王立ちをしていた。
「なんとか、撒いたみたいね。」
自称陛下はふぅーっと息を吐く。
「脱出を手伝ってくれて
ありがとうね。」
「いや俺はただ一緒に走った
だけだから。で、君は国王陛下?
なの?本当に?」
「なんで嘘言わなきゃいけないのよ。
本当よ、私の名前はエルピス。
エルピス・アーデルハイト」
「へ、へぇ」
もう驚く体力すら残っていなかった。
陛下は、顔を近くまで寄せ
ジロジロと見てきた。
「ふふん、頭がたかーい。
そいや、あなた見ない顔ね
どこから来たの?」
とりあえず、息を落ち着かせる。
「俺は、リヒト・アントリエ。
名前の通りアントリエ王国から
来たんだ。今日城へ挨拶に
行こうと思ってたところ。」
エルピスの大きな目が見開かれた。
なんだ、俺まずいこと言ったか。
「あなたが、アントリエから
騎士団に入る人ね!」
「は、はぁ。そうだけど....」
事情を把握しているようで
助かった。昨日の関所のように
また何かと小言を言われると
思っていたのもあってか、何故か
安心する
「ようこそ!アーデルハイトへ
色々話したいことはあるんだけど」
後ろから、足音が聞こえた。
「もうここまで来たのね。残念。
またお城でね、リヒト。」
「え?」
すると、ゼエゼエ息を切らしながら
先程の兵達がやってきた。
「へ、陛下。さぁ戻りましょう。」
「分かったわ。」
散々連れ回された上に放置ときた。
結局詳しいことは城で話す
ということなのだろう。
俺は元来た道を
トボトボ歩きながら、やっと
城へたどり着いた。
「つ、疲れた」
すると、そこには
メイド服を着た上品な女性が
城の門の前で立っていた。
身長は女性の割りには高い方
であろうか、長い髪を後ろで
綺麗にまとめてあった。
"可憐"という言葉がふさわしい人だ。
その女性は、俺の姿に気づくと
丁寧に一礼をする。その一つ一つの
動作に気品が感じられ、思わず
こっちまで固くなってしまう
程だった。
「お待ちしておりました。
リヒト・アントリエ様。
私の名前はピスティアと申します。
陛下から先程お話は
伺っておりますので
謁見の間まで案内致します。」
「すいません、どうも。」
ピスティアさんに案内され
城の中へと足を踏み入れる。
城の中はとても天井が高く、
真っ白な大理石で埋め尽くされた
床はとても圧巻した。胸の中に
薄い喜びが広がる。
「ピスティアさん、このお城
すごいですね。」
思わず、子供のように声を
弾ませる。
「皆さん、始めてこられた方は
そう言われます。我が国の自慢の
お城なんですよ」
ピスティアは微笑んだ。
アントリエの城もそこそこだけど
これは負けるな。アントリエの城は
ここまで、何というか風格みたいな
物がない。こういうと、かなり
ショボく聞こえてしまうけど。
驚きの連続で気づくと一つの
部屋の前まで来ていた。
どうやらここが謁見の間らしい。
「どうぞ、中へお入りください」
中へ通され、しばし待っていた。
すると、今朝見たばかりのエルピス
がやってきた。
「マジで国王陛下かよ........」
隣にいる目つきのするどい女の人は
誰だろう?とても綺麗だ。
長い金髪にメリハリのある
プロポーション。あんな美人
見たことない。軽く睨まれた。
慌てて目を逸らす。
気を取り直していくことにする。
「アントリエ王国より
リヒト・アントリエ。
ただいま、参りました。」
「うーん、堅苦しいのはいいわ。
今朝、一緒に逃げた仲でしょう?」
「し、しかし...」
「私がいいって言ってんの!」
はぁ、とため息をつく。
すると、隣にいた女の人が
口を開いた。
「陛下、この男とお知り合いで?」
「知り合いっていうか、今朝
兵から追われてた時にたまたま
いたから一緒に逃げてもらったの」
追われたというか、お前を
捕まえに行ってただけだな。
「陛下、たまたまその男が
今回の件の者だったから良かった
ものを、注意して下さい。
身柄を狙うものだったら
ただごとではありません」
「何よ、アイギス。大丈夫よ。
危険な人かどうかを見分ける
目は確かな物と自負してるわ。」
どうやら、隣の女の人の名前は
アイギスというらしい。
アイギス....?確かさっき街で
聞いた名前だった気が...。
「リヒト」
「は、はい!」
「あなたは本日付けより我が
アーデルハイト王国騎士団の...
そうね、参謀として勤めて
もらいから。
くれぐれも騎士団としての
自覚ある行動をお願いね」
一瞬間があった気がするが
気のせいだろう。こんな大事な場で
いい加減なはずが、ない...はず。
俺は早くも不安を覚えつつあった。
「それと。
アイギス、あなたも自己紹介して」
「はっ」
アイギスと呼ばれた女の人は
こう続けた。
「私は、アイギス。
アーデルハイト王国騎士団団長だ。
誇り高き戦士として
頑張ってほしい」
「あなたが、本当に...」
「何だ?何か質問か?言ってみろ」
「いえ、てっきり町人の方から
聞く話によると男の方かと」
ブチッ、という音と聞こえ、
ドス黒い怒気が見えた気がした。
「.....貴様、私が男に見えるか?」
「いや!そのような事はありません!
むしろ、あなたのような美人は
初めて見たぐらいで、初め
見た時は見とれました!」
アイギスの顔はみるみる赤く
なって言った。
あっれ、俺怒らせること
言ったかな?地雷踏んだ?
「.....っ!?」
「あの~?アイギスさん?」
「うるさいっ!美人などお世辞を
言いよって!これだから
男という生き物は!陛下、私はもう
退出させて頂きます。」
すごい勢いで踵を返し
部屋を出て行った。ふと見ると、
エルピスは何やらニヤニヤしていた。
なんだ、やっぱりやらかしたか?
女の人と話す機会と言ったら
妹のスーラぐらいしかいなかった
ため、他の女の人とどう接すれば
いいのかがいまいち勝手が
分からない。とりあえず、スーラが
機嫌悪くなった時に言えばなんとか
なる言葉四十八手の内一つ
"「美人・可愛い」で褒める"
を使ったんだけど...。
「リヒト、あなたアイギスに
よくあんなこと言えたわね~
まぁいいんだけどさ。
あなたには、案内役として
使わせたピスティアを今後
専属メイドとして与えるわ。
わからないことがあったら
彼女に聞いてね~。じゃあ
がんばってね、参謀さん」
「ちょっと、話はまだ...」
終わってない。と言いたかったが
もう遅かった。エルピスは
走ってどっから行ってしまった。
あの様子じゃまた抜け出す
気だろうな。本当にお疲れ様です、
兵士の皆さん。
「リヒト様、部屋へご案内します
ついでに質問もどうぞ。
分かる範囲でお答えします。」
「分かりました。お願いします。」
ピスティアさんに連れられ
部屋へ向かった。その時
軍の訓練が中庭で行われていた。
予想通りと言っていいのか
訓練を受けている全ての兵士が
女だった。どういうことだ。
城に入ってたから、一人も男を
みた覚えがない。確かに使用人は
基本的には女の人だけれど、ここに
いる兵士全てが女の人となると
流石に突っ込まざるを得ない。
すると、ピスティアの姿を
見つけた兵士達が声をかける。
「ピスティアお姉様!
お疲れ様です!この後
お食事でもご一緒にどうですか?」
「いや!私と!」
お姉様...?気にしないでいよう。
こぞって、数人の兵士が
ピスティアさんの元に駆け寄る。
へえ~、ピスティアさんって
人気あるんだな。
確かに綺麗だし、優しそう
だもんな、うんうん。
微笑ましい光景に後ろから
見守ることにする。
「ごめんなさいね、あなた達。
今日はリヒト様の世話を
しなきゃいけないから
出来ないわ。また今度
誘ってちょうだい。」
「はぁ、そういうことでしたら。
え?男!!」
ピスティアさんが俺の方に視線を
向け、それを追うように兵士も
俺に視線を向けた。
なんだ、その反応。アイギスさん風に
言うなら、俺が女に見えるのか?
ってとこだ。失礼な。
「事情はあとでアイギスが
伝えるはずよ、それを聞いてね」
そうピスティアさんが言うと
また歩き始めた。
後ろから様々な視線が
寄せられていること
は言うまでもない。
それよりも、質問しないと。
「あの、城へ入った時から
思ってたんですが...」
「ピスティアさんって綺麗ですね
ですか?」
「ち、違います!」
「あら、傷付きましたわ」
ピスティアさんは冗談っぽく
泣き真似をした。
一つ一つの動作がとても可憐だ。
思ってたよりも、真面目すぎない
人なのかもしれない。
「いや、綺麗ですけど聞きたいのは
そういうことではなく!」
「あらあら、ありがとうございます。
城の中に女性しかいないのは
どうしてかって聞きたいのでは?」
「は、はい。」
「そうですね、まず一つ理解
して貰いたいのは女尊男卑では
ありません。一言で言うならば
伝統、ですかね。」
「伝統....。」
「いつからってのは私も把握
してませんが、昔から
国の直属の機関は全て女性で
構成されております。リヒト様も
感じた通りこの国は大変
女性が多いです。そうですね~、
男女比は3:7ぐらいですね。
詳しい話はアイギスか、陛下に
お聞きになる方が宜しいかと」
「は、はぁ。分かりました」
思うに、この極端な男女比も
おそらく理由があってのこと
だろうと確信する。
「はい、こちらがリヒト様の
お部屋になります」
「ありがとうございます」
「何かあったらお呼び下さいませ」
ピスティアさんと別れ、ドアを開け、
部屋の椅子に腰掛けた。
まだ腑に落ちないが、詳しい事は
あの二人が知っているらしい。
そこに、先祖様が絡んでいるとみた。
この件は今度聞いてみよう。
しかし、参謀か。
我ながらピッタリだな。てことは、
先祖様も参謀だったのか?
でも、なんか適当に命名された
気がするが...まあ、いい。
とりあえず、城の中でも
見学するとするか!
俺は勢い良くドアを開けて
まだ知らない世界へと踏み出した。
次回、もう少し
国について触れて行きたいです