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「おせぇよ。ミナト!!」
剣を振るいながらアルは言った。
「すまん。あいつ等を先に行かすのに時間が掛かった」
刀を抜きながら俺も言う。
「ほぉ。お前、死にに来たつもりか?」
「そんなところだろ?お前も。」
「──ところが、どうだろうな?」
「ん?」
「HPバー見てみろよ。」
言われたとおり目をやると。
一番左のオークのHPはもうレッドゾーン突入しているし、
真ん中のオークと右にいるオークもイエローゾーンだ。
それなりにこのパーティーが奮闘したようだ。
「行けるか?」
アルがそう聞いた。
「やってみなけりゃわからねえな」
こっちは四人だ。
手堅くやって行けばいけるかもしれない。
まずは左のオークから叩こう。
俺は現在刀スキルも持っていないので技なんてものは持ってないが、
オープンβ時代の感覚を見よう見まねやってみた。
──《燕返し》
刀スキルをLv30まで上げると一刀流刀道場で覚える事ができる技だ。
技の説明では──
一の太刀:頭上から股下までを断つ縦軸
二の太刀:一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡
三の太刀:左右への離脱を阻む払い
を三重斬撃を繰り出す。
とたしか書いてあった。
技の熟練度が上がれば上がるほど高速で繰り出す事ができ、最終的には同時に限りなく近い速さで繰り出してほぼ不可避の斬撃になるとNPCが教えてくれた技だ。
それをシステムアシスト無しでどこまで繰り出すことが出来るか物は試しだ。
──まずは踏み込み。
間合いを一気に詰める。
そして一の太刀。
オークの正中線を意識して断つ。
次に二の太刀。
と思ったところで、オークが消滅したのだ。
どうやら一の太刀でHPを削りきったらしい。
それにしても今の感覚じゃ全然ダメだ。
不可避の斬撃に遠く及ばない。
これじゃぁ、システムアシストの方が断然いいだろう。
そう考えていると、後ろから声が聞こえた。
「ミナト!後ろだ!!」
振り返ると棍棒が振り降ろされていた──
俺はどこかぎこちないサイドステップでギリギリかわし、
己の感覚に身を任せた袈裟切りを繰り出す。
──その時だった。
「うわああああああああああ」
生き残ったパーティーの一人が悲鳴をあげた。
声の方向を見るとHPが0になっている。
オークの棍棒が直撃していたのだ。
この世界における死。
それはポリゴンがバラバラに砕け散る瞬間だった。
そして彼は二度と戻る事が出来なくなったのだろう。
俺はそれを考えた瞬間足が震えだした。
彼らもそうだったのだろう。
途端に怖くなった。
──逃げる。
脳裏にそんな言葉が思いついた。
俺はそれを実行しようとしたのだ。
──が。
「こんな戦いやってられるかよ!!」
そう言い残して逃げ出したのは俺ではなく、生き残った最後の一人だった。
残ったのはアルと俺。
オーク二体囲まれた。
「アル。すまない。俺もさっき逃げる事を考えていた所だった」
「逃げたきゃ逃げてもいいんだぜ?俺はあいつ等を助けるためにここに着たんだ。一人はやられちまったが、一人は逃げて助かったじゃねぇか。それでいいんだよ」
こいつの器は大きいな。
うらやましいよ。
俺はアルのこういう所に憧れているのかもしてない。
俺もアルみたいになれたら──
ふとそう思ってしまったのだ。
「逃げたくても、この状況じゃ厳しいだろ──?だったら戦うさ。それしかないんだから」
「わかってんなら、謝ってるんじゃねぇよ。」
「そうだな」
モンスターやプレイヤーにも急所が存在する。
そこつけば、ちまちまダメージを与えて削りきる必要がないのだ。
俺はオークの首を狙いを定めた。
「アル。そっちのオークは任せた。」
「了解。そっちも任せたぜ。」
「あぁ。」
そう言葉を交わした後──
《居合い切り》を繰り出した。
狙い通りオークの首を断った。
HPバーを見ると消滅していた。
レベルアップの音が鳴り響く。
勝ったのだ。
「ミナト。こっちも終わったぜ。」
「生き残れたな。」
「あぁ。」
今日はもう帰ろう。
そして葵と雅にも謝ろう。
そう考えてながら、ドロップアイテムの回収していた所だった。
「ミナト。これ見てみろ。」
「どうかしたのか?」
「死んじまった奴等のアイテムを回収していたんだが、どうやらクエストが発生したみたいなんだ。」
見てみると。
クエスト名:願い。
クエスト難易度:O級
依頼主:匿名
クエスト内容:???を二つ手に入れる。
このクエストを受けますか?yes/no
「なんだこれ?内容が適当すぎじゃないか?」
本来のクエストは概要や説明などがしっかり書かれているものだ。
それに比べてこれは明らか適当すぎる。
「たしかにおかしいな。でも、達成できなくても報酬がもらえないだけだし、一応受けとかないか?」
「それもその通りだな。」
──そういってyesを押したのだ。
のちに俺は後悔することになる。
クエスト難易度O級の意味は──
Oh my God!級という意味とも知らずに。
戦闘シーンの描写はやっぱり難しいですね。