君の温もり
「いつまでも、こうしていたいね」
「…まあ、むりだろうけどね」
彼女が俺の上で声を出す。
かなり狭い隙間のところで、俺たちは身動き一つ取れない状態になっていた。
「というか、どうしてこうなったのかな」
「えーっと、俺たちが学校から帰る最中に、誰かが道を聞いて……」
それ以降の記憶が無い。
おそらくは、そこで拉致されたのだろう。
わかっているのは、彼女が今俺の上にいるということと、周りがよくわからないものだらけで、どうにか寝返りを45度ぐらいまでなら取れるということだ。
ここがどこなのか、なぜ俺達が拉致されたのか、誰が拉致したのかなどは、全くわからない。
「…せまい」
「我慢しろよ」
俺が言うが、たしかに狭い。
誰かが助けに来てくれるまで、じっと待つしか出来ないようだ。
それからいくらかの時間が過ぎたとき、外で声が聞こえてきた。
こっちだとか、ジャッキを持って来いといった声だ。
「…誰か来た?」
彼女はもう起きているようだ。
「どうもそのようだな」
何事かわからないから、俺達は静かにしていた。
そして、ガチャンとガラスが割れるような音が聞こえ、一気に光が襲いかかってきた。
「もう大丈夫だ!」
「こっちにいたぞ!」
誰かが叫ぶ。
犯人グループは、人身売買組織の一味だったらしいのだが、残念ながら取り逃がしてしまったらしい。
いろいろと調べながら、ここに辿り着いたということだと、後で聞いた。
俺達は経過入院をしたものの、特に何事も無く、家に帰ることができた。