4
──ドンマナ。
某ゲームにおけるスライム的な立ち位置のモンスターだ。
始まりの平原に多く出現する。
当然の如く弱い。
見た目はキリギリス。
普通のキリギリスよりは全然でかいので正直びびる。
β時代の時に初めてコイツと敵対した時は逃げ回った記憶が頭の中に残っている。
現在は雅と葵の攻撃を繰り出す練習中だ。
基本的にシステムが理想的な姿勢で攻撃を繰り出してくれるから問題ないのだが、
──モンスターに対する恐怖。
目の前にリアルなモンスターがいたら誰だって驚くだろう。
ましてやそのモンスターと戦う事になったらそれなりに恐怖という物があるはずだ……。
それも自分の命がかかっているというのなら──尚更。
この先アンデット系のモンスターなども出てくるのだろう。
どんな相手で戦えるメンタルの強さを徐々に鍛えていかないとこの先を生きていけない……。
──といっても二人とも現段階では問題ないようだ。
臆することなくモンスターと十分に戦えている。
二人のレベルもあがってきた所だし──そろそろ場所変えてもいいだろう。
ミナトLv3:初心者Lv3
空きスロット6
ミヤビLv3:初心者Lv3
風属性魔法Lv5, 回復魔法Lv2,隠蔽Lv1,索敵Lv1,空きスロット2
アオイLv3:初心者Lv3
槍Lv5,盾ガードLv2,サイドステップLv3,バックステップLv3,空きスロット2
アルLv3:初心者Lv3
剣Lv5,ジャンプLv2,サイドステップLv3,バックステップLv3,空きスロット2
「三人とも、そろそろ場所かえないか?」
「そろそろここに来る奴等もいるだろうし──いいと思うぜ」
アイテムドロップを回収しているアルが言った。
「僕も賛成だね。」
「私も」
「アル、俺のスキルのこともあるし、ミルドの村を目指して夕闇の森あたりはどうだ?」
ミルドの村は始まりの町の東に位置する。ただしそこに行くには夕闇の森を抜ける必要があるのだ。
夕闇の森の敵は比較的弱いが稀に《オーク》が出現する。
オークは初心者相手にはきついが、このパーティーなら出てきても大丈夫だろう。
「悪くないな──あそこなら他のパーティーとも出会わないだろうし」
「それじゃぁ、準備が出来たら出発するぞ」
「おう」
俺たちは始まりの平原を後にした──
──視界が悪い。
どうも薄暗いのだ。
夕闇の森では戦闘になれるまで時間かかることで結構有名だ。
木々があちこちにあるので思うように動けない。
アサシンなどの職業はこういった場所を得意とするのだが、うちのパーティにそんな奴はいない。
狭い空間での戦闘は色々と変わってくる。
雅と葵にも良い経験になるだろう。
──イノシシ。
直線突撃攻撃の突進のみを繰り出してくるモンスター。
喰らえば結構なダメージを受けるが、
攻撃をよけること自体が簡単なので比較的倒しやすい。
また、突進の途中で木にぶつかると混乱状態になるのでほとんどカモに近いのだ。
夕闇の森で一時間くらいコイツを狩り続けた結果、
そこそこ経験地が入ったのでレベルも上がった。
そろそろ日没だからミルドの村に向かうとしよう。
何しろ、俺が刀スキル無しで戦うのそろそろ限界がある。
そういう事なので提案することにした。
「なぁ、日も暮れてきそうだし──ぼちぼちミルドの村に向かわないか?」
この夕闇の森では日が暮れてくると稀にだが、オークが出現する。
初心者殺しといってもいいだろう。
可能なかぎり出くわしたくないのだ。
「そろそろまずいな。出来るだけ急ごう」
それなりに危機感を感じてきたのだろう……。アルが顔しかめて言った。
急いで二十分でこの森を抜けられるかどうかだ……。
俺たちは移動を開始した。
この後、もう少し早く移動をしていればよかったと俺は後悔することになる。
◇◇◇◇
──十五分後。
「兄さん。東方向に何かいるよ」
雅の《索敵》スキルだ。
このスキルは非常に便利だ。
あらかじめ敵に位置を把握できれば、奇襲をかけることも出来るし、隠れてやり過ごすことも出来るからだ。
雅にそう言われて目をやる。
目を疑った。
悲惨な光景だった。
オークだ。
一体ではなく三体。
向こうはこっちに気づいていない。
それもそのはず。
オークは他のパーティと対峙しているからだ。
対峙というより蹂躙に近かった。
俺が認識できたプレイヤーは二人。
地面を見てみると鎧などの装備が二セットあった。
やられてしまったのだろう。
一人はもう足が震えている。
もう一人は「死にたくない」と何度も連呼していた。
「ミナト。俺は行く」
そう一言残して、アルは悲惨な場所に向かったのだ。
後は俺だ。
オーク一体と戦うのすら満身創痍だというのに、三体同時に戦うというのは死にに行くようなものだ。
アルも同じだろう。
それでも助けに行ったのだ。
死の恐怖を抑えて。
──だが、俺が行ってどうなる?
スキルは何もない。
装備してる刀を適当に振るだけ。
システムのアシストを受けてない俺に何が出来る?
そんな意味のない自問自答を続けていた。
逃げる口実を作っているだけだった。
そんな自分が嫌になった。
だから俺は──助ける。
そう決意したのだ。
「雅、葵をつれてミルドの村に向かえ。俺とアルは後から行く」
まだ戦い慣れしてない二人には無理だと思ったのだ。
そりゃ、二人も含めて戦えば勝率は上がるのだろう。
それでも、二人には何があっても生き延びて欲しかった。
「兄ちゃん。僕たちも戦えるよ!」
一番言って欲しくない言葉を葵は返した。
少しためらうがここは言うのしかないのだろう。
「戦える事なら勇気があれば誰だって出来る。でもそれは倒せると同じ意味にはならない。倒すためには技術もいるんだ。だからはっきり言おう。お前達は──」
──邪魔だ。
そういったのだ。
実の家族に対して。
俺はここで二人に死なれたら一生後悔すると思ったからだ。
「私たちがいたら──邪魔なの?」
雅が俯きながら言った。
正直、すまないと思ってる。
でもお前達のためなんだ。
「あぁ。いない方がマシだ」
「兄ちゃん。言っていい事と悪い事があるよ」
そうだな。
俺もそう思ってる。
だが俺は続ける。
「これは遊びじゃない。命を懸けているんだ。その場で足手まといがいたら邪魔だろう?だから先に行けといっているんだ」
そう俺はこう言っているのだ。
──お前達は生きてくれ。と。
本気で死を覚悟して言っているのだ。
「わかったよ。邪魔者は先にいけばいいんだろ?」
「あぁ。」
「じゃぁな。ミナト」
この時、葵は兄ちゃんと呼ばなかった。
「じゃぁな。アオイ」
──そう残して。
戦地に向かった。