7
このゲームでは決闘モードというものがる。
対人戦にはルールが必要だからだ。
間違っても相手を殺してしまわないように。
決闘モードでは勝利条件を決めて先にその条件を満たしたものが勝つというものだ。
今そのシステムを使用しているところ。
「アル。ルールはHPが3割以下になったら負けでいいな?」
「あぁ。さっさとはじめようぜ」
俺はルールを設定して、決闘ボタンを押した。
「決闘モードを開始します。両者とも用意ができたら武器を構えてください」
そうシステム音声が流れた後、俺達は武器を構えた。
「決闘──開始」
その音が頭に響いた瞬間。
俺は目の前の敵に切りかかった。
だがシステムアシストを全く受けてない俺の攻撃はただ刃物を振り回しているだけだった。
アルは違う。俺の攻撃を《サイドステップ》で右に避けたあと、
綺麗な太刀筋で俺に下級剣技の二連撃を俺の体に打ち込んだのだ。
実際の痛みとは違い、身体が痺れるような感覚がする。
その後もシステムアシストの綺麗な剣筋に蹂躙されて俺は負けた。
俺に入った経験値は0
アルの方に耳を傾けてみると、レベルアップの音が響いていた。
ちなみにこの決闘モードではわざと負けて経験値を稼ぐの防止するために、
本気でやらないと経験値が入らない仕組みになっている。
俺はHPが自然回復するのを待ち、HPが満タンになったら再び決闘。
この行動を腹が減るまで続け、食べ物を取りに行くことにした。
「このエリア内にあると非常にたすかるのだがな……」
なんといってもこの聖なる泉ではモンスターがでない。
それだけが唯一の救いなのだ。
このエリア内にあればモンスターに出会わなくて済む。
そんな事を考えてエリアをくまなく探した結果。
「おーいミナト。あったぜ!」
そんな吉報が耳に入った。
すぐさまその場所に向かうと大きな木にいくつもの木の実が生っている。
「どうやって取るんだ?」
採集スキルがあればシステムアシストの力で簡単に取ることができるのだが、生憎そんなスキルは持ち合わせていない。
「とりあえず木でも揺らしてみれば?」
アルにそういわれたので揺らしてみたが、びくともしない。
かれこれ10分くらい思考錯誤してが全く取れなかった。
そして頭に血がのぼった俺は何を思ったのかおもむろにダガーを取り出したのだ。
「おいそんな物取り出してどうするつもりだ?」
「投げる」
そう言ったあと投げた。
そしたら良く、木の実と枝のつなぎ目にあたり、木の実が落ちたのだ。
「うそ!?」
自分でやっておいときながら自分でビックリしたのだ。
すかさず木の実を回収した俺はアイテムを確認する。
《カルの実》HPを大量に回復する。
「すげぇ。木の実で大量に回復するアイテムなんてβ時代にはなかったのに……」
よし。このままガンガン取るぞ!
そんな事を考えていたが──
──この後、俺は何度もダガーを投げたが、一回も成功しなかった。
この日はこの実を二つに分けて食べる事にしたのだ。
「うめぇ!!」
アルが大声叫んだ。
そんなにおいしいのかよと思い、俺も食べてみたら。
モモとパイナップルを混ぜたような味が口に広がった。
ミックスジュースを食べてる気分になったのだ。
「たしかにおいしいな」
そんな事を思っていたら、あっというまに食べ終えてしまった。
正直物足りないが我慢するしかないのだろう。
「なぁミナト。今日はそろそろ寝ようぜ」
このゲームでは睡眠が存在する。
必ず必要というわけではない。別にとらなくても大丈夫なのだが、精神安定上のため取る人もいる。
基本は宿屋で寝るのが普通だが、俺達は洞窟の中の凸凹した地面で寝なきゃならない。
「あぁ。そうしよう。今日はもう疲れたわ」
そういって焚き火をの火を消した。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
そういってから時間が結構経つのだが、なかなか寝れない。
今日は色々ありすぎて頭の中でいろいろ考え事をしてしまうのだ。
雅達の事とか。
帰ったら謝らなくちゃいけないと思っていたのに、こんなクエストに幽閉されて……。
──葵と喧嘩別れになっちまったな。
このクエストが終わったら──ちゃんと謝ろう。
そのためにも雅たちには生き残ってもらわないといけないのだ。
「大丈夫かな……」
小さい声でつぶやいた。
そんな事言ってもしょうがない。今はこのクエストを成功させることだ。
そしてレベルを上げる事が重要。
俺は何とかしてアルにダメージを与えるために、刀の素振りをすることにした。
システムアシストが受けれないのなら、受けなくても強くなればいい話なのだから。
そう考えた俺は素振りをしながら朝日を迎えたのた。
これがデスゲームの一日目の事の顛末である。
──デスゲームが始まってから1ヶ月目を迎えようとしていた。
俺の毎日は朝から夕方になるまでアル決闘で負けたら自然回復して再び決闘の繰り返し。
俺は全くダメージが当てれず経験値が全く入らない。
アルもう職業は初心者から剣士になったみたいだ。
技のレパートリーも増えてるらしい。
夕方になったら俺が木の実を取りに行ってダガーを投げて落ちた木の実を拾う。
最初はなかなか取れなかったけど、最近は結構調子が良くなってきた。
五回に一回は当たるようになってきた気がする。
夕食は持ち帰ったカルの実を二人で食べる。
食ベた後はアルが寝る。
俺は一人で刀のイメージトレーニングをを三時間ほどした後寝る。
これを一ヶ月近く繰り返してきたのだ。
これからも続けていくのだろう。
どんなに辛くても続けないといけないのだ。
──生きて帰るために。
そんな事を考えていた。
気づくと時間は後一分で日付が変わるところだった。
──惜しい。
どうやらこの世界に来てからも、思うことはそんなに変わってないらしい。
ふともう一度見ると──
世界が零時を迎える瞬間だった。
それと同時に勝手にシステムが起動した。
「ミナト様の職業が《初心者》から《ニート》に変わりました。」
「えっ……?」
あまりの衝撃にシステムに返事をしてしまった。
慌ててステータスを確認する。
ミナトLv3:ニートLv1
空きスロット6
マジだ。ほんとにニートになりやがった……。
嘘だろ……。
都市伝説は本当だったのかよ。
オープンβ時代終了時にネットの掲示板で「職業がニートになったんだけどwww」という書き込みが一件あったのだ。
その時はだれも信じたりしなかったが、どうやら本当だったらしい。
そういえば掲示版で思い出した。このゲームでデスゲームが開始された時に掲示板のシステムが導入されたんだった。
試しに使ってみよう。
いつもの動作でシステムを起動した。
掲示板の項目を見つけたが、現在使用できませんとの事。
なにも出来ないのかよ……。
まぁいいや。
そんなことはどうでもいい
とりあえずは説明文を見よう。
《ニート》:どうあがいてもニート。
変な意地を張ってスキルを1ヶ月間取らなかった者がなる事が出来る。
重さ1以上の防具を装備することができない。
ステータスが二倍。ただしニートには意味が無い。
主に引きこもるとニートレベルが上がる。
──なんだよ。これ。
状況は最悪だと思っていたのにそれ以上に悪くなってやがる……。
──もういいや。
──どうにでもなれよ。
俺はもう寝るわ。
──一ヶ月目の出来事だった。