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味
分かっていると思っていても
実は分かっていなかったりするのだ
今日 花の味が分からなくなった
舌のうえに広がる甘さは 確かにあるのに
昨日 布団の香りが分からなくなった
太陽を浴びた温もりは 確かにあるのに
今日 靴の音が分からなくなった
踏みしめられた大地の揺れは 確かにあるのに
昨日 縦と横が分からなくなった
揺さぶられぶつかる波は 確かにあるのに
今日 海の色が分からなくなった
手に触れる冷たい水は 確かにあるのに
昨日 右の脚が分からなくなった
支えを欲するこのからだは 確かにあるのに
ひとつ ひとつ ひとつ
確かに分からなくなっていって 朽ちていくことを
望んだのは 願ったのは いつだったろう
始まったのは 叶ったのは いつからだったろう
そしてそれが 通りすぎていったのは
いつからだったろう
もう思い出すことはできない
もう思い直すこともできない
ただ流れるままに溶けていくのを みているだけ
明日 壁との距離が分からなくなるだろう
ぶつかる痛みは 確かにあっても
明後日 風の優しさが分からなくなるだろう
吹かれて揺れて頬にあたる髪は 確かにあっても
明明後日 触れる指の柔らかさが分からなくなるだろう
戸惑い寄り添う気配は 確かにあっても




